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だれか、いっそ歌にでもしてほしい。

はげも髪は切らねばならない。

亀仙人も、愚地独歩も、ブルース・ウィリスだって。
ボーリングの玉じゃないですからね。バリカンでガリガリとやらねばならんのです(この三人なら、カミソリかもしれないけれど)。

そしたらまぁ、、、風呂場で一人背中を丸めて、頭を丸める夜だってあるでしょう?

わたしとおんなじように。

☆☆☆☆

三十八歳。よく笑う妻と、泣き虫の子どもと。
うん、幸せな人生だと思います。

でも、そんな風に思えない時もあったわけでして。

十五歳の時に「おめ、ハゲてね?」と同級生にからかわれたとき。
大学のサークルの飲み会で、ネタにされたとき。
職場の先輩に、「いくつ?」と笑われたとき。

「かわいそう」なんて、死んでも(死んでも、死んでも)思われたくなくて。ヘラヘラしてたけど。

いや、泣きゃしないですよ。
ただ、吐きそうだっただけ。
誰かに笑われるたびに、世界と自分の間にぶっとい線が引かれていることを、突きつけられるんです。

☆☆☆☆

美容室は闘技場。
「今日はどうしますか?」と、鏡越しのきらきらした笑顔。視線を外してはいけない。それは敗北を、死を意味するのだから。
「いやぁ、髪薄いんで、短めでお願いします」
おまえは、誰に気を使っているのだ?
何に言い訳をしているのだ?
対戦者不在。たった一人の負け戦。
そんなことは、分かっているんです。
それでも、へらへらしゃべり続けるのです。
しゃべり続けねば、ならんのです。

☆☆☆☆

『あ…ありのまま、今、起こったことを話すぜ! な…何を言っているのかわからねーと思うが』

結婚式の前日のこと。
五年間通った美容室で、「あれ?」「え?え?」と思っている間に、鏡の前の自分が天津飯になっていた。

たしかに、催眠術とか、超スピードとか、そういう類のものではない。
いや、「いっそ、ボウズにしちゃいますか(笑)」「お、いいですね(笑笑)」って言っちゃったけどさー。
わたし一応、花婿ですよ?
本気だなんて、思わないじゃないですか?

、、、でも、わるくなかった。
むしろ、昨日までの『むりくりソフトモヒカン』よりも、ずっとよかった。

神さまはいるのかもしれない。
あ、やっぱいないかも。
とりあえず、立川駅前のビックカメラで、パナソニックのバリカンを買った。
わたしは自らの手で、自分自身に、福音を与えることができるようになったのだ。

世界との間に厳然と引かれた線は消え、十数年ぶりに、わたしはわたし自身と、仲直りできたのです。

☆☆☆☆

というところで終わらないのが、物語ではない、生の人生というやつでして。

三十八歳。よく笑う妻と、泣き虫の子どもと。
うん、幸せな人生。

「育毛剤なんて、いまさらなんで?」という妻の疑問に、「パパがはげって、子ども、かわいそうじゃん?」とか、「いやー、やっぱモテたくてさー」とかとか、言ってますが。

本当の本当(の本当)は、仲直りするだけじゃ全然足りなくて、もっともっと、自分を好きになりたい。

岡村ちゃんは、『君だけにモテたい』と踊りますが、わたしも、君(自分)にモテたい。
ロングシュートを決めたときの、あの子(自分)の顔が見てみたい。

、、、一度でいいからおれも、美容室の鏡に写った自分に「おッ!」って思ってみたいんです。

育毛剤は、効いているんだか。いないんだか。
未来は未確定。
神さまはいるんだか。
いないんだか。
関係ないか。

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平山 裕人
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