一目坊

 最上山中に根城をかまえる単眼の妖怪。
 みんな大好き『老媼茶話』にはこんな話が載っているよ。

 辻源四郎という侍が病を得て塔の沢の温泉で湯治をしていた時のこと。お風呂で博学な老僧と仲良くなり、諸国の珍しい話など聞きながら楽しく過ごしておりました。その老僧が寺に帰る前夜、源四郎にこんなことを言いました。
「寺は宿の近くにございますので、よければ遊びにいらしてくだされ。目の前の谷川沿いに登りつめ、杉林を数キロも歩けば『一目寺』というファンクな名前の寺がございます。そこに拙僧らは暮らしております」
「へえ、それはなかなかファンキーな寺の名前にござる」
「なんの、ファンキーなのは名前だけではござらぬ。寺の周りは古色蒼然として風情があり、歌を詠むにはベストなプレイスと存じます」
「なるほど。ぼくのようなインテリにはたまらない場所ですね。リップサービスのつもりかもしれないけど、ひまなのでマジで行きます」

 かくして数日後、源四郎は数人のお供を連れて老僧に教わった道なき道を進み、ようやくのことで杉林を抜けました。抜けた先には確かにお寺がありましたが、建物は崩れ傾き、およそ人が住んでいるとは思われぬ様子です。
 源四郎は老僧に来訪を伝えるため、若侍を寺内に遣わしました。さすれば応対にあたった十二、三歳の稚児が「お入りください。でも、主の老僧は霧島が嶽を参詣中で四、五日は帰りません」なんてことを言う。怪訝に思った若侍が稚児の顔をよく見ると、額にどでかい目玉が一つだけついている、いわゆるひとつの一つ目小僧でありました。若侍の報告を聞いた源四郎が事の真偽を確かめるため寺の客殿に行ってみると、そこでは数人の一つ目小僧が集まって人の生首を「ひとつ、ふたつ」とカウントしながらカゴに入れているところであった。
「うわーっ、なんだかISIS(Islamic State of Iraq and Syria)のアジトみたいなところに来てしまったよ」
「寺は寺でも宗派はサラフィー・ジハード主義なみの過激派ですね、まじやばいっす」
などとたいへん驚きながらも、驚きついでに台所方面も探検してみると、そこでは真っ赤な顔の一つ目小僧たちが十五個ほどの生首を串焼きにしていて、源四郎一行の姿を認めると「やったね、首の数が増えたよ!」などと無邪気に喜んでいる。
「うわーっ、こと残虐さにかけてはISISよりよっぽどひどい連中だよ」
「もし拘束されたら領民に叩かれるわクソコラの素材にされるわで大変なことになっちゃいますね、まじやばいっす」
 かくして、一行は慌てふためきながら一目散に逃げ帰るのでした。

 ほうほうの体で宿にたどり着いた源四郎が宿の主人にことの次第を話したところ、主人答えていわく「あそこは大魔所にてございます」
「あえて行く者などありませんし、うっかり迷い込んだものはそれきり戻ってきません。あんなところに行っても誰も助けに行けません。死んでも自己責任です」とおきまりの自己責任論が浮上し、炎上をおそれた源四郎一行はすごすごと最上の実家に帰って行くのでした。みんなも大魔所におもむくときは自己責任でいこうぜ!

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