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【超ショートショート】(156)~愛の迷子が集まる喫茶店~☆MULTI MAX『Love』☆

ある町にひっそりと、
愛の迷子になっている人々が集まる喫茶店。

この喫茶店は、
愛に満ち溢れた人には、
見えず、入ることも出来ない。

外観は昭和の喫茶店。

さて今日は
どんな愛に迷える子羊たちがやって来るのか?

ドアの開く音がする。
一人、
暗く沈んだ男が入ってきた。

注文はコーヒーと軽食に玉子サンド。

男は、
窓側の明るい席に座った。

コーヒーを運んだついでに尋ねた。

「このお店は初めて?」

「はい。仕事で近くに来たので。」

だからスーツ姿だったのかと、
喫茶店の大学時代の専攻は心理学という
主婦ウエイトレスが、
何かを納得した。

どうして今日、あの男が来たのかを、
予測しながら、
注文の玉子サンドを運んだ。

そこでまたこう尋ねた。

「ここ最近、何か落ち込むようなこと、
ありましたか?」

「えっ!」

「あっ!突然こんなお話すると驚きますよね!」

「いや~(苦笑)」

「あっ!やっぱり、何かあったんですね?」

「はい・・・(苦笑)」

その男の話では、
仕事でミスをしたと指摘されるも、
別の人のミスだったと判明。
でも、会社からの謝罪もなく、
その事実を知らない他の会社の人からは、
相変わらず冷たい視線と嘘の噂話の毎日。
そのことを彼女に話したら、
もっと笑われて、
心の置き場を失くしてしまったと、
挫折中なんですという。

彼女のことは好きですし、
今の会社も好きで入ったし、
その誤解が判明してからは、
逆に大きな仕事を任せてくれました。

でも、
心の挫折感は拭えず、
夜も寝ることができず、
お酒に逃げればいいのでしょうけど、
お酒が全く飲めなくて・・・。

それで仕方なく、
眠れない夜は、
夜のジョギングを始めたんです。
でも、始めて3日目に、
警察から職務質問をされまして・・・。
どうやら痴漢と間違われて、
交番にも連れていかれたら、
2時間話をすることになり・・・。
夜中24時を過ぎた時、
交番の電話がなり、
警察官が話をすると、
表情と態度を一変させ、
突然の謝罪。
先ほど、あなたにお声がけした頃に、
犯人が別の警察署で逮捕されていましたと。
大変申し訳ありませんと、
適当に謝罪され、
交番から自宅まで残りのジョギングをして帰宅。
すでに時計が夜中の2時になっていた。
結局3時間ほどの睡眠となり、
翌日はへとへとで、
見事に風邪をひいた。
せっかくの金曜日も
翌日の2日間の休みもダメにした。
彼女が看病してくれたが、
風邪をひくまでの経緯を話したら、
心配されるどころか大笑いされた。

「僕は、このままでいいのでしょうか?」

「このままって?」

「仕事も彼女もこのままで・・・」

「そうね・・・」

心理学を得意とする主婦ウエイトレスは、
こんなアドバイスをしてみた。

「今のあなたは、
自分のことしか考えていないんじゃない?
確かに会社も悪かったけど。
でも、新しい仕事を任せてくれたんでしょう?
それってあなたがその会社に必要な人だという
ある種の愛でしょう?

それに彼女もそうじゃないかしら。
あなたのことをずっと見てきて、
仕事で大変なことも知ってて。
でも、その大変に乗りすぎず、
暗く落ち込むあなたを、
これ以上暗くさせないために、
あえて笑って励ましているんじゃないかしら。

そうした彼女の変化に気づかない?

例えば、
何にもない穏やかに過ごしているときのふたりと、
今とでは、彼女のあなたに対する接し方が、
違うんじゃないかしら。

彼女だって、本当は心配で心配で
しょうがないんじゃないの?
でも、その心配を男の人に見せすぎると、
もっと男の人は落ち込むかもしれないって、
やせ我慢してるんじゃないの?

最近、ちゃんと彼女の顔見た?
以前より痩せてないかしら?
笑っているけど、目の下にクマとかない?
食欲はある?

いつか彼女だって、
どんなにあなたのことが好きでも、
倒れちゃうよ!
それでもいいのかしら?

ちゃんと、彼女にありがとうって言ってる?
愛してるって言ってる?

会社でも同じよ!
感謝の言葉を伝えてる?」

男は、うなずきもせず、
ただ話を聞いていた。
そして、
深く考え事をするように、
無口になった。

それから1時間過ぎた頃、
男は会計。

「あら!もうおかえり?」

「はい!仕事に戻ります。」

「そうよね!」

男が会計を終え、店を出る直前、
こんな話をして店を出た。

「これから、彼女と話してみます。
僕、今日までずっと自分のことしか
考えていませんでした。
でも彼女は、僕のわがままをいつも聞いてくれた。
今年の彼女の誕生日、
僕、すっかり忘れて仕事を入れてしまって。
でも彼女はそのことを怒りませんでした。
逆に、
ちゃんと仕事ができて
良かったと言ってくれました。」

「誕生日プレゼントは?」

「あっ!まだあげていません。(苦笑)」

「じゃあ、今日買って行きなさいよ!」

「でも今日は・・・」

「簡単でいいのよ!
そんなに優しい彼女なら、
豪華なプレゼントを1年に1度じゃなくて、
ちょっとしたものを、
彼女の愛を労うように、
ケーキとか、小さな花束とか、
そんなことでいいのよ!」

「そうですかね?」

「そうですかねって、長く彼女と付き合ってきた
あなたが1番彼女のことを知ってるでしょう?
これまでどんなプレゼントを喜んだの?」

「え~と、僕とお揃いのパーカー!(笑)」

「パーカー?」

「そうです!僕が買ってきた、
あるブランドのパーカー。
メンズしかないと話したんですが、
メンズでも1番小さいサイズなら、
女子でも着れるでしょう?って言われて、
僕買っていったんです!
そういえば、寒くなると、
いつもそのパーカーを着てます。(笑)」

「なんて素敵な彼女じゃないの!
じゃあ今日は彼女が好きなケーキでも
買って行きなさい!
ちゃんとありがとうって、
感謝の言葉を言うのよ!」

「はい(笑)」

「そうそう、愛してるって最近言ってる?」

「いえ、全然言わないです!
でも彼女はドラマでそんなシーンを見ると、
せがむので・・・困りますが(笑)」

「じゃあ、今日言いなさい!
愛してるって。」

「今日ですか?(苦笑)」

「そうよ!今日よ!
そういうのは不意打ちの方がときめくものよ!」

「ときめきって、なんだか恥ずかしいな!」

「そんなこと言ってないで、
絶対言いなさいよ!
言ったか?言わなかったか?
またお店に報告に来てね!
待ってますよ!(笑)」

「はい、わかりました。(笑)」


それから1週間が過ぎた頃、
男が再び、言われた通りに、
あの喫茶店のある町にやってきた。

だが、
喫茶店のあった場所に行っても、
もう喫茶店はなかった。
近所の人に聞いたが、
まだお店があるという人と、
もうずいぶん前からないと話す人がいて、
結局のところがわからなかった。

そんな困った男を喫茶店の窓から、
主婦ウエイトレスが眺めて、微笑んだ。

「彼は彼女と愛し合えたのね!(笑)」

そう喜んだ。

もし、
そこのあなたが愛の迷子になったら、
この喫茶店に行くことをオススメするよ!
喫茶店が見えたら、
あなたは本当に愛の迷子。
喫茶店が見えなかったら、
あなたは愛に満ちている証。

この喫茶店の名前を教えておくね!
『I DO LOVE YOU』という、
外観は昭和な喫茶店。

(制作日 2021.11.6(土))
※この物語はフィクションです。

今日は、
1991年11月6日発売 シングル
MULTI MAX『Love』
発売から今日で「30周年」になります。

この曲を参考に、
愛が人の原動力になることを、
書いたつもりです。
やっぱり人というものは、
誰かを愛し愛されることで、
日々の苦難を乗り越える、
その力が沸くんだと思います。

ほんの些細なことでも、
愛は伝わるし、伝えられる、
それを毎日大切にして、また気づいていければ、
愛の迷子にはならないと思いました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
MULTI MAX
『Love』
作詞 青木せい子 作曲 Chage
(1991.11.6シングル発売)

YouTube
【Chage Official Channel】
『Love』Music Video
https://m.youtube.com/watch?v=NfU-QeyizO4

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