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【超ショートショート】(197)~真っすぐ伸びた円の上で手を繋で~☆ASKA『心に花の咲く方へ』☆

真っすぐ伸びた線の上を歩いているつもりだった。

最初に出逢った人がいた。
「あなたは誰?」
と尋ねると母だと言う。

母の意味もわからないまま、
ひとりで真っすぐ伸びた線の上を歩くよりも、
頼る人がいるほうがいいと、
自分からその母の手を取った。

ふたりになって歩く
真っすぐ伸びた線の上は、
楽しさでいっぱいだった。

母が上手に線の上を歩く僕を、
意味もなく誉めるときがある。

僕はそんなとき、
どうしてもほっぺと耳が赤くなると、
母が笑った。

そして僕は、 
どうしても恥ずかしさと、
でも笑っている母を見てると、
嬉しさが込み上げてくる。

だいぶ長い時間をふたりで歩いたときだった。

僕らの目の前に、
見たことのない景色が初めて見えた。

僕は、
その美しい景色の向こうを急いで見たくなり、
知らぬ間に母の手を離してしまっていた。

僕が、
その初めての景色を見れたとき、
母の姿がどこにもなかった。

僕は来た道を戻るけれど、
母はどこにもいなかった。

真っすぐ伸びた線の上を、
再び一人で歩くことになった僕は、
孤独から来る恐怖心に初めて支配された。

どんなに楽しいものを見ても、
どんなに美しいものを見ても、
どんなに楽しい会話をしたとしても、
母が居ないという孤独が、
僕の心を苦しめた。
ひとりぼっちが怖かった。

僕はそれから逃げるように、
無我夢中で真っすぐ伸びた線の上を、
明るい陽射しが照る中を懸命に走った。

走っていると、
自然と何も考えずに、
走ることだけに集中できた。

そんな感覚を初めて覚えた僕は、
嫌なものから逃げるには、
走ることが一番いいと、
走ることを習慣にしていった。

僕は来る日も来る日も、
長い間走り続けた。

西の果ての海が見渡せる崖の上に来たとき、
天から伸びる西日が、
崖の上へ階段を掛けるように、
舞い降りた。

その西日の光の階段から、
いつの頃かの母の姿を見た。

僕は、階段の下まで駆け寄ると、
その母も僕をめがけて、階段を走り降りた。

ふたりが互いを見るよりも先に、
互いを力いっぱい抱きしめていた。

僕は、
もう二度と逢えないかもしれないと思っていた
母にこう話した。

「僕のために生きてください!」

でも、母は笑ってこう答えた。

「それはムリよ!」

母は、
僕を崖の端まで連れてくると、
海の方へ指を指して、
こう話した。

「あなたは、
この真っすぐ伸びた線の上を歩いてきたけど、
よく見たら、線ではなく、円を歩いてきたのよ!
円には、同じ所を、同じ歳で歩くことも、
引き返すこともできないの。
私はあなたの母として、
あなたを育てる間だけ、
あなたの円と私の円を重ねて、
一緒に歩いてきたの。
でも、
その円から違う縁がふたりそれぞれ生まれて、
親子という円から離れたのよ!
とても寂しいことだったけど、
私はあなたの母として、
あなたが立派に走り続けるその姿は、
勇敢で、今も私の誇りよ!
あなたも今日までよく孤独に耐えたわね。
これからは、もう孤独ではないわね!
孤独と上手に友達になれば、
また縁ある人とこの円を重ねるときが、
ほら!見てごらんなさい!
すぐそこに見えてるでしょう?(笑)」

僕は母の指先の円の上にいる
これから出逢う人を見つけると、
母は再び西日が掛けた階段を
上がって行ってしまった。

僕が後を追おうとすると、
西日を東から来る暗闇に消されていき、
結局階段を上ることすらできなかった。

僕は仕方なく、
母が言う通りに、
真っすぐ伸びた円の上を歩き、
縁ある人を探した。

そんな円の途中に、
母が好きな花だと話していた
赤い花を見つけた。

あと少しで咲きそうなつぼみの姿。
それはまるで、
母の微笑みに似ていた。
母の満面の笑顔の前に、
穏やかな微笑みが必ず現れる。

その微笑みは、
初恋をした少女のように、
うっすらピンク色の頬になる。

それがなんとも可愛くて、
僕はずっと憧れている。

僕が出逢う運命の人は、
このピンク色の頬の人って。

そのピンク色の微笑みをする人が、
赤い花が咲くところを、
なぜか僕の横に来て見ている。

僕は、
その横の人を見ると、
母の微笑みに似たピンク色の頬をして
ニコニコと僕を見て微笑んでいた。

その人が、
母が指差した次の真っすぐ伸びた円を
一緒に歩く縁ある人だった。

僕らは、
赤い花を大切に持ち、
一緒にその真っすぐ伸びた円を歩いた。

母の手の代わりに、
その縁ある人の手を、
僕は初めて繋いで。

「明日も今日のこの出逢えた喜びを、
後ろから来る僕らを追い越す風にのせて、
僕らに届けてもらおうね」


(制作日 2021.12.17(金))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2003年12月17日発売 シングル
ASKA『心に花の咲く方へ』
発売から今日で「18周年」

この曲から考えた今日のお話。
解説を書いたほうがいいと思うけど、
少々眼精疲労が・・・(笑)。

この『心に花の咲く方へ』は、
また別の機会に、
ASKAさんのこの曲への思いの言葉を、
どこからか見つけて、
書いてみようと思っています。
ASKAさんにとっても、
ファンにとっても大切な名曲ですから、
大切に、またお伝えいたします。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
ASKA
『心に花の咲く方へ』
作詞作曲 ASKA
編曲 旭純
(2003.12.17発売 シングル)

YouTube
【ASKA Official Channel】
『心に花の咲く方へ』Music Video
https://m.youtube.com/watch?v=DJUwTQ1t_L4




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