火車
仏教でいうところの「火車」というのは轟火をまとった荷車で、これに乗せられて罪人は地獄へと運ばれていくんだそうです。いっぽう妖怪の「火車」といえば獣のような風体の妖怪で、一般には化猫がその正体と言われています。
さて、悪行妖怪「火車」は一体いかなる悪事をはたらくものか、みなさんはご存知であろうか。君はわりと陰気で幸うすそうな顔をしているから、よそ様の葬式に参列する機会もそこそこ多かろうと思います。そんな君がいつものように誰かの葬式に参列したとするでしょ。君はおろし立ての礼服にテンションがあがり「今のオレって『レザボアドッグス』みたいでマジかっけー! ファーック!」なんて不遜なことを考えているんだけど、あくまで外ヅラは神妙そうな面持ちで、鼻をほじったり股ぐらをかいたり懐からニンテンドー3DSを取り出して『閃乱カグラ』に興じたいのもぐっとこらえ、おとなしく出棺のようすを眺めていたりするよね。そんなときたまに、空がにわかにかき曇り、暗雲風雨とともに怪物があらわれて、棺の中の死体を奪っていくことがあるじゃないですか。そしてその後、遺族の連中が妙にばつの悪い顔をしていたりすることがありますよね。そう。あれです。あれなんです。あの怪物こそが「火車」なんです。
では、火車の出現条件とは何か。それは礼服を着ると『レザボアドッグス』を想起してテンションの上がる阿呆な参列者がいることでも、ふところにニンテンドー3DSを忍ばせて隙あらば『閃乱カグラ』に興じようと企む愚かな参列者がいることでもありません。条件はたった一つ。それは死人が生前罪深い人であったか否か。火車は罪人が死んだときにしか現れないといわれます。だから罪人判定装置である火車の襲来によって故人の罪深さを曝かれてしまった遺族たちは、あたかもマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」のように顔を赤らめうつむいてしまうのだね。
この妖怪に対する策はいくつかあります。たとえば葬式を二部構成にして、第一部では棺の中に石ころを詰めて出棺する、つまり火車にハズレをつかませてやるという囮作戦。しかし石ころの詰まった棺桶を運ぶなんて重くて疲れるので、必ず火車が出る、つまり故人が本当にしょうもないゴミクズ人間だとわかりきっているケース以外はやらないほうが無難です。あとは、数珠を投げつければ良いとか、棺の上に髪剃を置いておけとか、楽器を鳴らせとか。宮崎では出棺前に「火車には食わせん」という呪文を2回唱えるべし、なんていう予防法があるんだそうです。うーん、いろいろとめんどい。悪人というのは死してなお周囲に迷惑をかけるものなのですね。悪人マジでしょーもねーなー。