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【超ショートショート】(70)☆見上げてごらん夜の星を☆~星夜の望~

ある年の8月12日。
ペルセウス座流星群の流れ星が、
日本中に降り注いだ。

「キレイね!(笑)」

そう言いながらほほえむ女の子。
もうこの病院に入院して、8ヶ月になった。

女の子の名前は、「星夜(せいや)」
星の降る日の夜に生まれたから、
そう名付けられた。

星夜には、病院にたくさんのお友達がいた。


206号室。
もうずっと寝たままのお姉ちゃん
「さやか」がいた。

「さやかちゃん!おはよう!(笑)」

そう星夜が話すと、手を繋ぎ、
返事も返らないのをわかっていて、
星夜はさやかにずっと話し続けた。


さやかは、ある歳の頃、
失恋がもとで、今の状況に至った。
当時は、命の宣告をされるほど、
危険な状況が続いた。

さやかの特にお母さんの看病のもとで、
容態が少しずつ安定した。
いつ目を覚ますかはわからないが、
それでも機械を支えに生きることができていた。

桜が満開になる3月下旬、
さやかは、突然息を止めた。
これまでさやかの看病を生きがいにしてきた、
さやかのお母さんは、
その死を受け入れられず憔悴。
ついに葬儀を前日、倒れてしまう。

それから、しばらくして、
さやかのお母さんが病院を訪ねた。

「これまで、ありがとうございました。
あの娘も皆さんに
看取られて幸せだったと思います。(涙)」

「さやかちゃんのお母さん!大丈夫?」

「えぇ、大丈夫、
前よりは元気になったのよ(笑)」

「コレね!さやかちゃんにあげて!
お手紙書いたから。(笑)」

「ありがとう。(涙)」

星夜は、
ベッドに寝るさやかお姉ちゃんではなく、
一緒にディズニーランドに行くふたりと
ミッキーマウスを描いた絵に、
「一緒に行こうね!」
と幼い文字入りの手紙を
さやかのお母さんに渡した。

星夜言わく、
さやかお姉ちゃんと
ディズニーランドに行く約束をしたらしい。


308号室。
この部屋には、
星夜も不思議に思うお兄ちゃんがいた。

何が不思議かというと、
お兄ちゃんの身体が
少しずつ小さくなることだった。

きのうはあった手が今日はないとか。

お兄ちゃんの名前は、「卓(たく)」

「卓ちゃん!元気?(笑)」

「何しに来たんだ!今日は疲れてるよ!」

「何で?」

「きのう手術したからだ!
ほら、ここ無いだろう?」

また身体のどこかが無くなっていた。

ある日、
卓お兄ちゃんの部屋行くと、

「ねぇ、卓ちゃんは?」

(看護師)
「卓ちゃんね。もういないのよ!」

「何で?」

(看護師)
「え~と・・・(困)」

卓ちゃんがいなくなった理由は、
ずっとわからなかった。
でも、卓ちゃんがいなくなった翌日、
卓ちゃんのお父さんとお母さんが、
星夜に会いに来た。

(卓ちゃんのお父さん)
「こんにちは!星夜ちゃん!」

(卓ちゃんのお母さん)
「こんにちは!(笑)」

「ねぇ、卓ちゃんは?(哀)」

卓ちゃんのお父さんとお母さんは、
星夜の質問に、
どちらが答えようかと話し合う。

(卓ちゃんのお父さん)
「あのね、卓は家に帰ったんだ!」

「元気になったの?」

(卓ちゃんのお母さん)
「そうよ!今日は朝からサッカーしてるわ。」

「でも、卓ちゃん、両方の脚が無いよ。」

卓ちゃんのお父さんとお母さんは、
何とか話を終わらせると、
顔は笑顔だが、身体は急いで、
星夜の病室から出た。

(看護婦)
「星夜ちゃんにプレゼント!」

「何?」

(看護婦)
「卓ちゃんがお家に帰ったら、
星夜ちゃんにこのオモチャあげて!って、
頼まれていたのよ。(笑)
だから、ハイ!
卓ちゃんからのプレゼント!(笑)」

卓ちゃんのベッドには、
卓ちゃんが転んでも痛くないように、
ベッドを囲むほどのぬいぐるみがあった。
そのすべてを卓は星夜にプレゼントした。


505号室。
この部屋はVIP室。
窓からの眺めが、星夜は
屋上の次に好きだった。

ある会社に勤めていた、
キャリアウーマンの女の人。

いつも星夜が病室に来ると、
大歓迎で迎えてくれる、
まるで星夜のもう一人のお母さんのように、
やさしい人。

彼女の名前は、幸子。
ずっと仕事一筋!
気つけば管理職に大抜擢!
そのまま、結婚もせず、
50代に近い歳になっていた。

「ねぇ、さっちゃん!」

「何?(笑)」

「ここ・・・、
(胸の辺りの包帯を指差して)
痛いの?」

「うん、少しだけ。(笑)
でも、さっきね、看護婦さんが、
包帯変えて消毒してくれたから、
もう痛くないのよ!(笑)」

「でも、毎日大きくなるね?」

「あらっ?そうかしら!(笑)
包帯の巻き方が悪いのかしら。(笑)」

梅雨末期の7月、
星夜が幸子の部屋に行くと、
看護婦さんが幸子の胸を消毒していた。

(看護婦)
「さっちゃん!コラ!
見ちゃダメ!」

「何で?何に・・・この・・・」

(幸子)
「星夜ちゃん、あと少しで終わるから、
お外で待っていてね!お願い!(笑)」

「ハ~イ!(笑)」

幸子の部屋から看護婦が出てくると、
星夜は、消毒の匂いと、
新しい包帯とガーゼの布の匂い、
それから、変な臭いを感じた。

「さっちゃん!何、この臭い?」

「うん、消毒の匂いじゃないかしら。」

梅雨明けの速報が流れる日、
幸子は別の病院へ転院した。

「さっちゃん!またここに戻って来るの?」

「う~とね(笑)
そうだ!星夜ちゃんの好きなコレ!
次の病院には持っていて行けないから、
私の代わりに使ってくれる?(笑)」

幸子は、
真新しいメイク道具を、
まだお化粧も知らない星夜に、
プレゼントした。

「星夜ちゃんのお気に入りの
鏡も入れてあるからね!使ってね!(笑)」

幸子は星夜にお願い事をした。

「星夜ちゃん!お願いがあるの。
さっちゃんのこと、
ぎゅっとしてくれないかな?
ほらっ!いつもさっちゃんが星夜ちゃんを
ぎゅっとするみたいに!(笑)」

「いいよ!(笑)」

星夜は、幸子を小さな手で抱きしめ、
最後は、頭を撫で撫でしてあげた。

幸子は転院先の大きな車に乗ると、
見送る星夜に、
満面の笑みを見せ、ちぎれるほどに手を振った。
そして、
涙をこぼす幸子を乗せた車が遠くの道へ消えた。


翌日、
星夜が病棟を巡回中。
ナースステーションから、
幸子の話をする2人の看護婦。
カウンターの下に隠れ、
星夜は、意味もわからないまま、
その話を聞いた。

「ねぇ、お母さん!
さっちゃんってどうかしたの?」

「どうして?」

「さっき看護婦さんが、
ホスピスって話していたよ。
ホスピスって何?
新しいアイス?(笑)」

「そう、幸子さんホスピスに転院したの。」

「だからホスピスって何?(怒)」

それから2週間後、
幸子は天国へと旅立った。
その報告に、
幸子のお兄さんがナースステーションを
訪ねていた。

「あっ!おじさん!さっちゃんは?
帰って来たの?(笑)」

「・・・いや、違うんだよ!
幸子は元気になって仕事に戻ったんだよ!」

「え~会いたかったのに~(涙)」


ペルセウス座流星群の流れ星が、
星夜の病院にも降り注ぐ8月12日。
星夜が入院して8ヶ月。

(星夜のお母さん)
「流れ星、キレイね!」

「うん!(笑)
あっ!今の流れ星に、
卓ちゃんが乗っていたよ!
ねぇ、見えたでしょう?お母さん!(笑)」

星夜の病室には、
この病院でお友達になったみんなの写真が、
たくさん並べられていた。
その写真のほとんどが、
星夜とお友達とのツーショット。

次の流れ星のために
さやかとの写真を手に持つ星夜。

「ほらっ!見えた?さやかちゃん!
あの流れ星に乗れば、
ビューとディズニーランドまで、
すぐ1分で行けるよ!(笑)」

また次の写真。

「さっちゃん!何で遊びに来てくれないの?
元気になったら、
星夜の大好きなアイスクリームを
買ってきてくれるって約束したのに!」

今度はぬいぐるみと写真。

「卓ちゃん!お星さまに乗ってどこに行くの?
私も乗せてって。(笑)」


星夜は、
9月の十五夜の満月の夜。
お母さんとお父さん、
看護婦やお医者さんに見守られながら、
天国へと旅立つために、
お星さまになった。


真夜中、
星夜と自宅に戻ったお母さんとお父さん。
入院の荷物を片付けると、
星夜のお気に入りの絵本から、
一枚の画用紙が落ちた。

「お父さん!見て!(涙)」

「あぁ~(涙)」

星夜は、
人生最後の絵に、
さやかお姉ちゃんと
卓お兄ちゃんと
さっちゃんと自分を乗せた、
星柄の電車を描いていた。

電車は、空へと昇るように描かれ、
空には、星がたくさん書いてあった。
そして、
電車を見送る病院には、
星夜のお父さん、お母さん、
看護婦さん、お医者、
ぬいぐるみと他の病院のお友達、
みんなを描いていた。

特にお気に入りなのが、
お掃除のおばさんの「たきちゃん」

いつも内緒で、星夜にあめ玉をくれた。

星夜の描いた絵には、
そのあめ玉を手に持ち、
嬉しそうに笑う星夜が、
いちばん大きく描かれていた。


星夜がお星さまになって10年。
星夜のお父さんとお母さんは、
星夜が過ごした最後の病院で、
時々、患者さんのお世話をする
ボランティアをしていた。

今日8月12日は、
またペルセウス座流星群が日本に、
流れ星を降り注ぐ夜。

星夜のお父さんとお母さんは、
病院の屋上から、
患者の女の子、「望(のぞみ)」ちゃんと、
流れ星を眺めた。

(望ちゃん)
「ちゃんと見えるかな?」

(星夜のお母さん)
「見えるわよ!
今日はこんなに晴れているんだもの!(笑)」

(星夜のお父さん)
「そうだね!星夜がそうしたんだろう。(笑)」

流れ星が流れ始めると、

(望ちゃん)
「わぁ~!キレ~イ !(笑)」

(星夜のお父さん)
「あそこ?(笑)」

(星夜のお母さん)
「えぇ、居ましたね!あの娘(笑)」


毎年、
流れ星が流れる夜に、
流れ星の中に星夜を見ると、
お父さんとお母さんは流れ星に詳しくなっていた。 

(望ちゃん)
「ねぇ、星夜ちゃんってだれ?」

(星夜のお父さん)
「あの流れ星に乗っている女の子だよ!
ほらっ!今見えたよ!(笑)」

(望ちゃん)
「早くて見えないよ!」

(星夜のお母さん)
「今度は、目をつむらずに見てごらん。(笑)」

(望ちゃん)
「うん!(笑)」


翌日、
望ちゃんのお世話に、
星夜のお父さんとお母さんが病院に来た。

望ちゃんは検査で病室には居ないとき、
ベッドの上のテーブルに、
あの日に星夜が描いた絵と同じ、
星柄の電車の絵を見つけた。

(星夜のお母さん)
「まるで、あの娘が書いたみたいね!(涙)」

(星夜のお父さん)
「あぁ~。(笑涙)」

病室の扉が開いて、
ベッドの上の画用紙が飛んだ。

(望ちゃん?星夜ちゃん?)
「あっ!また勝手に見てる!
完成前に見ちゃダメって、
いつも言ってるでしょう?
もう~!(笑)」


(制作日 2021.8.12(木))
※この物語は、フィクションです。

今日は、
坂本九さんの御命日。

そして、
坂本九さんと言えば、
ASKAさんもお逢いしたとステージで話していました。

ちょうどクリスマスのコンサートで、
ASKAさんも、その後、
歌謡曲を集めてカバーした
東日本復興支援アルバム
『僕にできること~いま歌うシリーズ』で、
坂本九さんの2曲を収録しています。

1曲は『上を向いて歩こう』
もう1曲が『見上げてごらん夜の星を』

今日は、
8月12日(木)がピークという
ペルセウス座流星群をヒントに、
『見上げてごらん夜の星を』を参考に、
ある病院の女の子のお話を書いてみました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲は
坂本九
『見上げてごらん夜の星を』
作詞 永六輔 作曲 いずみたく
☆ASKAさんのカバーバージョン
編曲 十川ともじ
☆収録アルバム
ASKA
『僕にできること~いま歌うシリーズ』
(2012.12.22発売)
※ASKAさんのカバーアルバム

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