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【超ショートショート】(149)~大人な階段を昇る諸君~☆ASKA『抱き合いし恋人』☆

社会科見学に小学5年生たちが、
ウイスキー工場へやって来た!

第24小学校の5年2組のクラスで、
ある種類の問題児の3人組がいる。

リーダーは根岸、
その他に木場と宮坂の3人組は、
まるでお笑いトリオのように、
クラスメイトを笑いの樽へと連れていく。

さて、
このウイスキー工場見学では、
どんなことを仕出かしたのか?

3人の今回の設定は、
慰安バカ~ン旅行にやって来た
ゴルフ仲間の幼馴染みのおじさん3人組。

3人とも、
実はお酒が飲めない。一滴も。
もし一滴でも飲んでしまったら、
即気絶してしまうほど、
一瞬でへべれけによってしまうのだ。

3人のおじさんと化した3人の小学男児。
バスを降り、
ウイスキー工場の中へ、
一歩、また一歩と入っていく。

工場の案内人はキレイなお姉さん。
(歳は24歳位。)
宮坂と根岸が、そのお姉さんにデレデレし始める。
だが、木場だけ、いつも一向に、
こうしたキレイ目の女性には
興味を示さなかった。

キレイなお姉さんはもも子さん。
宮坂と根岸はお姉さんの名前を知るなり、
おじさんばりにもも子さんをナンパし始める。

(宮坂)
「いや~!もも子さんは、
とってもお上品でおモテになるでしょう?(笑)」

(もも子さん)
「いいえ!恋人はいないんですよ!(笑)」

(根岸)
「またまたご冗談を(笑)」

(もも子さん)
「本当なんですよ!(呆笑)」

宮坂と根岸はヒソヒソ話を始める。

(宮坂)
「おい!じゃあオレたちにも
恋人になれるチャンスがあるな(笑)」

(根岸)
「うんうん!そうだな!(笑)」

ふたりは一致団結して、
一緒にお茶することをもも子さんに提案する。

が、しかし、
もも子さんはあくまでも小学男児の冗談を
相手にするほど、
お笑いの乗りに乗ってくれる人ではなかった。
というより、乗り方を知らなかった。

次の話は、
この社会科見学が終わってから3ヶ月後。
実は、もも子さんには恋人はいなかったが、
フィアンセがいた。
そしてご結婚されましたと担任が報告。
あのとき、
根岸と宮坂はもも子さんの手に
指輪があるのを気づいていた。
ふたりがその指輪について、
ナンパ中に質問したら、
自分で買ったと笑って話していた。
まだ小学生のふたりは、
その話を信じていた。
もも子さんご結婚!という話を聞いた
根岸と宮坂は、初めての経験くらいに、
底知れぬショックを感じていた。
いつもなら、
給食の牛乳を奪い合うようにおかわりする。
だが、
この話があった給食では、
おかわりの牛乳を譲り合っている。

(宮坂)
「お前飲めよ!根岸。」

(根岸)
「いいから、お前が飲めよ!宮坂。」

(木場)
「あっ!じゃあ、僕もらいます!(笑)」

根岸と宮坂は、木場をにらみつけるが、
木場はその理由にも興味なく、
おかわりの牛乳をほぼイッキ飲み。
「ぷはー!」とご満悦の微笑みを浮かべていた。

さて話を、
社会科見学のウイスキー工場に
時を戻そう。

根岸と宮坂がもも子さんをナンパ中、
そういえば木場は
どうしていたのだろうか?

実は木場だけ、
忠実に3人で事前に決めた、
慰安バカ~ン旅行に来た
お酒が飲めないおじさんを演じていた。

バスから降り、
ウイスキー工場の入り口を入ってすぐ、
木場が何かにつまずくようによろける。

女子から
「木場くん大丈夫?」
と心配する声をかけられ、
内心喜んでいた。

そうこの女子が今木場が片思い中の彼女。

木場は、
工場の奥へ進むほど、
本当にお酒に酔ったおじさんのようになり、
次第に千鳥足になる。

すると、
片思い中の彼女、ナンシーが、
木場の肩を抱いて、
身体を支えてあげる。

木場はナンシーの香りが、
自分のほほに当たる心地良さに、
さらに酔いを深めた。

ナンシーは木場が内緒で名付けた、
木場が心の中で呼ぶ彼女のあだ名。

ナンシーと呼ばれていることもいらない彼女は、
あまりにも酩酊していく木場を
本気で心配した結果、
先生に相談し、
あわや工場見学中止の事態になりかけた。

木場は、
いつもの冗談だと先生に耳打ちすると、
先生も実は3人組のお笑いのファンと判明。
すっかり木場に取り入られ、
仲間になる。

(先生)
「木場は大丈夫だそうだ!
だからこのまま見学させるからな!」

(ナンシー)
「えっ!でも・・・」

(木場)
「僕は大丈夫!だから、そんな心配しないで」

(ナンシー)
「でも・・・(心配)」

この一瞬の冷静になる出来事の後、
木場は、少し正気を戻したようになった。

だが、これからの更なる展開のための
嵐の前の静けさだった。

木場は工場見学の最後に案内された
ウイスキー貯蔵部屋。
ここで木場は完全に酩酊したおじさんを
見事に演じるのだった。

最初のうちはナンシーは、
泣き出しそうな顔をして心配する。
木場がチャップリンのような動きで
酩酊する姿をし始めると、
ナンシーは、
「騙された!」という表情になり、
騙された恥ずかしさで笑ってしまった。

(ナンシー)
「もう!木場くん!(笑)」

木場は、そんなナンシーを見るなり、
内心嬉しさでいっぱいになった。

そんな木場を、
背後から冷たい視線で見つめる
根岸と宮坂。

ナンシーの気をわざと木場から、
自分たちに奪えないかと頭を働かせ、
木場と一緒になり、
3人で酩酊コントを始める。
酔いで倒れそうで倒れない、
そんな可笑しなチャップリン3人は、
工場中を爆笑の樽へ導くと、
先生が酔いざましの冷水をかけた。

(先生)
「さあさあ!もう帰りますよ!
おじさん3人はここに残って、
一生ウイスキーに酔っていなさい!(笑)」

軽いお叱りを込めた先生からのツッコミで、
ようやく終演を迎えた。

3人は、
工場をあとにするバスに乗るまでの
ほんのわずかな時間。

互いによくやったと励まし合いの笑顔と、
拳タッチで勝利を祝った。

だが、
この社会科見学で本当の勝者になったのは木場。

ナンシーは騙されたはずだったが、
この一連の出来事で、
木場に本気になった。

社会科見学から1ヶ月後、
なんとそのナンシーから告白。

(ナンシー)
「私と付き合ってください!」

(木場)
「えっ!僕と!」

(ナンシー)
「はい!木場くんが好きです。」

(木場)
「でも、僕には・・・」

(ナンシー)
「彼女、いるんですか?」

(木場)
「ふ~ん・・・いない。」

(ナンシー)
「へぇ?いない?」

(木場)
「うん!いないよ!彼女なんか(笑)」

(ナンシー)
「あっ!ハァー良かった!いないんだ(笑)」

木場は、彼女がいないと聞いて笑顔になった
ナンシーをじっと見つめ、

(木場)
「ナンシー!僕、君が好きだ!」

そう話すと、
告白の緊張で涙目のナンシーを、
抱きしめた。

ナンシーは最初は驚いたが、
告白が成功した喜びで、
木場の胸で安心したように溶けていく。

そんなふたりのラブシーンを、
教室の窓から見ていた根岸と宮坂。
この帰り道、
木場をさんざんからかうのだが、
内心羨ましくって羨ましくって、
でも、
男として負けた気持ちにもなっていた。
彼女が出来ない悔しさと、
告白すら出来ない悔しさと、
木場をナンシーに取られた悔しさで、
根岸と宮坂の心情は哀しかった。

だが、
これは木場の前だけのお芝居。
根岸には、
幼稚園時代からの幼馴染みの彼女候補がいたし、
宮坂なんかは、
「僕はモテません!」
とあちこちに自分のモテない宣伝をしていた。
なのに、
一番早く彼女が出来たのは宮坂だ!
もうこのときで付き合って3年になっていた。
でも、
誰もが、
木場も根岸も宮坂に彼女がいることは知らない。
それほど宮坂という男児は、
ぺてん師の才能がある!
ということだろうか。


(制作日 2021.10.30(土))
※この物語はフィクションです。

今日のお話は
2005年10月29日
大阪にあるサントリー山形蒸留所で
ASKAさんが公開ライブを行った。
その出来事を参考に
このようなお話にしてみました。

お酒の工場に行くと、
私自身が一滴も飲めないので、
お酒があるという空間にいるだけ、
お酒の香りがするだけで、
飲んでもいないのに、
気分は酔った人になる。
あれって不思議な現象ですよね?

そう書いて、
わかる方はいるでしょうか?

お話を書きながら、
少し酔って参りましたので、
今日はこの辺で。

今日の選曲は、
ASKAさんが公開ライブの最初と最後に歌った
『抱き合いし恋人』にしてみました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

~~~~~~

参考にした曲
ASKA
『抱き合いし恋人』
作詞 ASKA・松井五郎
作曲 ASKA
編曲 佐藤準
☆収録アルバム
ASKA
『SCENE Ⅲ』
(2005.11.23発売)

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