見出し画像

ブルマー哀歌


(操作ミスでうっかり消えてしまったので再掲)

寒い冬場に、温かい肌着を求めるべくネットショッピング。目的の品は温かいボトム。

今日はそこから思い出す、甘くて苦い思い出話。

今から数十年前、私の冬のお守りボトムはブルマーであった。お腹まですっぽり覆うデザイン、肌なじみのよい素材、私の故郷の洋品店では、当たり前のように売っていた。選択肢も少なく、女子学生ならば、ラクダ色のモコモコ肌着より、当然ブルマーを選ぶものだと、私は思っていた。私だけか、、、。


お年頃の私に、彼ができた。ちょっと年上の頼れる人。映画やハイキング、美術館など連れて行ってくれる健全なお付き合いから、牛歩のごとくゆっくり距離を縮めていったある冬にそれはおこった。

ウールの膝丈スカートにハイソックス。コートを羽織って、、、、

お腹が寒い。    今日は水族館デートだから、外も歩く。途中でお腹が冷えて大惨事になっては恥ずかしい。そこで私は、いつもの相棒、ブルマーくんを履くことにしたのだ。よし、これで安心。

何故か間際に、待ち合わせ場所が変更になり、連れられていったのは彼の家。家族はお留守。気付けば私は彼のお部屋でがっしりと抱きしめられていた。

私の気持ちを汲みながら、少しずつ距離を詰めてきてくれた彼。信頼してるし、この人とならこうなってもいい。ああ、、優しいな、温かいな、、緊張?ドキドキ?  私はすっかり乙女モードになっていたのだが、、

アイツのことを思い出した。そう、相棒ブルマーくんだ。

ちょっと待った!いくら初心の私でも、こんな状況にブルマーがふさわしくないことぐらいわかる。手触りにサイズ感、ロマンチックのかけらもない。実用一辺倒のコイツを彼に脱がされるなんて人生最大の恥!一生の汚点!やだ、絶対にいやだ!   私の脳内は一転、忙しくなった。

ブルマーに気づかれずに次にすすむには、、こっそり脱ぐ?いや、無理。カミングアウト?ありえない。きっと引かれて次はないだろう。世の中のお姉様方は、こんなピンチをどうやってくぐり抜けるのだろうか、、

逸香、選択が間違っているんだよ。ブルマーは体操服なんだから、みんな小学生で卒業してるんだよ、、

き、来た!手が、、!

焦りが乙女モードを駆逐し、絶体絶命の私は、思わず手を払った。彼は、優しく微笑みながら抱きしめてくれる。セーフ。でもひかない、、、伸びる、払う。これを繰り返す。焦らしでも恥じらいでもない、必死な私の様子に気付いた彼は、どうしたの?といわんばかりに私を見つめる。ああ、どうしよう。私がなにか言わなくてはならない状況に追い込まれた、、

お、お願い!!アッチ向いてて、、、!

必死なお願いをかなえてもらったそのすきに、私は相棒とハイソックスを脱ぎ、ソックスで相棒をぐるぐる巻にしてベットの下に隠した。こうすれば履き忘れもない。


今は暖か肌着といえば、発熱コットンやヒートテックなど、薄くて暖かい素材が充実。デザインだって、シンプルなものから華やかなプリントやレース、おそろいのボトムまで充実している。なんていい時代なんだろう。おそらく、私のような苦い思いをした人が、企画し世に送り出してくれたのだろう。失敗は成功の母か、、

先日立ち寄った衣料品コーナーには、女子学生向けに、黒のレギンスが、ならんでいた。かつての相棒に代わるものだろうか。

そう、私の相棒は、一般的な売り場では、もう姿を見ることが難しい。そのことが、少しさみしい。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?