求めぬものにくるチャンス〜私がドイツに導かれるまで
大学に入ってから大学の団体旅行でドイツ旅行をした。
ミニホームステイ付きで1ヶ月ドイツ中を回る。研修旅行だから
きちんと下調べして多くの場所を堪能した。お小遣いを貯めて
夏休み2ヶ月費やしてドイツの大学主催の夏のコースへミニ留学もした。
大学時代は率先してドイツからの留学生のお世話係も引き受けた。
そう、うちの大学には交換留学制度があったから。
大学生活は充実していたし勉強もした。
周りからは「ドイツに正規留学したいでしょ?」と訊かれたりしたけれど
そんなつもりは毛頭無かった。これ以上何も望んでいなかった。
大学時代、二度もドイツ行きを経験していた。すでに大変な贅沢モノだ。
相変わらず本を読むのが好きなだけの学生だったからどこにいたって
本は読める。両親と喧嘩したり悲しませてまで家を飛び出る理由もなかった。
今にして思うとそういうのを無欲と呼ぶのだろう。
無気力なのではない。心に秘めた想いは大切に奥底にしまいながら
目の前の日々を味わいながら生きていた。
そしてそれは夏を目前に控えた梅雨のある日のこと。
運命が突撃してきた。教授から突然呼び出しを食らったのだ。
一学生が教授からある日突然呼び出されるというのはかなり異常な出来事だ。
そして歯車が回り始めたのだ。教授はおもむろに言った。
「今年のドイツ行きの交換留学生の該当者がまだ見つからなくてね。
キミ、行ってくれないかい?」
成人をとっくに過ぎた大学生だったと自分で気がついたのはこの時だった。
パパやママが反対するから、パパやママが悲しむから、なんて言える訳が無い。
奨学金がもらえて学生寮もセットだ。ドイツは普通に暮らすなら極めて
安全な国でもある。経済的に負担をかけずに安全が担保されてるなら
今、必要なものは「誰のものでもない、ワタシの意志」だけなのだと
この時ようやく気がついたのだった。