Voice
火曜日。14:00。
「ねぇ、あたし達って大人になってからどれくらいたったんだろうね?」
「何急に言い出すのよ」
「だってさ、この前まで子どもだったんだよ。あたし達。きっとこの感じだとさ、あっという間におばちゃんになって、おばあちゃんになって、あとはポックリだよ」
「はぁ?何それ怖ッ!」
「怖ッって云われてもさ、それが現実だと思うんだよね」
「私達の一生ってそんなもんなの?」
「そんなもんだと思うよ」
「そんなもんかなぁ~」
「そんなもんだよ」
今日も日差しが強い。不快に成程、快晴だ。ヤダヤダ。こんなに暑いなんて。ホントマジで死にそうになる。男たちも五月蠅い。ここはとある大学のキャンパス内。広い敷地とはいえ、あれだけ男たちが騒いでいたら、不快感が一気に加速する。せめてもっと良い「声」で騒いでくれたら良いのに。
「さっきから男たちがギャーギャー騒いで五月蠅いね。まるで発情期?」
「確かに!結婚したい~!とか彼女欲しい~!とかしか騒いで騒いでないからね。恥ずかしくないのかな」
「恥ずかしかったら、そもそもあんな騒がないよ。全くもって夏だね~」
「それもそっか。全くもって青春だね~」
ひょんな事から成美と出会った。友だちになってから1日しか経っていないのに、私たちの相性ピッタリはだった。境遇が似ていたからかもしれない。最初の話は何故か子どもの頃の暗い過去話から始まった。互いに子どもの頃は独りぼっちで「青春」なんてものは本当に遠い世界の言葉だったのに、大人になった今こうやって「青春」を謳歌している。「早く大人になれば良かった」とどうにもならない様なことを、ああだこうだ云いつつ、異常に盛り上がった。後は、女子特有の好きなもの話。好きな飲み物、好きな自然、あとは好きな異性のタイプ等々。特に最後に話した好きな「声」に関しては、相当盛り上がり、その日は昼間から夜になってもずっとその話題でだべっていた。
何処からともなく、五月蠅く騒ぐ男たちの雑音に交じって澄んだ「声」が聞こえた。決して大きくはないけれど、確実に聞こえてくる綺麗な「声」。
「あれ?待って成美、超いい声が聞こえてくるんだけど…」
「…うん、うん。確かに。ちょっと行ってみようか」
私たちは「声」のする方へ誘われていく。
「あの…素敵な声…ですね」
「え?あ、ああ。そう。ところで君たち二人でどうしたの?」
水曜日。11:00。
今更ながら後悔をしている。だって分かっていたんだから。お互いに似た者同士だって事を。だから、好きになってしまう異性が同じになってしまうって事も。昨日の出来事でバチバチの三角関係が決定してしまった。成美とはこれからも仲良くしていきたい。一生の友だちとして付き合っていきたい。でも無理かも。自信がない。だってあんなに素敵な殿方を見つけてしまったんだから。こうなったら、突っ走るしかない。成美には悪いけれど、私はあの殿方と添い遂げて見せる!頑張れ私。今ある若さで、どんな壁だって乗り越えて見せる!
「とは思ってみたものの…成美は今頃デートか…はぁ~…考えている事は一緒でも、私は一歩及ばず。先手を取られたか…にしても昼間っから二人で何してるんだろうな…」
木曜日。15:00
「あれ?君は確か成美ちゃんの友だちの…探したよ!」
「!?あ、あれ?どうしたんですか?」
「いやさ、昨日、成美ちゃんとデートしていたら、急に捕まっちゃってさ」
「え?本当ですか?成美は今何処にいるんですか?」
「ごめん。僕にもそれは分からないんだ。僕も逃げるのに必死で」
「なんで…そんな…成美が何をしたっていうのよ!」
私は大して声も出ないはずなのに、メソメソとないた。嗚呼、何て可哀そうな成美。出会って数日しか経っていない間柄なのに、私は彼女の為にメソメソとないた。涙なんてちっとも出やしないのに、私はないていたのだ。
土曜日。10:00
あれから1日が過ぎ、私たちはお互いに落ち着きを取り戻した。落ち着きを取り戻して、気が付けば恋仲になっていた。
私はひどい奴だと云われれば、そうかもしれない。でも、私だって生きる事に必死なのだ。私を許して成美。彼と添い遂げる私を許して。
私は朝から晩まで彼と体を重ねた。お互いにそれが近い事を本能的に知っていたから。彼からはより大きく、より綺麗な「声」が響き渡った。
夜も更ける頃、彼はもう動かなくなっていた。必死にしがみついていた場所から地に落ちた。あの素敵な「声」はもう聞こえない。
日曜日。6:00
朝日が昇る。彼は相変わらず、地に落ちたまま動かない。しかし、よくよく見てみると、微かに動いている。私は一瞬何が起きているのか分からなかったが、すぐに理解した。彼の骸が運ばれているのだ。彼は彼らの食糧となるのだ。
私もきっと間もなくああなる。私の短い青春も間もなく終わる。私が生む子どもたちには幸せな未来を見て欲しい。
私は羽を広げ、安息の地へ、今、飛び立つ。