【映画評論】37セカンズ
ようやくこれだけに障がい者の人生をリアルに描く作品が生まれた。
ーーーそれが、この映画を観て思ったこと。
なぜかと言えば、私自身も、
自身の妹が精神障がい児であったことから
障がい者やマイノリティに生きる人たちに光を当てる映像作品を作りたいと思っていたから。
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※※※以下は、一部ネタバレを含みます。なるだけ、完全なネタバレにはならないように大枠だけに触れてはいますが、なんの前情報のなく観たい方は、以下は観賞後にお読みください。
世間に知られていない障がい者の人生
本作は、先天性脳性麻痺で車椅子生活を送りながらも、マンガを描く才能に恵まれた20代のヒロインが、異性との交流も含めて人生を精一杯生きようとするさまを、ときにユーモアも交えながら、繊細かつエネルギッシュに描く作品。
マイナーな題材でありながら、第69回ベルリン映画祭のパノラマ部門の観客賞、アートハウス系の映画を支援するCICAEアートシネマ賞を同時受賞するという快挙を達成。
リアリティの源として、主人公のゆま役は、実際に主人公の設定と同じ脳性麻痺を持つ佳山明が務めたことも大きい。
障がいがあって足が不自由で全て一人での生活が難しくても、心は一人の人間。健常者が体験することを自分だって体験したい。人生を楽しみたい。自分が自分であることへの尊厳・誇りを持ちたいーーー。そんな当たり前のことが当たり前には手に入らない現実に葛藤しながらも、ゆまは「自分だけの唯一無二の人生」を手に入れようともがく。その姿が、こうして書いていても、泣けてくるのだ。
「障がいがあろうとなかろうと、あなた次第」
という劇中に出てくるセリフにもドキッとさせられる。
主人公ゆまが、彼女の「私だってあらゆることを体験したい」という欲求とそれを叶えることが如何に通常より難しいか、その過程と葛藤もリアル。
過保護な母と身体の不自由さ、ゴーストライターという自分の置かれた環境、何か自分を縛っているものから、自分自身の手で自分を解き放とうと前に進んでいくことそのものは、これはたとえ健常者であったとしても、実は難しいことだったりする。それでも、腐ることなく、ゆまが「この自分として生きる」を選択する過程が、誰にとっても思うところのある映画となっている。
障がい者の家族の葛藤の描き方が秀逸
障がい者の家族、特に親というものの干渉具合は難しい。確かに介護者がいなければ生きていけないのだが、四六時中べったりでは、本人の人間関係も育たないし本人の成長がない。かといって、世知辛い世の中で、障がいがあるというだけで、無駄に傷ついて欲しくもない。そんな、「障がい者の周りにいる人たち」の感情もまた、繊細に描いているところが憎いのだ。
親や家族の愛情の掛け方や関わり方というのは、至極塩梅が難しい。
その難しさは「親」という立場だけでなく、「きょうだい」も同じ。それさえも描いていることに舌を巻く。
近いからこそ触れられない。怖い。
障がいあるきょうだいに、どう接していいかわからない。
というのも、障がい者の家族に起こる「あるある」なのだ。
俳優陣も素晴らしい
ゆま役の佳山明は無名の新人ながら、新人とは思えない圧巻の演技だし、ゆまの母役の神野三鈴も、ゆまの介護が人生の生きがいになっている様を徹底して演じていて素晴らしいのだが、個人的には介護士役の大東駿介が絶妙な存在感すぎて、これは神キャスティングだな、と拍手を送りたい。
「この自分で生きる」を掴みに観てほしい
この作品のすごいところは、「障がい者に光を当てるドキュメンタリーでお涙ちょうだいもの」ではないことだ。言葉を選ばずに言えば、24時間テレビ的なものでない、ということ。
世間に説教したいわけでもなく、ただただ、ゆまという一人の女性の人生に光をあて、丁寧に感情を写すことで、大切なことを伝えようとしてくれる、映像の美しさやストーリー展開の妙に出会い、
あなたもまた、主人公ゆまを通して、「他でもない、この自分で生きる」ということを掴みに、この映画を観て欲しいのだ。
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37セカンズ
http://37seconds.jp/
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