【超ショートショート】(118)~生(は)える翼、欲望の罠(わな)~☆ASKA『Kicks Street』☆
「先日、海外旅行に行ってきたんですけど、」
そう声をかけられた。
「これおみやげです。
とってもめずらしいお菓子みたいです。」
手渡されたおみやげは、
瓶に入った色とりどりのラムネだと言う。
「色によって効果が違うって、
お店の人が言っていました。」
とりあえず、無難な白色のラムネを一粒口にした。
ふつうに美味しい日本のラムネの味だった。
それから数時間が過ぎた時、
背中にかゆみを感じた。
時間が過ぎる程にかゆみが増し、
ついにこう周囲にお願いした。
「すみません。誰か、
背中を掻(か)いてもらえませんか?」
するとラムネをくれた同僚が、
申し訳なさそうな表情を浮かべて、
背中を掻いてくれた。
「ここですか?」
「そう、そこ!」
「やっぱり・・・・・」
ラムネをくれた同僚が、
おみやげを買った時の話をし始めた。
「このラムネを買う時に、
お店の人にある注意を受けたんです。」
「どんな?」
「最初に食べるラムネは赤色からと。」
「何で赤色から?」
「赤色が一番効果が無く無害だから、
アレルギー反応を見るために、
最初に赤色を食べさせて
身体の反応を見たほうがいいと。」
「でも、
さっきそんなこと言わなかったじゃないか。
だから白から食べてしまったよ!」
「白色は一番効果があるので、
最後にアレルギーの無い人に食べさせろって。」
「白色のアレルギーって?」
「もう背中に出ています。」
「背中のかゆみ?」
「違います。背中に・・・・・」
「背中に何よ!(怒)」
「背中に翼が生えてくるんです。」
「何で背中に翼が生えるんだよ!(怒)」
「それはわかりません。
でも、白色を食べると翼が生えるって
話していました。」
「じゃあ翼が生えたらどうなるんだよ!」
「それは・・・・・(涙)」
それ以上、同僚は泣いてしまって
部屋を出ていってしまった。
別の、ラムネの話を事前に聞いていた同僚が、
こう話した。
「翼が生えたら、人間ではなくなるそうです。」
「人間ではなくなるって?」
「それはわかりませんが、
彼女がラムネを買ったお店って、
あの有名な何とかストリートにあるんですよね。」
「それがどうしたの?」
「彼女が旅行した国の
その・・・何とかストリートって
昔のブラックマーケットみたいな、
日本なら闇市とか台湾なら夜市とか。
怪しいお店があるって聞いたことがあります。」
「その怪しいお店のラムネってこと?」
「そうです。どこか海外の絵本にもありました。
何とかストリートにあるカラフルなラムネを売る
おみやげ屋さんは、
実はコウモリが店員に化けているとか、
ドラキュラが化けているとか、
大天使ミカエルが化けているとか・・・。」
「それで何で白色のラムネを食べたら
翼が生えるようにしたんだ?」
「詳しくはわからないけど、
コウモリもドラキュラも大天使ミカエルでも、
要は仲間を増やすためみたいですよ。
そう絵本に描いてあるそうですよ。」
そんな話をしながらも、
背中のかゆみは増すばかり。
同僚たちは、成長する翼を見て、
恐怖で言葉を失いはじめる。
無性に、
身体の奥底から奇声を上げろと誘う声がする。
たまらず、
言われるがままに奇声を上げてしまった。
すると同僚たちは、獣にでも変身したかと錯覚、
一目散に部屋から消えていった。
翼はそんな騒ぎに関係なく、成長を続けた。
かゆみを感じた頃から2時間が過ぎた頃、
ラムネをプレゼントした同僚が、
見知らぬ人を連れて戻って来た。
「あの、背中は?」
「あぁ、かゆみは止まったが、
見ての通りの有り様だ。」
「あっすみません!」
「もういいよ!今さら謝ってもらっても、
元には戻れないんだろう?」
「いいえ!元に戻れます!」
「へぇ?戻れるの?」
「はい!(笑)」
「どうやって?」
「それが・・・この方・・・」
「この方が何よ?」
「この方が治してくれるそうです!」
「お医者さん?」
「あっ、いいえ、違います!」
「じゃあ誰?」
「あっはい!そのラムネを買ったお店で
アルバイトしていた方です。」
「じゃあコウモリの人ってこと?
ひょっとしてドラキュラ?」
「ハッハッハ!面白いことを言う人だ!
私をどこから見ても人間だろう!
それも日本人!(笑)」
「まぁ見た目はですよね!
化けられるなら何人にもなれますよ!」
「まぁそんなにカリカリするな!
これから僕が言うことを真似してごらん!」
「真似?」
「そう!治療は真似からだよ!君!」
そう話したあと、おもむろに上着を脱いで、
背中を見せた。
「へぇ?!翼が・・・!?」
「そうだ!僕にも翼があるんだよ!」
「じゃあ、やっぱりあなたはコウモリ?
ドラキュラ?・・・・・」
「ハッハッハ!まだそんなことを言うのか君は。」
「でも、だって・・・」
「翼を無くすことはできないが、
翼をコントロールすることで、
ふつうに生活ができるようになる。」
「ふつうなら、翼を無くしたい!」
「無くす方法はな、無い訳じゃないんだが、
とっても困難がともなうんだ!」
「それでもいいから教えてください!」
「そのためにもまず翼をコントロールすることが
大事なんだよ!君!」
「どういうことですか?」
「この翼で、ある所まで飛んで行き、
そこに生えていると言う解毒効果のある
果実を取らなきゃならないんだ!」
「ある所って?果実って?
どうして翼がいるの?歩いては行けないの?」
「歩いては行けぬ!
この翼が通行手形になっているからじゃあ!」
「どこに行くんですか?」
「それはな、ニューヨークのマンハッタンにある、
満月の夜にしか現れないKicks Street。
この通りに、
現れるブラックホールというクラブがある。
その店の奥にあるブラックホールの入り口から、
そのある所へと向かうのだ。」
「どうやって?」
「どうやっても、こうやってもないだろう!
翼があるものは皆、自由に出入りしている。」
「自由に?!」
「そうだ!だが、満月の夜の数時間だけだ!
もし、その数時間のうちに、
入り口まで戻って来なければ、
二度とこの世に戻ることができない。」
「じゃあ無理じゃないですか!」
「まぁまぁ、そう落ち込むな!
僕はもう何度も出入りをした経験がある!」
「何度も?何で何度も?」
「何でと言われると困るのだが、
ある意味趣味みたいなものだな!(笑)」
「翼が趣味?」
「そうだ!翼が趣味なのだ・・・というよりも、
翼を背負っているのが好きみたいだ!」
「じゃあ、
そのままでいればいいじゃないですか!」
「えっ、うん、うん。
だがな、翼が生える瞬間は意外と
気持ちの良いものでな。
もう10回は生やしているんだよ!(笑)」
「あ・ん・た、本当に人間?」
「あぁ、日本人さ!」
「へぇ。(疑)」
「じゃあ、いいんだな、人間に戻れなくても?」
「それは困る!
早く翼を取って人間に戻してくれ!」
「よし!わかった!
では、早速僕の真似をしたまえ!」
「は~い!(疑)」
同僚が連れてきた翼をこよなく愛する変人から、
一通り翼のコントロール方法を教えてもらった。
そして、
翼を持つふたりは、
翌月の満月の日に合わせて、
ニューヨークへ向かった。
「ニューヨークに行く旅費は無いですよ!」
「大丈夫だ!ほら見てみろ!」
「何を?」
「背中を!」
「背中?」
「そうだ!翼があるじゃないか!」
「この翼で飛んで行くんですか?
何時間かかるんですか?」
「さてね、約1時間くらいかな(笑)」
「ニューヨークまで1時間?」
「そうだ!だから旅費はいらない!
つまり交通費0円だ!(笑)」
「でも、入国審査とかは?」
「そんなもんいらない!」
「それじゃあ不法入国じゃないですか!」
「入国はすでに許可されているんだよ君。」
「なぜです?」
「ほら、見てごらん!翼を!ここに・・・」
「入国許可のスタンプ?!」
「そうだ!翼があれば、
それだけで何でもOKなんだよ!」
「だから、あなたは翼が好きなんですか?」
「僕かい?旅行なんかで翼を好きにならないよ!」
「じゃあなぜ?」
「それはな・・・」
翼をこよなく愛するその変人は、
少しずつ伸びてくる手の爪を背中の翼に隠し、
ニューヨークまでの道中、
沸き立つ欲望を抑えるように、
口元に長い犬歯を成長させている。
「あの~もうすぐニューヨークですか?」
「あぁ、あと1分だ!(笑)」
(制作日 2021.9.29(水))
※この物語はフィクションです。
今日は、
明日9月30日が、
ASKAコンサートツアー『Kicks』の
VHS発売「23周年」記念日。
この映像に収録されている曲『Kicks Street』
を参考にお話を書いてみました。
ご紹介できる映像がないので、
少しだけ歌詞を書いておきます。
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(2番)
希望や未来を語るような 面倒な奴はいない
もっと深いいいこと 新しいこと
もっと素敵なやり方だけがある
その名も“Kicks Street”欲望の街
ビルに挟まれた螺旋下で 影がひとつになる
名前と身体を知り合うことが すべてのような
男が求めないものが 女じゃないにしろ
その名も“Kicks Street”
“Kicks Street”
~~~~~
(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/
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参考にした曲
ASKA
『Kicks Street』
作詞作曲 飛鳥涼
編曲 松本晃彦
☆収録アルバム
ASKA
『Kicks』
(1998.3.25発売)