天使にかける声2
「いいのかそんなこといって? 俺がお上にいって処分してもらうぞ」
これはある患者様からとある看護師が言われた言葉。その言葉に看護師はただただ「申し訳ありませんでした」と謝るだけだった。
50代くらいの男性の患者様だった。身の回りのことはできるが、とある疾患で手術を控え入院していた。また詳細は不明であるが、生活保護を受けている。入院直後から「ちょっと行って来る」とタバコを吸いにいく。手術も控えているため、禁煙をすすめても「いいんだよ」とどこ吹く風。採血を受ける際にも看護師に不手際があると「なんだお前! そんなことならとっとと辞めちまえ」と声を荒げることもあった。看護師の間では『対応注意』となっていた。その患者様の担当になった看護師の中には一日中顔が強張っている者もいた。
そして手術。手術自体は無事に終わり、大方の予想を裏切り患者様も手術が終わったことから安心したのか穏やかに過ごしていた。手術から3日程した頃それは起こった。廊下で点滴の機械のアラーム音が鳴り、たまたま通りかかった看護師が病室に様子を見に行った。件の患者様だ。そして患者様から声をかけられた。「ねぇ、この水さぁ朝にくんでからそれっきりなんだけど。かえてくれない?」時刻は午前10時ごろ。そろそろ昼食前ということでお茶と水が配られる頃。またその看護師はすでに他の方を緊急の検査にお連れする途中だった。「すいません、先に待たせている方がいるのでそれが済んでからでもよろしいでしょうか? もしくはもう少し待っていただければ係りのものがお水とお茶を配りに着ますよ」。しかし患者様は顔を曇らせる。「えー、いいんじゃん。俺を優先してよ」。看護師も言葉を返す。「すいません、急に体調を崩した方を検査にお連れしなくてはいけなくて……」。すると患者様は怒鳴った「俺も患者だろう!?」「俺が生活保護だからって軽くみてるんだろう?」「いいのかそんなこといって? 俺がお上にいって処分してもらうぞ」と。この問答に気づいた師長が間に入って、場をとりなした。そしてその後師長と看護師は患者様に平謝りをすることとなる。
この患者様は個人ではない。いろんな患者様の群像だ。もちろん全ての患者様がこういう方たちではない。しかし、病棟に一人こういう方がいるだけで看護師達の曇る。これも天使達の日常だ。