迷惑電話コミュニケーション
夕方仕事から帰ってダラついていたところ、珍しく家の電話が鳴った。
イエ電とか!
平成のアンティークみたいなこの電話鳴るんやん!📠
繋がってたんやん!
静かな感動を2秒ほど味わったあと、
絶対セールスやん😩
と、ちょっとイラつきながら受話器を取った。
さぁこれは電力会社のセールスか家庭教師のセールスか。
イラついた気持ちを表現するため、まず無言で出た。
受話器の向こうから、誰か他の人の話し声のような、ほんの少しザワついたオフィスの音が聞こえてくる。
ほらね。セールスやん。
不愉快アピールのため、何も言わずに受話器の向こうの出方を伺う。
ところが、私が無言なら向こうも無言。
なんでやねん。お前がかけてきたんちゃうんかい。用事あるならはよ言えや💢
と、心の中で芸人さんばりのツッコミを入れつつ、無言の神経戦。
しばらくの無言の後、無言根比べするにはせっかちすぎた私が最初に戦いの火蓋を切った。
「ヨボセヨ〜…」
相変わらず無言の相手方。
なんでやねんΣ\(゚Д゚;)
「かける家まちごうたわ!
こんなん話し通じひんやん!
今すぐ切ったろ!」
もしくは
「オッスおら悟空!
なんじゃこの電話は。
オイラどこにかけちまったんだ。
マトモな相手じゃなさそうだ。
ええい切っちまえ。」
なんて気持ちになる場面でしょ!
深く考えずはよ切っちまえ。
そろそろ受話器を置く3秒前かな。とニヤリとした瞬間、受話器の向こうから消え入りそうな小さな声のぎこちない「…ヨボセヨ〜…」が返ってきた。
「……!!!…」
まさか無言の先から出てくるものが韓国語とは思わなかった私は一瞬怯んだ。
しかし相手はカタコトの韓国語男子。
ここは韓国語返しだ。
しばらく黙ったあと「…ヌグセヨ〜…?」(どちら様?)と控えめに聞いてみた。
すると沈黙の後「…チョヌン……♡☆♪※¥…イムニダ〜…」(私は♡☆♪※¥です)←声ちっさくて聞き取れなかったけど多分会社名
受けて立ったわ…!
…恐ろしい子…!
てかお前何者なんwww
笑いそうになる気持ちを抑えるため、自分のオシリをつねりながら(嘘)お約束の無言のあと
「…ムスン チョナエヨ…?」(なんの電話ですか)とこちらもヒソヒソ声で聞いてみる。
するとしばし沈黙の時間がやってきた。
黙祷でもしてるのか。
後ろを怖い上司が通りかかったのか。
しばーらく黙ったあと、カタコト韓国語男子は「イ…チョナ…クンナッスミダ…」(この電話を切ります)とポソポソ言ってまた黙ってしまった。
「あ、いぇー…」(はい…)と返事をしたところ、またしばーらく黙ったままだったが、おもむろに「…アンニョーン………」
と言ってきたので、「いぇー……」と言って私は受話器を置いた。
戦いは終わった。
蝸牛角上の争いと言うなかれ。
セールスの電話をかけた先で「ヨボセヨ」と言われ、ある程度通じる韓国語で返してきた彼の瞬発力(無言時間も長かったが)は賞賛に値する。
勝負は時の運。
とりあえずは引き分けというところか(自分に甘い採点)
沈黙は金。
おそらく日本人どうしであろうと思われるが、素性のしれぬ2人の間に流れた沈黙と異国の言葉は一見無価値だが、どれだけお金を積んでも得られることのない様々な教訓としてお互いの経験値に上書きされたに違いない。
今までセールスの電話がかかった時には、留守番中の子どもを装ってみたり、耳の遠い老婆のフリをしてみたり、果ては電話が壊れて聞こえまセーーーーンなどあの手この手でやり過ごしてきたものだが、次にセールスの電話がかかった時には今日のように日本語通じそうで通じないカタコト韓国語の人でいこうと思った初秋の夕暮れの出来事であった。
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