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【超ショートショート】(254)~冷たい朝、あなたは冷たい~☆CHAGE&ASKA『MOON LIGHT BLUES』☆

いつものようにお客さんの髪を切る。

「きのうは大変だったのよ!」

と、自分のモテモテぶりをアピールする女性客。
毎回指名されるも、たいてい異性関係の話しかされず、
こちらとしても正直聞きたくもなかった。

「あのね!聞いて!きのうはね!夜はね!」
「はい・・・」
「凄かったのよ!私の奪い合いで!」
「そうですか」
「それでどうしたと思う?」
「いや~、どうしたと言われても・・・」
「結局、一緒に仲良く寝たのよ!(笑)」
「一緒?!三人で?」
「いや(笑)うふふ、5人で(笑)」
「ごっ!5人で!」
「うん(嬉笑)」

結局この女性客は何人の異性と付き合っているのか?
毎日一人ではないようなのだ!
一日に5人!10人!の日もあるというのだ。

この女性客はただのOLさんらしい。
特別な副業もしていないとも話していた。

彼女が美容室に通いはじめて1年。
たまたま共通の知り合いがいることが、
時々髪を切るときにする普通の日常会話から
1年目にして初めて知った。

それから3ヶ月後。
その共通の知り合いが引っ越すことになり、
その手伝いをしてほしいと、
彼女と私に依頼したのである。

次の日曜日、知り合いが指定した場所に
時間通り行くと彼女は先に待っていた。

「おはようございます!早いですね?」
「おはようございます!そうですか?
私、早くないとダメなんです!」
「そうですか(苦笑)」

夕方知り合いの引っ越しが終わると、
彼女の家が近いことから、
寄らないかと誘われた。

「私は一応女だから、
万が一にも襲われる心配はないはずだ!」

そう自分に言い聞かせ、
彼女の家の最寄り駅で下車。

電車のホームのアナウンス
「◯◯方面の電車はただいま大変な
ゲリラ豪雨のため上下線運休。
雨が上がり次第運転を再開する予定です」

「じゃあ、しばらく家に居れますね?(笑)」

と、彼女が私に微笑んだ。

「やっぱり?この人、女もいける口なのか?(汗)」

と、少しパニックをお越しながら、
彼女の前では冷静なふりを続けた。

彼女の家に着くと、
とてもきれいな整理された部屋だった。

「まるでショールームみたいな部屋ですね!」

と誉めると、

「あら!そう!(笑)」

と、彼女は喜んだ。

しばらく彼女の家でお茶や夕飯も食べ、
そろそろ帰ろうとした。

「ちょっと待って!電車が・・・」

先程のゲリラ豪雨で落雷による倒木や、
線路内の浸水被害で、
本日終日運行を停止するとニュース速報。

「どうしよう?」
「泊まっていけば?(笑)」
「でも・・・
「家は大丈夫だよ!泊まっても(笑)」

やっぱりこの人は女もいけるのか?
と心でつぶやいた。

「回りにきらきらしたものが
見えると思うけど気にしないでね!」
「きらきら?」
「ほら!ドアやクローゼットの隙間から
きらきらしたものが見えるでしょう?」

私はよく部屋の隅々まで見た。
すると時々照明の加減できらきらするものが、
数えられないくらいあった。

「あれは?」
「あれはね!ほらいつも美容室で話すアレ(笑)」
「彼氏?」
「うふふ(笑)違うわよ!」
「違うって?女?」
「うふふ(笑)もっと違う(笑)」
「じゃあ何?」

すると彼女はきらきらするものに近づき、
ドアを開けて、何かを抱いてきた。

「これよ!(笑)」
「これって・・・猫?」
「そう!猫よ!」
「じゃあ、いつも話すアレって」
「アレって、何?」
「いや~、何人もの男の人と~、
同時に付き合ってるみたいな・・・」
「ハッハッハ(笑)違うわよ!全部猫の話よ!」
「全部?」
「そうよ(笑)」
「でも彼氏は何人も・・・」
「私彼氏なんか居ないわよ!」
「居ない?」
「男よりも猫の方がいいから(笑)」
「でも付き合ってる男はいるよね?その~あの~さ?」
「うふふ(笑)私をなんか誤解してるな?(笑)」
「いやいや、別に(苦笑)」

彼女はこんな話をして私の誤解を解いた。

「夜私を取り合うのはこの猫たち。
冬は寒いから寝床の奪い合いで、
時々ケンカするのよ(笑)
でもね!寝るときには温かい存在の猫だけど、
朝になるとみんな冷たいのよ!
私は身体の上に乗る猫の重みに耐えかねて、
朝には布団から出されちゃって。
寒さで目が冷めるの。
その時、猫は誰も側に居ないの。
まるで冷たい男の人みたい」

「そんな男の人と過ごしたことあるの?」

「ない!」

「ないの?」

「ない!(笑)だって、まだ、その、ねぇ(苦笑)」

「へぇ?まだ?なっ!ない、の?うっ、そう~(笑)」

「本当(赤面)」

「ハッハッハ(笑)」

すっから騙されていた私は、
この一瞬で立場が逆転したようで、
笑いが止まらなかった。

彼女はまだまだ初な人で、
人間よりも猫を愛してしまったようだ。

でも、猫も彼女を本当に愛しているかと言えば、
彼女言わく、疑わしいという。

「結局、朝寒さで起きると、
私の足元に一匹の犬が居てくれるの。
こうやって見ると、猫より犬の方が、
優しいのかもしれないわ」

よく朝、
私が早く目を覚ますと、
彼女が話していたように、
彼女の布団は猫たちが占拠。
布団から出された彼女の足元には、
本当に一匹の犬が居た。

犬は彼女のために、
猫が居なくなった布団を引っ張って、
彼女に掛けてあげている。

なんとも健気な犬である。

朝食、
私が今朝見た犬の話をすると、

「この犬の飼い主にそっくりね!(笑)」
「あなたの犬じゃないの?」
「うん!知り合いの人の犬」
「知り合い?」
「うん!幼馴染みの男性の犬」
「男性?彼氏?」
「違うわよ!」
「じゃあ?」
「彼は今・・・」

彼女はそれ以上話をせず、
その犬を抱きしめた。

後日、引っ越しを手伝ってあげた友人から、
犬の飼い主の話を聞いた。

「あ~、彼ね!
彼女の恋人候補だったんだけど、
大病したり、また家族の反対とか、
いろいろあって」

二人は想いはあるけど、
付き合うことが叶わなかったようだ。

今もどこかでは彼は生きていると、
私は信じたい。

彼女が猫にモテるのは幸せと話すが、
でも本当にモテたい人に愛されなければ、
ずっと心は寂しいまま。

また彼女が髪を切りに来た日。

「私って、誰かに愛してもらえると思う?」
「どうしたの急に?」
「いや別に(笑)猫がやっぱり朝冷たいから
ちょっと悔しくなっただけ!」
「そう」
「うん!でもあれよね?
猫って本当勝手気ままね!
でも、そこが好きかな(笑)」
「ならいいじゃない?(笑)」
「うふふ(笑)」

(制作日 2022.2.22(火))
※この物語はフィクションです。

このお話は
きのうの猫の日と
CHAGE&ASKA『MOON LIGHT BLUES』発売記念が
一緒の日なので、
2つを関連させて考えてみました。

『MOON LIGHT BLUES』は、
一人の男性を愛する女性目線で書かれた歌詞が印象的。
この歌のように、
たくさんの人にたとえモテたとしても、
そのモテる本人は、
本当に幸せなのだろうか?
と思いました。

モテる人を好きになる方は、
自分なんか相手にされないだろうと、
寂しい気持ちが募ります。

でもその逆に立場ならどうでしょうか?
違う意味でモテる人は寂しいかもしれません。
みんなでにいい顔をして、
相手を喜ばせたとしても、
本当にその人がモテる人を愛しているかと問われたら、
案外そうではないこともあるのではないかと。

私はお話のように、
猫にモテるけど、
人間には詳しくはありません。
でもたとえとして猫のお話でも、
本当に自分を見ているのは犬だったりするわけです。

見守っている人はアピールはしないけど、
必ず手を差し伸べる存在と、
猫の日ですが、
犬に教えられた気がする、
そんなお話です。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『MOON LIGHT BLUES』
作詞作曲 ASKA 編曲 瀬尾一三
(1980.2.22発売 シングル)

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