とあるワートリ夢女のひとりごと─戸籍『いじり』問題の考察─
※この文章は、ジャンプスクエアにて大人気連載中ワールドトリガーの最新話ネタバレを含みます。
以下の文章は、最新話で一コマも登場していないにも関わらずSNSで話題沸騰、戸籍いじりおじさんこと唐沢営業部長の有能な部下である私(強めの幻覚)が感情の赴くままに書いた文章です。
最初に考えたこと
瑠花嬢と陽太郎の立場やマザートリガーの詳細など、わからないことはまだまだ山盛りです。いつものように葦原先生の手のひらで踊らされているのでしょう。ですから、あくまで現時点で判明している事実を前提としての印象になるのですが、例の戸籍いじりセリフについて初見で思ったのは
……戸籍あるんかい!!
ってことですね。二人の立場を考えれば、行政に頼らずとも、ボーダーは衣食住、教育など万全なフォローをするはずです。瑠花嬢と陽太郎の存在自体を隠したいなら、あえて無戸籍という選択肢も十分考えられるわけで。実際、日本にはさまざまな事情で無戸籍の方がいて、これは大きな社会問題になっています。
何らかの事情で無戸籍状態にある人が戸籍取得を考えるきっかけとしては、誰かと結婚や養子縁組をする場合、学校教育を受けたい場合、健康保険や年金などの公的給付を受けたい場合、パスポートを取得したい場合あたりが多いかなと思いますが、このへんを考え始めると闇がひろーがるー(@トート閣下)のでこの文章では触れないでおきます。
※なお、学校教育に関しては、無戸籍であっても市町村が居住実態を把握していれば学齢簿を編製し、就学手続を行うよう文科省から通知が出ています。
以下では、唐沢営業部長が具体的にどのように戸籍を『いじった』のか、検討していきたいと思います。
国籍問題
そもそも、二人は戸籍云々以前に外国人?なんですよね。戸籍を得るには、まず日本国籍が必要です(当たり前体操)。日本国籍を得るには、
①出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
②出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
③日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
これら3つのうちどれかを満たす必要があります(国籍法2条)。なお、上記3つの条件は出生のタイミングで国籍を得る場合であって、このほかに外国の方が帰化という方法で日本国籍を取得することもあります。
陽太郎の場合
本誌によると、陽太郎がアリステラから連れ出されたのは生まれたばかりのころです。その状態から戸籍を作る方法は実はシンプルです。
まず、国籍の問題ですが、上記の3条件ですと、正直に申告するなら③になります。アリステラ云々の話は極秘ですから、捨てられた子を拾いましたと説明することになるでしょう。
戸籍法によれば、捨てられた子(棄児)を発見した者は24時間以内にその旨を市町村長に申し出なければなりません。
申出を受けた市町村長は、その子どもに氏名をつけて本籍を定めた上、附属品、発見の場所、年月日時その他の状況並びに氏名、男女の別、出生の推定年月日及び本籍を調書に記載します。この調書が出生届とみなされます。ここでやっと戸籍ができますので、林藤さんなりなんなりと養子縁組をすることになります。
個人的には、あの唐沢部長が馬鹿正直にこの子には親がいませんと申告すると思えないんですよね。となると、シンプルに3条件のうち①であるとして戸籍を作ったのではないでしょうか。要は、林藤さんのご親戚の日本人女性が産んだ子としてダイレクトに出生届を出しちゃうのです。国籍も戸籍も一挙解決ですし、養子ではなく実子として戸籍にのります。一つ問題があるとすれば、出生届を出す際には出生証明書の添付が必要になりますが、医者に偽造してもらうなどここで唐沢部長が暗躍したのでしょう。かっこいいですが違法です!!よい子はマネしないでね。
瑠花嬢の場合
では、瑠花嬢の場合はどうか。
実は、瑠花嬢は陽太郎のケースとは大きく異なります。なぜなら、彼女が来日した時点で11歳であるからです。
戸籍実務においては、出生後何年経っていても、
Ⅰ 子どもの出生届出義務者が存在する場合は出生届による
Ⅱ 出生届義務者が不在の場合は
ⅰ 発見時点で10歳に満たない場合には、市町村への棄児の申し出による
ⅱ 発見時点で10歳以上に達していた場合は就籍の手続による
とされています。
正直にやるならば…
当時11歳の瑠花嬢に実親はいなかったわけなので、Ⅱ-ⅱの就籍によることになります。
就籍の手続きというのは、就籍許可審判の申し立てのことです。具体的には、幼少時に親と死別して本籍地がわからなかったから戸籍がないとかなんとか説明して就籍予定地を管轄する家庭裁判所に申し立てをし、就籍許可審判を得られたら就籍届を出すことになります。
と説明はしましたが、私はこの方法をとった可能性は高くないと思います。なぜなら、この申し立てを受けた裁判所は、申立人が日本人であるか、本籍を有しないのか職権調査を行いますが、瑠花嬢のケースはそもそも日本人であるか確認できないとして却下される可能性があるからです。却下された場合は国を相手に国籍存在確認の訴えを提起する必要が生じますが、瑠花嬢の身の上を考えると、そんな大ごとになるリスクは取らないでしょう。
となると、瑠花嬢の戸籍は
国籍で揉めるのを避けるなら、陽太郎と同様、出生届によることになりますね。
日本国籍を持つ母親(を名乗る忍田さんの親戚)が出生届を出せば、上記国籍の問題はパスできることになりますが、当然の疑問として、なぜこれまで出生届がなされなかったのか説明が必要です。
冒頭で少し触れましたが、日本における無戸籍問題の原因としては、いわゆる『離婚後300日問題』があります。詳しいことはそれぞれお調べいただければと思いますが、要は離婚後300日以内に出生した子どもについて出生届を出すと、前夫の子として戸籍にのってしまいます。
前夫の暴力などに悩んで離婚した女性が子どもの存在を父親に知られてしまうことを恐れて出生届を出さないことがあり、これが無戸籍問題につながっているのです。
これは私の推察ですが、唐沢部長はこの問題を逆手に取り、瑠花嬢は離婚後300日以内に出生したために届け出がなされなかったと説明したのではないかと思うのです。説明として自然ですし、ボーダーとして過剰ともいえるほど保護しているのも、暴力をふるっていた父親から守るためとすれば合理的な説明ができます。
離婚後300日問題によって無戸籍になっている子どもが戸籍を得るには、まず母子関係の証明のために、母の戸籍のほか、母子関係のあることを証する資料が必要です。資料の例としては、医師,助産師等が発行した出生証明書、母子健康手帳、幼稚園,保育園等に入園していたときの記録,小学校等の在学証明書等、母子共に写っている写真が挙げられています。唐沢部長の手腕を考えれば、このあたりを用意するのは難しくないのでしょうたぶん。
そのままですと、瑠花嬢が父親(母親の前夫)の戸籍に残ってしまうので、それを避けたい場合には、医師が作成した離婚後に懐胎した旨の証明書を市区町村の戸籍窓口に提出することで,元夫を父としない出生の届出をすることができることになっています(平成19年5月7日民事局長通達)。まあ、このへんの証明書も唐沢部長なら用意できるのでしょうたぶん。
まとめ
以上、長々と説明しましたが、もろもろの証明書類と戸籍上の母親となってくれる協力者さえ確保できれば、戸籍を『いじる』ことは可能と思われます。
何度もいいますが、よい子(特に某ペンチくん)はマネしないでね!!
あと、唐沢部長!スカウト待ってます!!!