【超ショートショート】(166)~あなたは・・・?~☆CHAGE&ASKA『めぐり逢い』☆
「あっ、ここどうぞ!」
「あっ、ありがとうございます。」
それが、
ふたりの最初の会話。
朝のバスがふたりの出逢い。
始発から彼が乗り、
いつも最後尾の座席に座る。
ちょうど、
地下鉄があるバス停で、
たくさんの乗客が入れ替わる、
その中に彼女がバスに乗る。
いつも、大きな荷物を持っている。
最初の出逢いの日から、
ふたりは顔見知りになり、
一緒にバスに乗っている、
朝の10分程の時間を、
毎日楽しみにしている。
出逢いから、
1ヶ月が過ぎる頃。
「あの~、明日はお休みですね?」
「えっ!?お休み?」
「えぇ~、明日は勤労感謝の日でお休みです。」
「でも平日ですよね?」
「えぇ~、でも平日に祝日があれば
お休みになりますが?」
「はっ!えっ?そうなんですか?(冷汗)」
「明日もお仕事ですか?」
「あっ、はい!そうなんです。」
「それは大変ですね。(笑)」
「いいえ、この1年位、
休日になった日はないんですよ!(苦笑)」
「それは、どうしてですか?
まさか、ブラック企業とか?」
「いいえ、いいえ違います。(笑)」
「そうですか。
でも何でお休みになれないのですか?」
「いえね、仕事がある日は仕事なんですけど、
施設におじいちゃんを預かってもらってて」
「あなたの職場の?」
「えぇ、私、老人ホームで働いていて、
もともと在宅でおじいちゃんの世話を、
パートをしながら見ていたんですけど」
「うん」
「おじいちゃんが認知症になってからは、
パートの4~5時間でも家を空けることも
難しくなって、そう、何度が行方不明にもなって、
警察の人に捜査をお願いすると、
〈またですか?〉って嫌み言われてね(笑)。」
「・・・」
「だってしょうがないじゃないですか?
おじいちゃんが行方不明なんだから、
探してもらわないと、ね?(笑)」
「はい(苦笑)」
「それで、認知症でも入れる施設を探したら、
施設の方が、〈一緒に働きませんか?〉って。
〈とっても人手不足だから、最近2人も退職して、
認知症の方のお世話まで手が回らないの。
もしあなたがここで働いていてくれたら、
おじいさんの入居を許可でしますが、
いかがですか?〉って言われてね。」
「それで・・・」
「そう、それで、私が働いていて、
おまけにおじいちゃんを入居させてもらえたの。」
「だから、お休みの日でも施設に?」
「そう、うふふ(笑)」
「うん?何で笑ってるんですか?」
「いえね、私何でこんなに、まだ何もしらない人に
しゃべってるのかって、おかしくなって(笑)」
「あっ、すみません!
立ち入るつもりはなかったんですが(困)」
「いいんですよ!(笑)
私がついおしゃべりしたかったみたいだから(笑)」
「はぁー。」
「私、仕事でお話する以外は、
いつも家でテレビと話していてね(笑)」
「テレビ、ですか(苦笑)」
「そう、テレビ(笑)今まで、
家でテレビを見れる時間なんて、
おじいちゃんがいた間はなかったから。
最近は韓流ドラマが流行ってるって、
ヘルパーのコたちが話すから、
話題に乗るつもりで見たの(笑)。
〈愛の富士山〉?」
「《愛の不時着》です(苦笑)」
「あっ!そうそう《愛の不時着》、
そうよ!《愛の不時着》よね(恥)」
「えぇ~(笑)」
「私ったら、韓国に富士山なんて無いのに、
何言ってるのかしら、本当に恥ずかしいわ(苦笑)」
「でも、ドラマは見られてるんですよね?(笑)」
「へっ!?ドラマ?」
「《愛の不時着》です!」
「あっ!そうよね《愛の不時着》。
もちろん見てますよ!毎週?(困)」
「毎週ですか?」
「あらっ?毎週、
フジテレビの月9じゃなかったかしら?」
「はっはっは(笑)」
「何で笑うんです?
私、おかしなこと言いました?(怒)」
「そうじゃなくて(笑)。
ひょっとして、まだ見てませんね?
〈愛の富士山〉(笑)」
「見てますよ!そう〈愛の富士山〉?」
「(笑)」
「もう!《愛の不時着》じゃない!(怒)
私を試したのね!(苦笑)」
「えぇ~、試しました(笑)」
「もう~!なんて意地悪な人なの?!(恥怒)
からかわないでください!」
「からかってなんかいませんよ!(笑)」
「ほらっ!今、笑ったじゃないですか!!(怒)」
「だって、かわいいから(笑)」
「へっ!?かわいい・・・?(赤面)」
「ほらっ!赤くなった!(笑)」
「もう~!いい加減にしてください!(恥怒)」
周囲にいたお客さんは、
ふたりの話を聞きながら、
彼女の怒った様子にみんながほほえんだ。
彼女の前に座っていた
品のよい着物姿のおば様が、
「あなたたち、仲がいいのね!
まるで新婚さんみたいよ!(笑)」
「それは、どういう意味ですか?」
「犬も食わないケンカってことよ!
あなたも奥さんに、
もう少し優しくしなさいな!(笑)」
「はい(苦笑)」
その翌日の勤労感謝の日の平日の祝日の日。
彼女は仕事に行くために、
いつものバスにいつものバス停から乗車。
休みの日なのに、
いつものラッシュよりも、
たくさんの人が乗っていた。
みんな、これからどこかに遊びに行く
家族やカップル、友達たち・・・。
毎日の習慣で、
いつも座る最後尾の席へ歩く。
「あっ!おはようございます!
ここ、どうぞ!(笑)」
今日はお休みのはずのサラリーマンの彼が、
いつものスーツから
カジュアルなオシャレな人になって、
いつもの席に座っていた。
~今日は、デートかな?~
~彼女でもあるのかな?~
~それにしても、今日はなんだからステキね!~
「あの~、今日は?」
「今日はお休みです。僕の会社は祝日は
休みになりますから。」
「それで、今日は?」
「今日はって?」
「デートですか?」
「デート?!(笑)いいえ違います。」
「はぁー、そうですか。」
「はぁーって?」
「へっ?」
「いやね、
何でそんなに深いため息をしたのかなって」
「いけませんか?」
「いいえ、そうじゃなくて(苦笑)」
「・・・(恥)」
「今日はお仕事ですか?」
「はい、今日は仕事です。」
「毎日大変ですね。」
「いいえ、きのうはお休みで、
午前中だけ施設で、おじいちゃんのお世話をして」
「そうですか。」
「それから午後は、久しぶりに友達とあって、
買い物したり、新しいオシャレなカフェに
連れていってもらって楽しかったですよ!(笑)」
「そうですか!それは良かった!(笑)」
「良かった?うん、良かったですよ!
でも何であなたが良かったって言うんです?」
「いや、今日、もしあなたがお休みなら、
〈お茶でもしませんか?〉って、
誘うつもりでしたから。(笑)」
「・・・(恥)」
「いや~、きのうお友達と遊んだんなら、
僕の誘いは・・・乗ってくれませんよね?(笑)」
「・・・(困)」
「もし、良かったら、
今日の夕飯、一緒に食べませんか?」
「でも、仕事がありますから。」
「残業ですか?」
「いいえ、残業はないんですが・・・」
「・・・」
「定時には帰れるのですが・・・」
「むずかしいですか?」
「そうですね、
おじいちゃんのお世話もあるから・・・」
「じゃあ、また今度にします(笑)」
「・・・あっ・・・の~・・・」
「はい!(笑)」
「今度じゃあ、困ります。」
「うん?」
「あの~、えっ~と・・・」
「はい・・・」
「あなたの・・・」
「はい・・・」
「あなたの・・・お名前は何でしたっけ?」
「えっ?!」
「私たち、まだ自己紹介してませんでしたね(笑)」
「そうですね?そうですね!(苦笑)」
「私は・・・」
バスが彼女の勤める老人ホームの
最寄りのバス停に到着。
ふたりは自己紹介もできぬまま、
今日のデートの返事もできぬまま、
彼女はバスを降り、
彼はそのままバスに乗り、
互いを見送る。
ふたりは、
出逢った日の翌日の朝、
こんな話をしている。
「もしも、災害が起こって」
「災害?」
「最近多いじゃないですか、京都市内も」
「そうですね、鴨川とか?」
「えぇ、だから、もし災害が起こって、
例えば僕らが付き合っている恋人としたら、
あなたは、どこで待ち合わせしますか?」
「待ち合わせ?」
「そうです。お互いが仕事に出ているとき、
どこに落ち合うかってことです。」
「・・・そうですね・・・」
「僕は、安全な所がいいと思うので、
川からも山からも離れた所・・・」
「どこがいいかな・・・」
「やっぱり京都駅がいいですかね?」
「京都駅?」
「そう、京都駅なら、電車もバスもありますし、
高いビルもあるから
待ち合わせしやすいかなって。」
「そうですか?」
「ほら、京都タワーが目印になるから」
「そうですね。遠くからでと見えますからね。」
「そうしたら、
僕・・・京都タワーで待ってますから」
「京都タワーのどこ?展望台?」
「そのときの状況によりますが、
水害なら展望台で、地震ならお土産売場の1階で、
僕は待つことにします。」
「はい!?(困)」
「じゃあ、指切りしましょう!(笑)」
「はい・・・(困)」
「韓国の指切りって、
日本と少し違うの知ってますか?」
「はい、小指を合わせるまでは同じで、
歌うのも同じで、」
「そうです、そのあとです」
「そのあと?」
「最後に、小指を離さないで、
お互いの親指を合わせるんです。(笑)」
「親指?」
「そうです。まるでキスするみたいな感じで(笑)」
「キっ!キっ!キッス!!?(恥)」
「はぁはぁは、そんなに驚かないでください(笑)
親指のキスくらい(笑)」
「・・・(赤面・怒)」
勤労感謝の日の夕方、
彼女は定時に仕事を終え施設を出た。
帰りのバスの時間が迫っていた。
忙しいで渡るいつもの横断歩道。
青だったのに、
彼女は渡らなかった。
朝降りたバス停に並ぶと、
京都駅前のバスがやって来た。
彼女は嬉しそうに、
朝と同じ座席に座り、
終点を待った。
夜が夕焼けを覆い尽くす頃、
やっと京都駅前のバス停に着いた。
彼女は、そのまま地下道を歩き、
迎えの京都タワーへ。
地震でも水害でも何でもない日は、
どこで待ち合わせするのか?
彼から聞くのを忘れたと、
一瞬考えたが、
脚は、展望台へと急いでいた。
辺り一面、京都の夜景の中を、
景色に見惚れ余裕もなく、
まだ名前も知らない、
彼を探して展望台を1周2周・・・。
どこにもいないと、
あきらめの気持ちがわいた頃、
今日の仕事の疲れがどっと出てきた。
そのまま、北の夜景を眺めて脚を休ませる。
「いや!待った?(笑)」
彼女は、
おどけた彼の笑顔を見ると、
自然と涙があるれた。
そして、
本能のまま、
彼の胸に飛び込んだ。
「僕、ずっと一緒にいたのに、
気づきませんでしたか?ゆき子さん!」
「えっ!」
「僕、何度も、ゆき子さんが、
ここに来るまで名前を呼んだのに、
気づいてくれなかった(苦笑)」
「えっ、何で名前を?」
「今日、ゆき子さんの同僚の方に、
施設近くの公園で出会って、
通勤が一緒とか言って知り合いのふりしていたら、
名前を教えてくれて(笑)」
「そう・・・(笑)」
「そうだ!僕の名前はまだでしたね?(笑)」
「克徳(かつのり)さん、でしょう?(笑)」
「えっ?!」
「毎日、お名前が見えたいたから(笑)」
「どこ?」
「定期入れ(笑)」
「あっ(笑)」
(制作日 2021.11.16(火))
※この物語はフィクションです。
今日は、
1994年11月16日発売 シングル
CHAGE&ASKA『めぐり逢い』
発売から今日で「27周年」。
この曲を参考にしながら、
フジテレビドラマ『妹よ』の
主題歌ということから、
彼女の設定は、
そのドラマの主人公でした
妹役の和久井映見さんにしています。
だから、
和久井映見さんのお声で読んでもらえると、
映見ちゃんのようなかわいらしい女性が
見えてくると思います。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『めぐり逢い』
作詞作曲 飛鳥涼
編曲 澤近泰輔
(1994.11.16発売・シングル)
YouTube
【CHAGEandASKA Official Channel】
『めぐり逢い』MV
https://m.youtube.com/watch?v=8fVdnr0FDa4