天使にかける声3(あるいは天使がかける声1)
「本当にあいつ嫌い。早く死ねばいいのに」
この声の主は放課後の高校生達ではない。その声の主は看護師達だ。そして街中の喫茶店でなく、病棟でその声は聞こえる。声の主は看護師だ。その言葉を注意する者はなく大抵は「そうだよねー」と嬉々と同意する。命を扱うはずの場所で不謹慎だ……と思われる方もいるかもしれない。しかし命扱う場所だからこそ、『死』という言葉が軽くなるのかもしれない。看護師を1年もしていれば病棟の種類にもよるかもしれないが、数件は死の瞬間に立ち会う。少なくとも一般の方よりは多い数になるだろう。そして慣れるのだ。『死』に。新人時代に患者様が亡くなると流していた涙も、流れなくなる。もちろんベテラン看護師の中にも患者様の死を悲しむ人はいる。しかしそれ以上に患者様の死(STと略されることあり)に対して「私の勤務帯にSTにならないといいなぁ」とか「○○さん、最近STあたりますよねぇ」といった厄介事として取り扱われることが見受けられる。不謹慎と思われるかもしれないが、それが病棟の一場面だ。
ここで冒頭の声に戻る。「本当にあいつ嫌い。早く死ねばいいのに」の『あいつ』とは患者様、同僚、医者やPT(理学療法士)等々……と多岐にわたる。患者様でいえば「あいつ大した用事じゃないのにナースコールばっかり押すのよ」や「オムツ勝手にはずしてベッドを尿だらけにされた」ことで死ねばいいと言われる。医者の場合には「あいつ変な指示ばっかりだして使えない」とか「偉そうに人をあごで使う」といった理由だ。
理由がなんであれ、もし天使達の声がそのまま人を死なす力を持っていたとしたら、ひとつの病棟がまるまる死に絶えるかもしれない。それほどにこの声は病棟に溢れているのだ。
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