白衣に吐かないようにするために ~熱中症対策について~
今日の話題は、油断するとあなたもこの夏に看護師に嘔吐してしまうことになる……というお話。
私自身はまだ幸い患者さんにかけられたことはないのですが、同僚が悲惨な目に合いました。その原因は熱中症とアルコールの飲みすぎ。同僚の話を元に、白衣に吐かないようにするため熱中症や飲みすぎに注意して欲しいことを書いていきます。
Ⅰ-1 ケース1 熱中症で嘔吐、体力自慢も程々に
Aさんは体力自慢の40才代男性。土日のランニングを習慣としていました。真夏の暑い日中にも欠かさずに行っていました。もちろん走るときには水分補給もしていました。
しかしある夏の日のこと。昼間の1時間のランニングを終えて自宅に到着後、しばらく休んでいると猛烈なめまいと吐き気に襲われました。そこで近所の病院を受診します。吐き気を我慢しながら医師の診察を受けると、結果は熱中症。点滴で治療をすることになりました。ずっと吐き気を堪えていたAさんも点滴の針を看護師に刺された瞬間、こらえていたものが一気に噴出し看護師に向かって嘔吐してしまいました。かけられた看護師さんは嫌な顔をせずに「大丈夫ですか?」と声をかけて後始末をしたそうです。その後Aさんは無事に点滴を受けて、吐き気は軽減してきましたが念のために一泊入院することに。翌日にはすっかり元気になり帰っていきました。帰る前に病棟の看護師から「炎天下にランニングなんかしちゃダメです!」という灸を据えられていたそうです。
熱中症はそもそも「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」です。暑くて体温が上がった時に、体が体温をさげようしても下がらず体に出る様々な症状(めまい、吐き気、意識障害、痙攣等々)……ともいえます。
熱中症の原因は
①気温や湿度、密閉した空間などの環境の要因
②基礎疾患、低栄養、脱水、高齢者や乳幼児といった年齢等の身体要因
③激しい運動・長時間の屋外作業、水分をとらないといった行動の要因
といった要因がからみあったものです。Aさんは暑い日中(環境要因)にランニング(激しい運動)をしたために熱中症になったと思われます。
Ⅰー2 熱中症の対策
まず暑いときには極力外に出ないでください。私からしたら屋外での運動はもってのほかです。「暑い中やるから運動効果が高まるんだ」という方がいますが、そんなことはありません。むしろ熱中症にかかり、健康を害する可能性が高いです。もし運動をするならば、早朝や夕暮れ以降の涼しい時に経口補水液などの水分をしっかり携帯をして行ってください。
やむを得ず、炎天下の中、外出する場合には水分の携帯はもちろんのこと時々涼しいところで涼をとりましょう。コンビニやスーパー、どこでもいいです。そして外では日傘を使い冷たい飲み物や保冷剤などで首元やわきの下を冷やしましょう。首やわきの下(場合によっては太ももの付け根)には太い血管が通っており、そこを冷やすことで冷却効果を得られます。頭部を冷やすの体温を下げることにはあまり効果はありません。
報道をされていますが、ここ数日の熱中症の死亡の九割は室内だそうです。迷わず冷房を使ってください。また特に高齢のご家族がいる場合は室温調整に気を配ってください。高齢者はエアコン嫌いの方も多いですが、感覚器が鈍り「高温や脱水状態に気づきにくい」ケースもあります。そのためより一層の注意が必要ろなります。
中には生活保護などの経済的に苦しいことにより、エアコンがつけられない場合もあるかと思います。その場合は行政の支援が受けられる可能性がありますので役所に相談することもおすすめします。
Ⅱー1 ケース2 酒を水分補給にしたら✖
Bさんは20代男性。夏休みになり、公園で友達と楽しくバーベキュー。喉も乾いてビールがどんどんすすみます。そしていつの間に友達とアルコールを一気飲み対決をすることに。休みなしにビールを三杯、四杯……。あれよかれよと楽しく飲み会は終了。Bさんはその帰り道に急な猛烈な吐き気を催し、路上で嘔吐。そして倒れこむように気を失ってしまいました。幸い通行人に救急車を要請してもらい、救急病院へ。点滴を急速投与され意識を回復しましたが、Bさんは現状を把握できず大暴れ。看護師を蹴り飛ばし、さらに暴れたことで吐き気がぶり返して。看護師や病室に吐きちらかしてしまいました。Bさんはそこで体力を使い果たし、三人がかりでベッドに戻されて再度点滴。1500㏄ほど点滴したところで意識がはっきりしてきました。ようやくことの重大さに気づいたBさん、看護師に叱られ、迎えにきた両親に怒られ、ふらふらになりながら帰宅しました。
Ⅱー2 アルコールの怖さと対策
アルコールも飲み物ではありますが、尿を出しやすくする反応があること、またアルコールを分解するのにさらに水分が必要になることでかえって脱水になりやすくなります。またアルコール分解中に出る物質により、二日酔い症状が出現します。さらに重症化すれば意識を消失してしまうこともあります。
Bさんは幸い意識が戻りました。しかし意識が戻らないことで人工呼吸器が装着が必要になる場合や、最悪そのまま死亡する可能性もありました。また真夏の屋外というだけで、前述した熱中症にもなるリスクは大変高かったので、看護師や両親の叱責だけで済んだことは本当にラッキーだったと思います。
アルコールの対策としては飲酒前・中・後ともに「アルコール以外の水分」をとりましょう。できればその水分もミネラルを含んだ飲み物を選択してください。そして空腹での飲酒はアルコールを吸収しやすくしてしまうので、飲酒の際には一緒に食べ物をたべましょう。お新香などは塩っ気(ミネラル)もあるので、一挙両得ともいえます。
そしてなにより嗜む程度の飲酒にして下さい。一気飲みは絶対にやめましょう。一気飲みをしない・させないを自分だけでなく周りの方にも広めて欲しいと思います。炎天下の飲酒もおいしいのはわかりますが、楽しい夏に悲しい思い出を作らないようにお酒とうまく付き合いましょう。
Ⅲ まとめ
夏は冷房は必須。雨天時には気温が下がりますが、湿気上昇により熱がこもるので冷房を使用してください。電気代は高くなるかもしれませんが、熱中症の治療費や治癒にかかる時間に比べたら安いもの。何よりも命には変えられません。そして極力外出は控えましょう。もし外出がしなければならないときは小まめな休養・水分補給、そして首もとや脇の下を保冷剤等で冷やすことをおすすめします。男の方もこれを機にぜひ日傘を使ってみるのはどうでしょう。
夏の屋外の運動は控えて欲しいですが、どうしてもやりたいのであれば夕暮れや朝方に無理がない程度に。または室内でできるトレーニングに切り替えてもいいかもしれません。
そしてお酒はほどほどに。飲みすぎで病院へ運ばれた時、看護師さんは表面上は優しくても、心の中では般若の如く怒っていることをお忘れなく。
今日の白衣の天使の黒い戯言は
「自主的な飲みすぎで受診する人は、医療費は全額自己負担でもいいんじゃない?」
というところで。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。