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【超ショートショート】(228)~孔雀の背中に恋をして〈4〉~☆CHAGE&ASKA『SAY YES』☆

館長さんが絵を眺めながら、
先程の面白い奇跡の話を話し始めた。

「親友の結婚式で紹介された女(ひと)と
付き合ったって話したよね?」
「はい」
「その後、すぐ結婚したんだ!」
「デキコン?」
「ハッハッハ!
俺がそんな手の早いヤツに見えるかね?」
「あっ!いいえ!」
「まぁいいよ!」
「はい」
「彼女を紹介された時に、一目見て、
結婚しようってことが決めたんだ!」
「会った瞬間?」
「そうだ!」
「なぜ?」
「・・・あの絵の中の女(ひと)に
そっくりだったんだ」
「えっ!?」
「あ~僕も驚いた!何度も初対面なのに
ジロジロ見てしまい、最初のプロポーズを
断られてね」
「最初?出会った最初?」
「ハッハッハ!そんなに目を丸くして
驚くかなくても。僕には、
あのとき何の迷いもなかった。
だって、あの絵の中の女(ひと)が現実に
目の前にいるんだもの。それはもう~」
「面白い奇跡?」
「あ~、先に言われた!ハッハッハ」
「・・・(笑)」

館長さんは出会えるはずもない絵の中の
好きになった女(ひと)に出会えたあの頃を
思い出しているようで、
話をしながら、ずっとニコニコと
笑顔が増えていった。

「今の奥さん?」
「あー、そうだよ!今の奥にだ!」
「館長さん、しあわせ?」
「あ~、しあわせだよ!」
「いいね・・・」

館長さんの夢物語の恋話を聞いて、
すっかり落ち込んでしまう。
館長さんのような奇跡が
私に起こる訳ないと思っていた。

「どうした?せっかくとっておきの恋話を
してあげたのに、そんなにうつ向いて・・・
感動で泣いてるのかな?」
「いいえ!」
「いいえって、いじけちゃったのかな?
君にもそんな奇跡が待っている!絶対に!」
「そんな励まされても・・・絶対はないと思う。
この絵の中の男(ひと)が、
本当に実在するのかも何もわからないのですから」
「実在?・・・確か・・・するかも?
確か・・・パンフレットに・・・」
「パンフレット?」
「そう、パンフレットに詳しいことを書いた記憶がね」
「館長さん、パンフレットには
海ということくらいしか書かれていません。」
「そうか・・・その海がどこの海も?
作家名は?」
「それもパンフレットには書いてないです」
「そうか、困ったな」

私は館長さんを絵の近くまで来るように誘った。
絵に近づいてきた館長さんにわかるように、
作家名が書いてある絵の右下に指を指した。
「この作家名読めますか?」と
視線で質問。
館長さんも絵に近づき、
作家名を何度も読んだ。
「これじゃあ読めないな」
と、
筆記体で書かれた作家名から目を離した。
館長さんはそのまま、
何か手がかりになる資料はないかと、
美術館の事務室に戻ってしまう。

私は、仕方なく、
またソファに座り直して、
館長さんが運んでくれたおやつと紅茶を飲んだ。
もうすっかり紅茶も濃い色をして、
烏龍茶のように飲みやすい常温になっていた。

おやつ後、
館長さんと一緒に閉館時間まで、
お約束の掃除の手伝いをする。
1時間ほどで、
言われた場所の掃除は終わった。

館長さんに掃除が終わった事を伝えると、
閉館時間にあわせて、
私は奥の部屋に置いていた
自分のカバンを取りに奥の部屋へ戻った。

そして、
あの絵の背中の男(ひと)に、
また再会すると約束を、
背中につぶやき、
この日美術館に来たときのように、
また奥の部屋のドアの前で、一礼。

あれは、
自然出てしまった
精一杯の絵の中の背中の男(ひと)への
感謝と愛の行動だった。

好きな人が見ていなくても、
私は自分でそうしてみたくなったのだ、

この日みつけた、
新しい行動から館長さんが待つ
事務所に戻った。

「今日はありがとう。掃除まで」
「あっ!いいえ、これが今日のオマケですから」
「オマケ?」
「入場料無料にしてくれた感謝って意味です」
「あー、そうか。」
「えー」

館長さんは、事務所の電気を最後に消すと、
美術館の入口の自動ドアの前で待つ
私の所に、何かを手にして戻って来た。

「では帰りましょうか?」
「そうだね。」
「館長さん?さっきからどうしたんですか?
何か忘れ物でも?」
「あーいやそうじゃなくて」
「はい」

館長さんが手に持っていた一枚の紙を
私に見せた。

「もし良かったら、
この写真持って行くかな?」
「写真?」
「あの絵の写真」
「えっ?」
「これパンフレットを作るときに、
美術館にある全部の作品の写真を撮影したんだ」
「はい」
「だから、これプレゼントするよ!」
「でも、まだ使うんじゃ?」
「もう使わない。もしパンフレットを、
新しくするときは、改めて撮影を頼むから、
遠慮しないでもらって!」
「でも、今日は特別に無料にしてもらいましたし、
何だか申し訳ないです」
「そんなこと言わないで、もらってよ!
あんなにあの絵を好きだっていう君をいつも見ていて、
今日まで美術館続けて来て良かった。
こんな住宅街に美術館を作って良かったって、
君の絵を見る後ろ姿に感動してるんだよ!」
「はい」
「だから、遠慮しないで。
この写真さえ家にあれば、
いつも一緒に居れるでしょう?
好きな背中の男(ひと)と。
それに今日みたいにあわてて美術館に
来なくてもいいしね」
「はい」

私は館長さんの手からその写真を受け取った。

そして、
A4サイズほどの写真を
夕方の電車のラッシュで
折ってしまわないようにと、
家の最寄り駅までの5駅分を
歩いて帰った。

最寄り駅の商店街の文房具屋さんで、
写真のサイズの額縁を購入。

家に帰るなり、
急いで自室に駆け込み、
額縁にその写真をセットした。

それから、
会えない日だけでなく、
朝から晩までいつでも、
眺めたいときにあの絵の中の背中を眺めた。

でも、
写真からでは、
伝わるものが違うと、
気づいていった。

~つづく~

(制作日 2022.1.20(木))
※この物語はフィクションです。

4話まで書いてきました。
本当は3話の予定でしたが、
ダラダラしてしまったかもしれません。

そして、
4話で終わるのはキリが、
と思い、
5話で終わりにしようと決めました。

5話はおそらくあすの予定です。

参考曲としている『SAY YES』は、
プロポーズのイメージがあるので、
そのイメージを参考にした、
今回はそんなふうに選曲してみました。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
CHAGE&ASKA
『SAY YES』
作詞作曲 ASKA 
(1991.7.24発売)

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