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【超ショートショート】(87)~壺の中の魚~☆水の部屋☆

むかし、
〈水の部屋〉という壺があった。

その壺を覗く1人の少年。
「何もないな。」
と、手を入れて確認した。

翌日、少年は、
おじいちゃんに一緒に、
近くの川へ釣りに来た。

「そっと針を落とすんだぞ!」

少年が言われた通りに針をそっと水へ落とす。

「魚が針に食らいついたら、
素早く水面にあげるんだ!」

少年は糸を引く感触と同時に、
素早く水面に針をあげると、
本当に魚が付いていた。

「今日は大漁だな!(笑)」

おじいちゃんは、
とても嬉しそうに少年の頭を撫でた。

そして、
その日に食べきれない魚を、
あの〈水の部屋〉の壺に入れた。

「おじいちゃん、この壺、
どうして〈水の部屋〉っていうの?
お魚のお部屋だから?」

「いや、違うよ!
そのうちお前にもわかる時がくるから(笑)」

少年が、
お父さんの身長を追い抜かす頃、
周りから好青年として、
その町の大人たちから可愛がられていた。

その好青年が、
久しぶりに〈水の部屋〉の壺を覗く。

「相変わらず何もないな。」

いつも通りに手を入れると、
「チャプチャプ!」
と、水の音がする。
好青年が手を壺から出すと、
手は濡れていなかった。

もう一度、壺の中を覗く。
「やっぱり水はない。」
そして、壺に手を再び入れると、
「チャプチャプ!」
と、水の音がまたした。

おじいちゃんにその出来事を話すと、
「おっ!やっぱり水の音を聞いたのか?
お前も大人に近付いた証だな。(笑)」

ある夏の夕方に、
激しい雷雨が好青年の町を襲った。

「おい!壺は?」
とおじいちゃんが言うので、
壺がある蔵に見に行くと、
蔵が浸水、扉が開き、
中の物が水と一緒に流れていた。

「はっ!壺は?ない!流されたのか?」
好青年は急いで、蔵の中にできたプールに潜る。

すると、
壺は動くことなく、
水の中のいつもの場所にあった。

壺を持ち上げ避難させようとした時、
好青年が脚を滑らせ、
一瞬、溺れてしまった。

バタバタもがいていると、
好青年の身体が、
水流の渦に飲み込まれ、
どこかの薄暗い部屋に入ってしまう。

それから、どれくらいたったのだろうか。
好青年が目を覚ますと、
〈水の部屋〉の中だった。

「ここは?水の中?でも息をしている?
一体どういうことだ?」

そこへ1人のきらびやかな着物を着た女の人が、
「大丈夫ですか?さぁこちらへお越しください。」

好青年は言われるがままに、
ある建物に入ると、
「ここは竜宮城か?
じゃあ僕は浦島太郎か?」

「では、こちらへお入りください。」
好青年が振り向くと、
先ほどのきらびやかな服の女の人が、
1人のお姫様を連れてきた。

「こんにちは。」
とお姫様が話しかけると、
「こんにちは。」
と好青年も返事をした。

しばらくふたりが沈黙すると、
先ほどの女の人が、
「では、こちらをごらんください。」

好青年とお姫様の前にスクリーンが現れ、
明かりが消されると、
映画のような映像が流れた。

~~~~~
1人の男の子が、
一匹の魚を助ける物語
~~~~~
男の子はお父さんが釣ってきた魚を、
壺に入れるとお父さんを見た。
その夜、みんなが寝ているとき、
あの壺から「助けて」という声がする。
男の子はその壺に駆けつけると、
壺の中の魚と話をする。
「どうしたの?」
「ここから出たいの。川に帰りたいの。」
「どうして?」
「私のお父さんとお母さんに会いたいの。」
男の子は、そのお願いに応えるために、
まず壺を覗いて、手を入れてみた。
でも水にも届かない。
その次に、壺を倒すことにしたが、
重くて子供の力ではびくともしなかった。
すると壺から
「もう一度、手を入れて。」
「でも届かないよ!」
「それでいいから、入れてみて!」
男の子は言われた通りに、
また壺に手を入れると、
突然魚が男の子の腕を駆け上がり、
壺の外へ「ポチャ!」と落ちた。
「大丈夫?」
「大丈夫よ!さぁ早く川に戻して!」
「うん!」
男の子が川へ魚を離すと、
魚は嬉しそうに、跳ねて、
「ありがとう」
と言った。
そして、水中に潜ると、
蛍の光のように、
光の帯を作りながら、川を登って行った。
~~~~~~

短い映画が終わると、
お姫様が、
「あの魚は私なんです。」
「へぇ?」
「あの時、あなたに助けてもらわなかったら、
父も母も助かりませんでした。」

お姫様の話しによると、
お姫様のお父さんとお母さんは病気にかかり、
それを治すために、
お姫様は下流までお薬となる食材を
探しに来ていた。
そこをまたまた
男の子のお父さんの釣り針に引っ掛かり、
あの壺に入ることになった。

(お姫様)
「今日はあなたにお礼がしたくて、
こちらに来ていただいたのです。」

(好青年)
「じゃあ、あの雨は?蔵の浸水は?」

(お姫様)
「全部、偽物です。」

(好青年)
「じゃあ、蔵の中の物は無事?」

(お姫様)
「はい!」

(きらびやかな服を着る女の人)
「では、次にこちらをごらんください。」

~~~~~
1人の男と女がいた。
よく見ると、男は好青年で、
女はお姫様の顔に似ていた。
~~~~~

(好青年)
「これは?僕?」

(お姫様)
「そうです!」

(好青年)
「この映像は何です?未来?」

(お姫様)
「はい!そうです!」

お姫様によれば、
もうすぐお姫様に似た女性に出会い、
幸せに暮らして行くと言うお姫様。

(お姫様)
「これが私からのお礼です。」

(好青年)
「お礼って、別にいいのに。」

(お姫様)
「いいえ!あなた様にお礼をしなければ、
あなた様が命を落とされるからです。」

(好青年)
「なぜ僕が命を落とすの?」

(お姫様)
「それは、あの時、私を助けるために、
私に触れたからです。」

(好青年)
「触らないと川まで釣れていけなかったよ!」

(きらびやかな服を着る女の人)
「お姫様の身体は特別何です。
ほら!ごらんになればわかりますが、
この辺りにある魚宝という特別なうろこがあります。
それにあなたは触れ、一部を無くしてしまいました。
お姫様が無事に来たくされた時、
おじいさまの王様にとても怒られ、
あなたを許さないと言い続けて亡くなりました。」

(お姫様)
「今もおじいさまの遺志を継ぐものがいて、
あなたの命を狙っているのです。
だから、
一刻も早くあなたをお守りしたかったのです。
少し乱暴なやり方をしてごめんなさいね。」

(好青年)
「いいえ。でも、あなたは大丈夫なのですか?
僕を助けて!」

(お姫様)
「はい!大丈夫です!」

(きらびやかな服を着る女の人)
「お姫様は、まもなく、おじいさまよりも
立派な王様と結婚することが決まっています。
だから、もしお姫様に何かあれば、
その王様が許すはずがありませんから。」

(好青年)
「そうでしたか?ご結婚おめでとうございます。」

(お姫様)
「いやっ!まだ先のことですし、
なんかとても恥ずかしいわ。(笑)」

穏やかなにお姫様との会話を楽しんでいたら、
きらびやかな服を着る女の人が、
好青年に一杯の飲み物を渡した。

(きらびやかな服を着る女の人)
「さぁ、飲んでください。」

(お姫様)
「この飲み物を飲むと、
あなたは、元の場所に帰れます。」

(好青年)
「元の場所とは?」

(お姫様)
「あの蔵です!」

(好青年)
「でも、昔話の浦島太郎は、
玉手箱を開けたら、中の煙で、おじいさんになった。
僕もこれを飲むとおじいさんにされちゃうの?」

(お姫様)
「それはありません。
若返ったり、老人になることはありません。
ただの飲み物なだけです!」

(好青年)
「じゃあ、飲まなくても帰れるの?」

(お姫様)
「残念ですが、それはできません。」

(好青年)
「なぜ?」

(きらびやかな服を着る女の人)
「それはお話できません。
もし、お魚以外の人がその理由を聞いてしまうと、
もう2度と人間に戻ることができません。」

(お姫様)
「さぁ、飲んでください。
もう時間がないわ。急いで!」

好青年は、やけになるような勢いで、
その飲み物を一気飲むした。
すると、次第に気持ちよくなり、
お酒に酔うような夢見心地となると、

(お姫様)
「良かった!これで帰れるわ。」

好青年が意識を失うこと瞬間、
お姫様が好青年の手に何かを持たせた。

(好青年のお母さん)
「ねぇ!大丈夫!しっかりしなさい!」

お母さんが好青年の頬を叩くと、
やっと意識を取り戻した。

急いで、鏡を覗き、
老人になっていないことを確認すると、
手にある何かが気になった。

そっと手を開くと、
キラキラした魚の鱗があった。

お姫様からのお礼とともに、
あの映像のお姫様似の女の人が、
運命の相手となる好青年を探す目印だった。

それから、数年、
好青年が大人になる頃、
ひとりの女の人に出会う。

(女の人)
「あの、このような魚の鱗を持っていますか?」

(好青年)
「はい!これですか?」

ふたりは、
パズルのピースのような互いの鱗を見て、
きれいな形になるように重ね合わせた。
すると、ピッタリと一致。

ふたりの未来は、
あの映像のように幸せな生活を過ごした。


(制作日 2021.8.29(日))
※この物語のフィクションです。

今日は、
1990年8月29日発売のCHAGE&ASKAのアルバム
『SEE YA』
発売から今日で「31周年」

このアルバムに収録されている、
『水の部屋』のタイトルからお話を書いてみました。

昔話ふうにしたかったんですが・・・。
また書いてみます。


(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
CHAGE&ASKA
『水の部屋』
作詞作曲 飛鳥涼
編曲 飛鳥涼・Jess Bailey
☆収録アルバム
CHAGE&ASKA
『SEE YA』
(1999.8.29発売)

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