【超ショートショート】(142)~あなたと一緒になれるなら~☆CHAGE&ASKA『Trip』☆
都会の海沿いに建ち並ぶ高層ビル軍の群れ。
その中にポツンと昭和な雰囲気を残した
平成の高層ビルよりもかなり小降りな高さで、
静かにエモさを通行人に与えながら、
時々人々の注目の的になるのを
喜んでいるビルがあった。
そのビルの名前は、摩天ビル。
摩天ビルが建設された時、
すでに周囲は昭和の高層ビルの森があった。
この摩天ビルには、
建設当時から、最上階の部屋の片隅に、
幻のカラスが棲んでいた。
その幻のカラスは、
全身の色が黒ではなく白。
他の黒カラスからいじめに合うため、
時々紅い斑点を付けて帰ってくることもあった。
最上階のカラスの棲む巣に一番近い、
この摩天ビルで一番家賃が高くて広い部屋に、
ある特別な住民が住むことになった。
住民は、超が付くほどの有名人。
プライバシーを守るために、
高層階の部屋を探していた。
住民は、望月朝日(もちづき あさひ)。
芸名のようだが、正真正銘両親が名付けた本名。
望月には、世間に内緒で交際している
女優の彼女がいた。
この彼女とデートするためにも、
この部屋に引っ越した。
交際は絵に描いたように順調。
そんな幸せな毎日のある朝、
彼女が帰るのを部屋から見送る望月は、
何処からともなく聞こえる
子猫のような鳴き声に気がつく。
その声を探しために、
部屋中を静かに耳をすませながら歩き回る。
すると、ベランダに、
白い鳥が左の翼から血を流しながら、
痛さで声すら出せない、そんな弱った声で、
まるで望月に助けを求めるように、
命をかけたように鳴いていた。
望月はすぐさま動物病院へ駆け込み、
白い鳥の一命を取り留め、
約1ヶ月の世話を望月は自身の部屋でしてあげた。
望月が約1週間の海外での仕事から
部屋に戻ると、
あの白い鳥は姿を消していた。
望月が、すでに親心のような情を抱いていたから、
いないという現実に一瞬で孤独になり、
部屋中を探したが、治ったばかりの白い羽を一つだけ残して、
あの白い鳥は望月の前から消えたのだ。
その日の夜、
望月の帰国を待っていた彼女が、
望月の部屋を訪ね、二人の時間を思う存分楽しんだ。
だが、望月はそんな彼女の気持ちとは裏腹に、
あの白い鳥のことばかり気になって、
目の前で戯れる彼女にさえ、
心が動かない、そんな自分の気持ちに、
戸惑いが生まれていた。
翌朝、彼女が帰宅すると、
やっと望月は一人の時間を獲得し、
静かな眠りへと落ちた。
白い鳥が望月の部屋から居なくなってから、
2週間が過ぎた満月の夜。
望月の高層階からは、
その満月さえも独り占めできる、
そんな絵画のような部屋の窓。
月明かりで部屋中が明るくなる頃、
誰かが訪ねてきた。
望月は彼女だろうと予想したのだが・・・
知らない白い肌がとても美しい女性が立っていた。
望月は誰かと尋ねると、
白い鳥の飼い主だと答えた。
そしてその飼い主の女性は、
望月にどうしてもお礼をしたいと、
その思いに応え、望月はその女性を部屋に入れた。
その飼い主の女性が部屋に入ると、
望月は、白いのは肌だけじゃなく、
そのドレスまでも、全身が白一色だったと気づく。
そして、その女性は、
ある不思議な恋の物語を教えてくれた。
昔、真っ白な鳩が、
ある通学途中の小学生の男の子に、
車に弾かれそうになるところを助けられた。
その鳩は、
一生を終えるまで、
その男の子を感謝のつもりで見守り続けた。
それから数年して、
その真っ白な鳩が、
真っ白なカラスとして生まれた。
そのカラスは、
いつも真っ黒なカラスたちにいじめられ、
命の危機を何度も迎えるほどケガが絶えなかった。
一番重篤なケガをした日、
真っ白なカラスが棲む巣の部屋に、
一人の男の人が引っ越してきた。
真っ白なカラスは、
もうケガの痛みに耐えられず、
その翌朝、その男の人に助けを求めるために、
最後の命を削るように鳴いた。
そして、真っ白なカラスは助けられた。
もともと真っ白な鳩から真っ白なカラスになった鳥は、
メスで、最初に出会ったあの小学生の男の子に恋をした。
男の子が成長するなか、
女の子とデートをする姿を、
いつも羨んでいた。
「何で私は鳥なのか?
どうしたら人間になれるのか?」
真っ白なカラスとして、
その一途に思い続けてきた男の子、
望月朝日に介抱され、
メスの鳥の想いは成就したようだった。
だが、
さらに恋しさが増し、
その真っ白な鳥は、
神様にこう約束をした。
「私はこの魂で、いくつもの人生を歩むことを放棄します。
その代わり、あの人と人間としてお付き合いできるように、
どうか私を人間にしてください。」
そして、
今望月の前にいる、その女性が、真っ白な鳥のメス。
望月は、その人間になった鳥の女性に、
その話が真実か確認できることはないかと尋ねられ、
女性は手の中から一枚の真っ白な鳥の羽を出した。
望月がその羽を見たとたん、
何かを思い出したように、
デスクの引き出しに大切にしまっていた、
介抱して助けたあの真っ白なカラスが残していった
羽を取り出した。
望月と女性はその羽を重ね合わせると、
何かを以心伝心したように、
ふたりは、鳥の羽を広げ、
互いを自分の中へ包み入れた。
部屋の窓の満月の月明かりに照らされたふたりは、
ふたりの鳥のシルエットを見ながら、
よりそのシルエットで影絵を楽しむように、
想いが尽きぬまで戯れて遊んだ。
ふたりが摩天ビルの上空を飛行すると、
その上からオリオン座流星群の流れ星が、
まるでふたりの未来を祝福するように、
都会の海沿い高層ビル軍の群れに降り注いだ。
ふたりは、朝が来るまで、
何度も何度も摩天ビルの上空を
気持ちよく飛行する中、
望月の部屋の片隅にあるベルが鳴っている。
ふたりはふたりの戯れたの羽の声で、
そのベルの音には気づかない。
モニターの向こうに映りのは・・・
女優の彼女。
ふたりの寝息に静かに朝が訪れると、
望月の心にはもう女優の彼女は住んでいなかった。
(制作日 2021.10.23(土))
※この物語はフィクションです。
今日は、
1988年10月25日発売 シングル
CHAGE&ASKA『Trip』
発売からまもなく「33周年」になります。
今日はこの『Trip』を参考に、
恋のお話を書いてみました。
参考にした歌詞を少し書いてみます。
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摩天の森月 呼吸をしてる
恋人達は呑み込まれて
レモンの月が落とす滴
素肌に浴びたい気がするわ
しゃらしゃら 涙も溜まらないうちに
また恋の迷路 てをつなごうよ引かれて行く
~~~~~
心に棲みついた 顔と身体と
少女の切なさが 傾いて行く
そこからは 入れ替わる シルエット
~~~~~
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『Trip』
作詞作曲 飛鳥涼
編曲 十川ともじ
(1988.10.25発売)
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『ENERGY』
(1988.11.21発売)