群像夏ー相棒と最後の夏ー
どうもこんちゃす!氷宮ナルミです!
いやぁ、栄冠ナインすごかったですねぇ!アーカイブで見ましたが胸が熱くなる試合ばかりでした!
恥ずかしながら自身も試合に出させていただいたようで嬉しかったです!
そんな栄冠ナインの中で育成された氷宮ナルミにバックストーリーのようなものを付けてちょっとエモくしてみたいな…という思い付きからなれない文章物語を書いてみました。
唯一二年でスカウトで入学した氷宮ナルミ、獣英高校に入学するまでにどんな葛藤があったのか、そして最後の夏の本戦で投げたナルミはどんな心情だったのか?自分なりに思いをはせて書いてみたのでよかったら読んでもらえたら嬉しいです。
※この物語は氷宮ナルミの妄想による物語で登場人物や実際のプレイ背景とは異なるフィクションとなります。
できるだけ不知火轟希監督のプレイ状況に沿って制作していますが、ここが違う!といった野暮な突っ込みはせずに純粋にこんな背景があったかもしれないと楽しんでもらえたら嬉しいです。
これは夏の本戦、準決勝敗退後のおはなしー。
《さぁ、艷ノ宮高校、獣英高校スポーツ科の3位決定戦の試合が始まります。実況は私○○、解説は●●でお送りさせていただきます。よろしくお願いします●●さん。》
《よろしくお願いします。》
《さぁ、前の試合を振り返ってみましょう。両校接戦でしたね!》
《接戦でしたねー》
《初戦は獣英高校VS私立覇羅パン高校、多くの優秀な人材を多く排出してきた獣英高校はその名に恥じぬプレイで勝ち上がってきた強豪校ですが実に9年ぶりの甲子園出場、対して新任の雹衛ハガル監督率いる覇羅パン高校は全くの無名からここまで勝ち上がってきた期待の注目校!両校目が離せない対決となりました。》
《覇羅パン高校は今まで地区大会で1勝も出来ないような弱小校、ましては乱闘や試合外での妨害などで出場停止処分を受けたことがある高校でした。しかし新任のハガル監督が就任してから一変、着々と力を付けて名実ともに認められる強豪校として名を刻んできました。》
《相変わらず治安が悪い顔をしているという評価はありますけどねーw》
《そうですねwそんな中でも注目となった選手は覇羅パン高校のエース、志国一路選手。持ち前の闘志溢れる投球は数々の強打者をもしり込みさせる迫力あるプレイを見せてきました。【お礼参り】で親しまれる暴投こそ怖かったですがしっかりと投げチームを勝利へと導きました。》
《そして期待の若手監督である不知火轟希監督が率いる獣英高校スポーツ科。チームの守護神であるエース藤堂雷悟は強打者の揃う覇羅パン打線に対して7回裏までに4失点と苦しい展開でしたが健闘、臆すること無く投げきりました。》
《藤堂雷悟の女房役と言われるバッテリー蒼井シュウ選手もチームの精神的支柱となって戦い抜きましたよね。》
《ええ。獣英校外でも人気を誇るエースの1人、熊谷重吾選手やチーム1番の自由打者と言われる月海塩選手の頑張りもあり3点まで返すことが出来ましたが惜しくも届かず準決勝敗退となりました。》
《そして2回戦、淑女集まる艷ノ宮高校VS名門、聖アナスタシア学園。エナ監の愛称で親しまれる柴エナ監督と名将荒塚オガミ監督の両ベテラン監督の対決。こちらも熱い展開でしたね!!!》
《夏の本戦常連高である聖アナスタシア学園に対して艷ノ宮高校の先制点と言う波乱の幕開けで始まる試合でしたね。今大会通しての1番の注目選手である月見里みつき選手に対して艷ノ宮の上位打線が爆発、チャンスメーカー幕間選手の打撃も炸裂して先制点となりました。》
《何があるか分からないのが夏の本戦ですからね。》
《そうですね、しかしやられて終わらないのが聖アナスタシア。その後2回裏に一点を返し同点、その後4回裏にも一点を追加し逆転の展開まで持っていきました。》
《聖アナスタシア学園は月見里みつき選手ばかりに目が行きがちですが他の選手も十分な強者揃いですからね、油断出来ませんよ。》
《はい、その後は両者1歩も引かずに1対2で聖アナスタシア学園の勝利となりましたがあの名門校相手にたった2失点という結果は流石ベテラン柴エナ監督の采配と言えるでしょう。》
《スタミナに難ありと心配されていた射干玉ウヌ選手もその心配を跳ね除けるいいピッチングで聖アナスタシア学園の今日打線を押さえ込みました。》
《両チーム、準決勝で惜しくも敗退したとはいえ夏の本戦に駒を進めてきた強豪チーム。目が離せない1戦が今始まります!!!》
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【9回表】
○《さぁ、打順回って艷ノ宮の実力派バッター星戌セン選手。完投する勢いで投げてきた獣英の守護神藤堂雷悟も流石に疲れが見え始めてきたか!》
(ここを抑えたら勝ちだけど流石艷ノ宮、油断出来ないねぃ……だいぶコントロールも落ちて来ちゃってるし踏ん張れるか……)
1回から8回までノリに乗った獣英の守護神、藤堂雷悟も流石に疲れが見え始めていた頃
対する艷ノ宮の星戌センも緊張の只中にいた。
(ここで何としてでも塁に出ないと後がない……甘えた投球があるなら……打つ…!)
そして迎える9回表、投球動作に入る。
(初球は…フォークッ!)
パァン《ストライーク!》
(二球目は際どい所…ッ!)
パァン《ボール!》
(クソ…やっぱり狙いが少しズレるな…)
完投ペースで投げてきたものの初戦の疲労もあり、スタミナタンクであるさすがの藤堂雷悟も目に見えて制球力が落ち始めていた。
(決め球フォークのキレはまだまだ健在だし際どい所も臆せずに攻めてくる…流石獣英の守護神だね…でも…!)
カァン!
《おおっと!甘えたコースのストレートをかっさらって出塁!!!星戌セン!しっかりとチャンスを作りました!》
《終盤にも集中力を切らさずしっかりと振っていく、流石艷ノ宮ですね。》
《次の打順は屋根裏、ホームランも狙える強バッターです。》
(もうそろそろ限界だよね…投球数も今日を通して120は超えてるだろうし…)
藤堂雷悟の女房役、守護神の正バッテリー蒼井シュウは長年の相棒の状態をしっかりと見極め監督へサインを送る。
(完投まで投げさせたかったけど…限界か…)
「審判、タイムで」
《タイム!》
一方艷ノ宮ベンチ、ここまで点差を大きく離されている名将エナ監督も苦い顔を隠せずにいる
(ここで下げてくるのね…抑えはきっと二ノ宮…キツいわね…この後どう采配を切ったものか…)
一方打席でタイムを待つ艷ノ宮の強打者、屋根裏は獣英ベンチを静かに見つめていた。
…………。
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【時は遡り・1年前】
「君は…氷宮ナルミくんかな?」
「はい、そうですけど…」
中学時代、全国大会へ出場を果たした俺は引退し受験の真っただ中にいた。
「君、ヒーローの素質があるね…!✨️」
「……は?」
これが監督との最初の出会いである。
「あ、いや、違った。ごめんね、改めまして俺の名前は不知火轟希、獣英高校スポーツ科で野球部の顧問をしているものだ。」
(獣英…三重県の中学生なら誰でも知ってる県内屈指の強豪校…誰もが憧れる高校の野球部顧問がなんの用だろう)
「そんな強豪校の監督がなんのご用ですか」
「君、うちの高校にこないかい?」
「お断りしておきます。」
「即答?!」
普通だったら願ってもないスカウトなんだろう。
そう、普通だったら。
「急いでるんで、じゃ。」
「ちょちょちょ!また来るからー!」
半ば振り切るように自転車に乗り制止も聞かず帰宅する。
獣英高校スポーツ科…県外からも入学希望者が多いという名門校、文武両道の物も多くスポーツ推薦で入るような奴らは将来のプロ入りも約束されるようなヤツらばかりだ。
……俺の弟もそこにいる。
「いやなこと、思い出したな…」
それは11月、寒さが強くなり始める季節だった。
それからというもの連日のように不知火監督は俺の前に姿を現した。
「やぁ!うちの高校にこないかい?」
「やぁ!君はきっといい選手になれるよ!」
「やぁ!君はもっと実力をのばせる!」
正直、ストーカーと大差ないのではと思うくらいに。
ドドドドドドドドドドドド!!!!
「ねぇーーー!うちの高校においでよぉー!!!!」
「追っかけてくんなぁぁぁぁ!!!!」
…………。
「ハァハァ…」
クソッ、腐っても名門校顧問…振り切れない…。
つい息を切らして聞いてしまう。
「…なんで俺なんですか、他にも有名な中学生なんているじゃないですか。」
「君がうちに必要だからだ!!!」
必要だから…
獣英なんかほっといても有能な選手が集まるだろうに。
「正直今の俺のチームでは甲子園を戦えない!君のような未来ある投手が俺のチームには必要なんだ。」
「嫌です」
「どうして!」
「……弟がいます」
「知っている!!」
「アイツの方が俺より野球上手いしセンスだってあります」
「知っている!!!」
「なら尚s「だからなんだ!!!!」
「野球が好きなんだろう?だから全国大会に出場するほど頑張ったんだろう?良いじゃないか、かっこいいじゃないか兄弟バッテリー!俺は見たい!!!」
昔の記憶がよぎるーーー。
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『にぃちゃん!キャッチボールしよー!』
『やるかー!』
『夕飯までには帰ってきなさいよー!』
『『はぁーい!!!』』
『行くぞ、シュウ!』
『うん!』
学校から帰ってランドセルも放り出し毎日のように近くの公園で弟とキャッチボールをした記憶ーーー。
シュッ…パァン!
《バッターアウト!ゲームセット!》
『やったぁぁぁ!』
『やったね!兄ちゃん!』
『俺たち最強バッテリーだな!』
『だね!』
少年野球チームで地区大会優勝した記憶ーーー。
『兄ちゃん!なんで違う中学に行くんだよ!』
『うるさい…俺は別に野球選手になりたいわけじゃないから!』
野球の強い名門私立中学に俺が落ち、後ろめたさから弟を避けるようになった記憶ーーー。
そして…中学で野球は最後にしようと決めた。
『え、ナルミくん野球やめちゃうのぉ?!』
『おう、もう充分かなって』
『えぇー、屋根裏と野球続けようぜぇー?屋根裏にはナルミ君が必要だってのにぃ~!』
茶化しながら屋根裏が言う。
『やーだよ、もう最後って決めてんの!』
そう…最後と決めてるんだ。
『お前は続けんの?』
『んー、続けるつもりー!なんかぁ、あだ、あでや?』
『艷ノ宮?岩手の?』
『それー!そこの監督から誘われてんだよねー!行こっかなって!』
『ふーん、すげーじゃん確かエナ監督だろ?名将の』
『屋根裏天才だからさー!』
『それは知らんけどwま、頑張れよ』
そう、最後と決めたはずなんだ。
『ナルミ君が必要なのにぃ~!』
『君がうちに必要だからだ!!!』
決めた…のに…。
『好きだから全国まで出場したんだろう???』
……。
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「1度考えさせてください……」
「いい返事を期待している!」
そのあとすぐ帰宅し自室のベッドに倒れこんで深く息を吐きだした。
「っふぅーーーーーー…」
もう一度昔を思い出す。
(俺は…。)
野球を楽しんでやれたのはいつまでだっただろうか
小さい頃は本気で兄弟で最強の野球選手になると思っていた
胸の奥で粘りつくようなモヤモヤが離れない。
ふと本棚の写真が目に入る
弟と初めてプロ野球の試合を見に連れて行ってもらったときにとってもらった写真。
俺はピッチャー、弟はキャッチャーに憧れて当時のプロ選手の背番号入りのユニフォームを着ていた。
『俺たち最強のバッテリーだね!兄ちゃん!』
弟の声が反響する。
今更どんな顔をして野球と、弟と向き合えというのだろうか。
(俺は…逃げたんだ、弟から、野球から)
(でも…)
『屋根裏はさ、楽しかったよ!』
中学での相棒、屋根裏の声がよぎる
(俺も…楽しかったよ)
何かに必死に打ち込みたくて、結局野球部に入って…
そこで出会った仲間とバカやりながら練習に明け暮れて…
最初は夢みたいな話だった全国大会出場を目標にかかげて全力で頑張って…
そして県大会で優勝して全国に行って…
「俺、野球が好きだったんだな…」
そして迎えた約束の回答の日。
「返事を聞こうか…?」
「もう一度本気で野球に、自分に向き合ってみようと思います。よろしく…お願いします…!」
「フッ…俺たち獣英高校スポーツ科野球部は全力で君を歓迎する!!!!」
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【時は戻り、現在】
二ノ宮か!
二ノ宮が抑えだな!
二ノ宮くるか!
そんなギャラリーの声が聞こえる。
恐らく抑えに起用されるに違いない。
「ナルミ」
監督に呼ばれる
「最後の夏だ、わかるな?」
「…はい!」
監督は笑うと思いっきり両肩を叩いた。
「いって来い!ナルミ!」
「ハイっ!!!!!!!!」
《ピッチャー、変わりまして、ナルミ、君》
ナルミだって
ナルミって誰?
これ得点いけるんじゃね???
戸惑う声、落胆する声
そして俺が出ることで得点を期待する声が聞こえる
《さぁ、ピッチャー交代しまして獣英高校二年、氷宮ナルミ。今大会初めての登板です。》
《てっきり二ノ宮キンジが登板すると思っていました、彼も藤堂雷悟選手に劣らず高い能力を秘めている選手ですからね、ナルミ選手はまったくの情報がないだけに期待が高まります!》
獣英に来て二年、俺が投げた試合は練習試合の一打席だけ。
『監督、俺試合に出たいです…!』
勇気を出して投げさせてもらった一打席、味方の守備に救われセーブできたものの、過去の因縁に打ち勝てず負け腰なピッチングで終わってしまった。
あれから一度も試合で投げさせてもらっていない。
それでも練習は地道に欠かさなかった
雷悟先輩のような強靭なスタミナや剛速球はないし
二ノ宮のような抜群な野球センスも持っていない。
それでも毎日、毎日、投げた。
いつか役目を果たす日が来るのだと信じて、自分に打ち勝つんだと
ちゃんと向き合えるようになるんだと。
マウンドに上がる
照りつける日差し
乾いた空気
応援よりもうるさい自分の鼓動
弟が駆け寄る
「兄ちゃん…大丈夫そ?」
「おう、兄ちゃんだからな」
笑って見せる
《プレイ!》
まっすぐと打者を見据える
(屋根裏…)
かつての相棒は遅いよというかのようにニヤリと笑ったかと思うとスッと静かに俺を見据え返した
これが最初で最後の直接対決。
乱調は、ない。
程よい緊張感のなか投球動作に入る
(まずは初球、ストレート…!)
シュッ…パァン!
屋根裏も全力の強振で振りぬいてきた
お互いに手を抜く気はない。
ワンストライク、二球目
投げる
カァン!
フェアギリギリのきわどい打球だけどしっかりと味方がカバーしてアウト
しかし進塁を許してしまう。
三振に打ち取れなかった俺、得点になる長打を打てなかった屋根裏
【また、やろうぜ!】
一塁からベンチに下がる屋根裏はとても満足そうな笑顔でそういっているようだった。
第二打席、幕間くうま
今大会なんどもヒットを打っているチャンスメーカーにヒットを許してしまい得点を許してしまう。
(落ち着け、大丈夫)
自分に言い聞かせる。
自分はピンチになるほど昔から強かったと思い出す。
第三打席、代打吾狸 七春
落ち着いてストライクを狙って追い込み圧をかける
きわどい所で最後は焦らせて打たせて取る。
(これでツーアウト…)
第四打席、狼画オキシ
泣いても笑ってもこれが最後
三塁にはランナー
対面には強打者
お互い静かに闘志を燃やす
終わりたくない、終わらせたくない
(ツーボール…)
弟と視線が交錯する。
…わかってるよ。
たった一度きりの夢の場所
立ち止まれないからこそ一球を丁寧に、大切に。
(俺らは、最強だからな)
俺の全力を、すべてを弟は受け止めてくれると今なら信じられる
もう逃げない、もう挫けない。
過去の後ろめたさも
現在の高揚も
最強の証明を。
全てをこの一球に込めて…
シュッ…ズパァン!!!!
《ゲームセット!!!!》
相棒との最後の夏。
4打席13球1失点1奪三振。
戻れない時を駆ける
澄み切った夏だった。
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