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ヒナドレミのコーヒーブレイク        よそ者

 我が家から北方向へ20分ほど歩いたところに、その建物はあった。それは いつ見ても、四季さえ分からない無味乾燥で無機質な灰色の壁で覆われていた。勇気を出して「あれは、どういう建物なんですか?」と近くを通りがかる人に聞いても、誰も知らないと答える。本当に知らないのか、教えたくないのかは定かではない。 風の噂でそこは宗教関係の建物だと聞いた。

 そして、我が家から南に20分ほど行ったところには、祠(ほこら)や石仏のようなものが鎮座している一角がある。この村・・・集落というのだろうか・・・の信仰心のようなものが伺える。

 私がこの家に引っ越してきて、およそ1年が経つのだが、この集落の人たちは 皆 近寄りがたいオーラを出している。よそ者とは口を聞きたくない、よそ者を寄せつけたくないと、貝のように 頑(かたく)なに心を閉ざしている。

 一年経った今でも、この集落の人たちは私をよそ者扱いしているのか、 私を冷たい目で見てくる。しかもそれを隠そうとはせず、あからさまに私を怪訝そうな目で見る。私は他県から来たよそ者には違いないが、何もそこまでしなくても、と思う。そこまでして守りたい何かが、そしてよそ者に教えたくない何かが、この集落にはあるのだろうか?と勘ぐってしまう。いや、実際にあるのかもしれない。

 そんな中で、一人だけ私に親切にしてくれる人がいた。彼女は他県からの移住者で、年齢が近いこともあり2人は自然に仲良くなった。彼女は3年前からこの集落に住んでいるそうだが、やはり初めのころは半端ない疎外感に苛まれていたと言う。そして最近でもそれは続いているが、当初よりは幾らかマシになったようだ。「きっと後2年もしたら、あなたも少しはこの集落に溶け込めるわよ」彼女はそう言って、私を慰めてくれた。

 だからと言って私は、こちらから積極的にこの集落の人たちに近づこうとはしなかった。(全ては時間が解決してくれるだろう)私はそう考えていた。たが 甘かった。

 仲良くなった彼女の言う3年が経ったが、一向に疎外感は消えていかなかった。それどころか、嫌がらせのようなことが しばしば起きるようになった。

 我が家の庭にゴミを捨てられたり、家の壁に『出て行け!』の落書きをされたりした。彼女に相談すると、「仕方がないわ、私たち よそ者なんだから」と言われた。そして、いつしか 彼女まで私の前を去っていった。(きっと私とつき合うなとでも言われたのだろう)私は彼女からも疎外されてしまったのだと思うと、居場所がなくなるのとともに、やるせなさが襲ってきた。「引っ越そう」                         完 

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