【超ショートショート】(115)~千もの写真、想いを込めるひと~☆CHAGE&ASKA『万里の河』☆
夜の運河沿いの遊歩道に、
ひとり、カメラの三脚を立て、
立派なカメラをセットする高齢の男性。
何を撮影していたのだろうか?
おそらくアマチュアカメラマンとして、
腕を磨いてこられた方なのだろう。
翌朝、同じ運河沿いの遊歩道で、
日課のジョギングをしていると、
昨夜あの男性のいた場所に、
忘れ物のカメラのふたが落ちていた。
大切な物だと思い、拾った瞬間、
そのカメラのふたから手に、
そして全身に電気が走ると、
突然目の前の景色が変わった。
時代は、昭和45年頃。
25歳の男性がスーツ姿で、
大きな川沿いの遊歩道を歩いていた。
緑の桜の木の下のベンチに座ると、
反対から女性が歩いて来て、
同じベンチに座った。
2人は恥ずかしそうにお互いを
チラチラと見つめ合いながら、
女性から手渡されたお弁当を男性も一緒に食べた。
食後、2人は笑顔で、別れを惜しむように、
一歩一歩後退りするように、
手を降り続けながら歩いた。
裸の桜の木の下のベンチに、
男性が座って誰かを待っていた。
すると、別の女性が現れ、ベンチに座った。
しばらく2人が話をしたあと、
男性は人目を気にせず涙を流していた。
そして、別の女性が帰る時、
男性に一通の手紙を渡した。
男性は、
その女性が立ち去ったあと、
その手紙を読んだ。
~~~~~
◯◯さんへ
お元気にしていますか?
お弁当を作れなくなってしまってごめんなさい。
あなたがいつも、
私のそんなに上手じゃない料理を
誉めてくれて、
お弁当も美味しい、美味しいと食べてくれるから、
私、とても嬉しかったです。
あまりに嬉しくて、
台所用品をたくさん買ってしまったのよ。
もうお弁当を作ってあげることも、
桜の木の下のベンチでお話することも、
私にはできなくなりました。
私は、あなたが話してくれる運河の話や船の話、
それにあなたが撮影する写真が、
とても好きでした。
特に、あなたに頂いた、
晴海運河からの景色が、
私はいちばん好きでした。
また、これからもたくさん撮影して、
いろんな人に見せてあげてください。
あなたの写真には、
愛がありますからね。
~~~~~
また、全身に電気が流れたと思ったら、
昨夜の男性の姿があった。
「あの、ここで何をしてるんですか?」
(高齢の男性)
「運河を撮影に来ました。」
「ご趣味ですか?」
(高齢の男性)
「はい、もう何十年も
アマチュアカメラマンをしています。」
「あの、これ、カメラのふたが落ちていましたが、
あなたのですか?」
(高齢の男性)
「あっ!そうです。僕のです。
ありがとうございます。」
「あの、奥さんは?」
(高齢の男性)
「おりません。」
「今は?」
(高齢の男性)
「いいえ。ずっと独身です。」
「あの・・・ひょっとして・・・、
まだあの女性を愛しているんですか?」
(高齢の男性)
「あの女性?・・・(笑)」
「失礼があったら、ごめんなさい。
でも、見てしまったんです!
あなたとその女性が、
川沿いの桜の木の下のベンチにいるところを。」
(高齢の男性)
「そうですか、見られちゃいましたか(笑)」
「あの、あの女性は?」
(高齢の男性)
「亡くなったんですよ!まだ24歳でした。」
「そうですか。」
(高齢の男性)
「彼女は、僕のために
お昼ご飯に弁当を毎日作ってくれて、
いつかちゃんと付き合って結婚しようと、
約束していたんです。
でも、僕の出世が思うように進まず、
彼女を養うまでには、
あの時の僕には難しかった。
彼女をずっと待たせてしまったんですよ、僕が。」
「でも、彼女は待ってくれたんでしょう?」
(高齢の男性)
「はい、待ってくれたから、
逆に病気になったことも
僕に心配させないように隠して、
ひとりで闘病させてしまいました。」
「病気を知ったのはいつ?」
(高齢の男性)
「彼女が亡くなってから、
彼女の同僚に教えてもらった時。」
「クリスマスの日ですか?」
(高齢の男性)
「そう!そこも見ていたんだね!(笑)」
「はい、ごめんなさい。」
(高齢の男性)
「あの時、彼女が亡くなったと聞いて、
何も考えられなくなって。
彼女の手紙もあの時、読んで、余計に泣けてね。
自分のことなんて1つも話さず、
僕の心配や僕の写真を誉めてね。」
「だから、写真を撮っているんですか?」
(高齢の男性)
「そうだね。彼女に見せるために、
彼女が気に入りそうな綺麗な風景を探して、
全国いろんな所に行ったよ!
そんなことしていたら、
今の歳まで独身になった訳だけど(笑)」
「今も彼女のことが好きですか?」
(高齢の男性)
「あぁ~、好きだよ!
僕にとっていちばん大切な女(ひと)だね。」
高齢の男性が照れくさそうな笑みを浮かべると、
再び身体に電気が走り、
最初の朝に戻った。
手にはカメラのふたはもうなかった。
そして、何事もなかったようにジョギングを再開。
一周を走り終えると、
またあの高齢の男性がいた場所に戻って来た。
すると、
今度は一枚の写真が落ちていた。
「また電気が走るのか?嫌だな。」
そう思いながら拾ってみた。
何も起きなかった。
安心しながら、ゆっくり視線を写真に移すと、
昨夜の高齢の男性の後ろに、
男性に寄り添うように
微笑む24歳程の綺麗な女性が写っていた。
「あれ?この女性は・・・」
高齢の男性は、その写真のなかで、
その女性と手をつないでいた。
「あっ!でも、この彼女は亡くなっているはず。」
高齢の男性はおそらく、
24歳で亡くなった彼女と、
ずっと写真の2人のように、
ふたりで過ごして来たのだろう。
そんなことを思いながら、
ふと写真を裏返した。
すると、そこには、
~~~~~
愛しの君へ
万里の河の果てにいる君のもとに
僕の想いが届きますように
今日は君の好きな晴海運河にやって来ました。
また、いつものように河に流すから、
僕の想いを受け取ってください。
~~~~~
突然、海からの強風が吹いた。
手に持っていたはずの写真がなかった。
近くの河の水面に視線を落とすと、
あの写真が波に飲まれて行った。
(制作日 2021.9.26(日))
※この物語はフィクションです。
今日は、
きのう発売41周年記念日でした、
CHAGE&ASKA『万里の河』を参考に、
お話を書いてみました。
この『万里の河』の歌詞をじっくり聴いてみると、
なんともせつない歌詞なのだろうと思いました。
何かを待つって、
とても大変なことですね。
自分にも待つ経験があるので、
その過去を振り返れば
「大変だったな」って思ってみたりしますが、
そのときは、そんなことも苦ではないんだな
と思ったりします。
自分の話はさておき、
「『万里の河』の歌詞って深いな~!」
というのが今日のいちばんの感想でした。
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『万里の河』
作詞作曲 飛鳥涼
編曲 瀬尾一三
(1980.9.25発売)
YouTube
【CHAGEandASKA Official Channel】
『万里の河』ライブ映像
https://m.youtube.com/watch?v=JCgQAqOf90E