来世も女がいい
仕事を始めて一番驚いたことは、大人が私の話を聞いてくれることだった。
誤解なきようにお伝えしたいのだが、親を始めとする周囲の大人は私の意思を尊重してくれたし、やりたいことは大体やらせてくれた。決して虐げられてきたわけじゃない。
でも、私が社会問題や政治のことを話しても、難しいことを知ってるのね止まりで議論の相手はしてもらえなかった。子犬が何かキャンキャン吠えてるね、という視線が不快でたまらなかった私は、次第にそういった話題へ言及することをあきらめるようになった。
なのに!社会人になるとこんなに話を聞いてもらえるもんなのか!(※聞いてもらえるというだけで賛同を得られるかは話は別)社会人めっちゃいいじゃん!!
そう思っていた時期が私にもありました。。。
ところで、私の職場は小規模事業所なので、電話がかかってきたときに秘書さんの手が空いていない場合は私が出る。職場にかかってきた電話なので、まず職場名称を名乗ると、ほぼ100パーセント秘書だと思われる。で、タメ口きかれたり上の人出せと言われる。いや、あなたが今話しているのが『上の人』なんですけど…
社会人女性ならわかってもらえると思うのですが、なんで若い女が電話に出ると横柄な態度に出る人多いんでしょうね。特に営業電話かけてきてるのにあんな態度とったら取れる契約も取れないと思うんだけど。うちの秘書さんには、電話での態度が悪い奴がいたら報告してくださいと頼んでいるので、何度営業かけてきても無駄だよ。うちの大事な秘書に嫌な思いさせるやつきらーい。
話逸れましたが、周囲の人が私の話を聞いてくれていたのは、社会人になったからではない。私にある程度の社会的地位があるからだったのだ。
翼をくださいという歌の歌詞に
いま富とか 名誉ならば
いらないけれど 翼がほしい
というくだりがあるが、私は名誉(社会的地位)はほしい。翼があるよりずっと生きるのが楽になる。
私は早く年を取りたかった。肩書なしでまともに扱ってもらえないのは、自分が若造だからだと思っていたから。
そうして数年が過ぎ、同期たちと何気ない話していたときに第二の壁がやってきた。
自分の仕事は基本的には一人でやるが、場合によっては人の力を借りることもある。同業者の先輩と共同でやることもあるし、外国語通訳を頼むこともある。男性の同期たちは、通訳人の中でスキルが高いのは〇さんだ、とかこういう研修を受けている人がいいらしいとか情報交換をしているのを聞いて、私は愕然とした。自分はそういう情報を持っていない、というかそういう発想がなかったのだ。
私が仕事の相棒に最優先で求めることは、仕事のスキルではない。変な人か否か、端的に言えば『私に危害をくわえてこないか』ということだった。
仕事の帰りにバスの中で太ももを触られた。
打合せ中に髪を触られた。
打ち上げで、お前とならセックスしてもいいと言われたこともある。
二度と思い出したくないことをされたり言われたりして、そのたびに相手を『ブラックリスト』に入れた。数年キャリアを積めば、各分野に信用出来る人脈ができるので、そこから選ぶ。どうしても人脈がない場合は、同性を選ぶしかない。仕事ぶりに疑問があっても身の安全には変えられないからだ。
私は、されたこと自体も怖いが、仕事の付き合いで身元もわかっている相手に犯罪まがいのことをするという理性のなさがおそろしかった。こんなひどいことなどしない男性がほとんどだということは私も知っている。ただ、一人でもよからぬ人間という外れくじがあったら警戒せざるをえないのだ。
女じゃなければ、自分の身の心配をせずに仕事の質の向上に集中できる。でも私にはそんな贅沢、ゆるされたことがない。
自分には男性の苦労はわからないし、逆に女性であるがゆえのメリットも無自覚に享受しながら生きているのだろう。
また、性別以外にも職業や家族構成、学歴や職歴、世の中にはたくさんの差別がある。私は性別以外のカテゴライズでは差別する側にあるかもしれない。
秘書だと勘違いしてきた相手が、私が責任者ですがと名乗った後に平謝りしてくることに暗いよろこびを覚えたことはなかったか。男性に対して、必要以上に威圧的な態度で反論したことはなかったか。おそらく、私に差別を糾弾する資格はない。
それでも、身の危険を感じるたびに私は差別の存在を思い出す。私にとって、女であることは十字架だ。女でなければもっと無自覚に差別に走る人間になっていたと思うので、戒めのためにも自分は女でよかったと思う。
ただ、来世は、十字架としてではなく女に生まれてよかったと思える社会であってほしい。
~~~~~~
これは、オーシャンズ8を見ながら書いた文章でした。
書き終わってから、あまりに映画の内容とかけ離れたものになったことに違和感を覚えて下げたのですが、今週のMIU404を見て、また同じことを考えたので再掲。
青池さんの次の人生に光あれ。
というnoteを書いたことを最近の映画業界の性加害報道で思い出したので再々掲。