【毒親】『親という傷 幼少期の心の傷をとりのぞけばあなたの人生は好転する』◇まとめ その7【トラウマ】
本書のまとめの7本目。読んでくださっている皆さん,本当にありがとうございます!
本書も中盤に入ってきました!
全部の目次は,こちらの記事に記載しています。
Part2 心の傷とその原因
Chapter6 信頼したい
「信頼は,一貫性のなさや,嘘,裏切り,見捨てられた意見によって壊される。そしてご存じのとおり,いったん信頼が失われたら,取り戻して再び信じることはほとんど不可能に思える」(p.185)
ここでは「信頼の傷」について,いくつかの事例を通して解説しています。
「信頼」は文字通り,「相手を信用して頼ること」ですよね。幼少期の親子関係によって,この信頼が傷つけられたとき,成長してからの人間関係の中で相手への信頼ができづらくなってしまいます。
はじめに出てくるのは,Chapter.1・2でも登場したナターシャ(仮名)の事例です。彼女は父親の不倫相手からのメールを偶然見てしまい,しかも父親に問いただしたところ,「母親には黙っておいてくれ」と不倫の片棒を担がされたのです。
彼女は父親からの「裏切り」を経験し,「信頼の傷」が生まれました。
この裏切りを含め,著者は「信頼の傷」が生じる原因として,事例を通しながら3つ挙げています。
1,裏切り(トロイとマーク(いずれも仮名)の事例)
同性愛カップルである二人は,マークがトロイの言動を諫めると,トロイは激怒してしまいます。しかし,トロイは7歳の頃に離婚した母親が再婚し,新しい家庭の中で継父と母親は自分に味方してくれなかった。そのため,裏切られたと感じたトロイの心に「信頼の傷」が生じたことが分かりました。
「裏切りによって信頼の傷を負うと,信頼が失われ,「私はあなたを信頼できない(または信頼しない)」という思考が何度も繰り返されるようになる。」(p.186)
2,嘘(アンジェリカ(仮名)の事例)
アンジェリカはパートナーである彼の携帯電話を盗み見たり,追跡アプリでいる場所をチェックしたりして,彼を怒らせてしまいます。彼女の過去を振り返ると,なんと叔母だと思っていた女性が実は本当の母親で,今まで母親だと思っていた女性は叔母であったという事実が分かったのです。それをたまたま聞いてしまった彼女は,他者も自分も信じられなくなってしまったのです。
「わたしたちはだまされたり,裏切られたり,間違った方へ導かれたりすると,自分自身に対する信頼も失いやすい。(p.192)」
3,見捨てる(マハムード(仮名)の事例)
マハムードはパートナーの女性を「この女性こそ運命の人だ」と言い続けて,とっかえひっかえして付き合っています。彼の過去を振り返ってみると,8歳のとき,大好きだった父親が家庭を捨てて出て行ってしまったのだそうです。
「幼少期の見捨てられ体験は一種の裏切りで,親が子どもの幸福を顧みず,親としての責任を放棄したときに起こる。(p.194)」
どの事例も(以前の記事の事例でもそうなのですが,)各家庭で非常に深刻な出来事だったことがうかがえます。
また,人が「信頼の傷」の痛みに対して起こす対処として,著者は3つ挙げています。
1,自分の中に閉じこもる
⇒ 自分の身を守るために,自分のことを話さない,人と親しくなることを避けるなどをする。
2,過度な警戒
⇒ 相手の言動を過度に警戒すること(例:メールやテキストメッセージなどにひたすら目を通すなど)
3,試すこと・壊すこと
⇒ 相手を試そうとしたり,関係をわざと悪くして壊してしまうことをする。
この対処法は,確かに信頼の傷の疼きから自分自身を守れるものばかりですが,「ただし,つながりや,親密さ,深い人間関係が犠牲になって(p.196)」しまうのも,これらの対処法の結果です。
加えて,「信頼の傷」に深く関係する(どの傷にも無関係ではありませんが)「愛着(アタッチメント)」について,少し解説があります。
ご存じない方のために,この解説をまとめると,「愛着(アタッチメント)」とは,イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱したもので,「特定の相手に対して持つ情緒的な絆」のことです。
愛着は人の性質にとって基本的な要素で,子どもの頃は養育者(主に父親,母親)にくっつきたい,情緒的に結びつきを得たいと本能的に感じているとされています。発達していくにつれ,愛着の対象は養育者から他者へと移っていきます。
この愛着を,アメリカの発達心理学者のメアリー・エインスワースはいくつかの表出スタイルに分類しました。現在までの研究によると,幼少期に愛着スタイルが安定している人は,成人しても安定した愛着を築けるが,幼少期に愛着スタイルが不安定だった人は,成人すると不安定な愛着を築きやすいとされています。
相手への「信頼」は,自身の「愛着」の安定の度合いによって大きく変わり,愛着が不安定のまま育ってしまうと,自分が傷つくのを極度の恐れ,傷から逃げるために,他者との「愛着」を築く言動ができなくなってしまいます。
「未解決の信頼の傷は,今の人間関係を破壊する(p.203)」
しかし,どんなに自分を守って,信頼の傷から目を離すようにしても,それでも傷は疼き続けます。癒されることはありません。
「信頼するためには,(中略)頑なになって心を閉ざすのではなく,その体験から学んで知恵深くなることだ(p.204)」
【心の根元の傷を癒すワーク・信頼の傷】
さて,ここでも,心の根元の傷を癒すワークに取り組みます。前回と同様に4つのステップがあります。
1,心の傷に名前を付ける
(自分を傷つけたものは何なのか,正確に言語化してみる)
2,客観視する
(自分か他の誰かに,痛み,影響を与えた出来事の目撃者になる(なってもらう)※これは自分自身でも可能)
3,悲しむ
(客観視によって表れたすべての感情に寄り添う。自分の気持ちをしっかりと感じる)
4,方向転換する
(十分に悲しんだ後,再び自分に深く関わり,行動や考え方のパターンを変える)
それぞれの傷を,この4つのステップに沿って見つめます。著者は,傷を見つめる前に必ず,安心でき,リラックスできる環境に身を置くことを勧めています。
信頼の傷のワークでは,最後に「信頼の傷に手紙を書く」というワークも行ないます。
「信頼の傷さんへ」という書き出しから,傷が今まで行なってくれた対処法への感謝と,自分が取り戻したいものについてを書きます。
私の大学院での研究テーマが「幼児の感情発達」でした。発達心理学の中でも「愛着」は非常に重要なトピックで,感情と絡めて語られることが多かったように思います。
この章では,親子の情緒的な絆である「愛着」が,「信頼」の基盤になるという重要なことが示されています。
私も,ワークを行ない,遥か昔の幼いころ,よく寂しがって泣いていたことを思い出しました。母親も父親も,私が生まれてすぐに働きに戻ったと聞きました。それぞれ自身の忙しさが優先されたのでしょう。そんな中,子どもの気持ちにまで気を配る余裕はなかったのでしょう。
私の心には,どんな理由があったとしても,当時私が感じた「両親は自分よりも大切なものがあるんだ」という思いは,事実として残ってしまっています。
でも,生得的に備わっているはずの「愛着」が不安定に育っているので,本来なら生命を脅かされてもおかしくないはずのところを,「信頼の傷」は,その痛みと疼きで私を今まで生きながらえさせ,助けてくれていたのだと考えると,少し変わってきます。
「道で転んだ」だから「膝を擦りむいた」のです。転ばなければ膝は無傷です。同じように心の傷には,何らかの意味が必ずあります。意味がなければ傷になんてならないからです。
その意味を教え,癒されるために,「信頼の傷」は今まで痛みと疼きを続けてきました。その点は,心の根元の傷全てに,感謝をしたいと思います。
しかし,私はそれでも,人を信頼できる自分,自分を適切に愛せる自分を,取り戻したいと思っています。
「信頼の傷さんへ」と題した私の手紙には,上記のようなことを書いてみました。また読み返すときもきっと来ると思うので,そっと引き出しにしまっておきます。
さて,だいぶ気疲れしたので,「信頼の傷」についてはここまでにしましょう。
次回は,心の根元の傷のラスト,「Chapter7 安心したい」を読んでいきます。