ばいばい
「幸せになってね」「元気でね」「ありがとう」
そんな言葉を最後に伝えられるのは、どんなにいがみ合ったとしても、少しでも相手への愛情が残っているからだと思う。
私は彼にそんな言葉をかけようとも思わなかったし、そうなって欲しいと思うこともなかった。
地獄へ落ちろと言いたいわけではない。
でも、どうして幸せになるの?とは思う。
この人と一生を添い遂げよう、そう心に誓った人だった。
家族になりたいと思った。
相手を好きであったら、幸せになれると信じていたし、相手もそう思っているはずだと信じて疑わなかった。
だから、そんな彼との関係がガラガラと音を立てて崩れ始めた時は、目の前にある現実を受け入れられなかった。
若さ故の過ちだったのだと思う。
私は私自身の心の傷やトラウマをコントロールできずにいたし、
親から受けた傷のせいで、「何をされても許し続けるのが愛なのだ」と本気で思っていた。
一緒に暮らし始めた日、机の上にタバコが置いてあった。彼のタバコだった。
おかしいな、私には「タバコはやめろ」と言ったのに、だから必死に禁煙してやめたのに、どうしてだろうと考えた。
彼は特に焦る様子もなく「付き合いで吸うんだよ。仕事だから」と言っていた。
今思えばあの瞬間からすべてが終わっていた。
あの時に抱いた違和感は間違ってはいなかった。
それでも「許さなければまた一人になる」という恐怖に埋め尽くされた私は、許し続けることしかできなくなった。
一緒にいればいるほど、好きだと思っていた彼の優しさが見えなくなった。
「当たり前だろ、お前はもう身内なんだから」「毎日顔を合わせるんだからいいだろ」と言われた。
身内になると優しくなくなるのか。それだと私の家族と同じだなぁ。
おかしいな、同じになっては欲しくなかったのに。
優しさに飢えた私は、彼以外の優しさを求めて彷徨った。
私のような傷を抱えた人は世の中にはたくさんいて、
ひとりではないのだと安心すると同時に、どうしようもない虚しさに襲われた。
どうしてこんなに寂しくて悲しいのだろう。
こんなにたくさんの優しさを人からもらっているのに。
水を飲んでも飲んでも喉が渇いていた。
ここから抜け出したいと思っていたはずなのに、抜け出す力さえなくなっていった。
言葉にならない気持ちをどうにかしたくて、髪の毛を思いきり短くした。
ベリーショートになったおかげで心も軽くなった気がした。
職場で「似合うね」と声を掛けられて、嬉しくて笑っていたら、
年上の社員さんにそっと「でも、何がつらくてそんなに切ったの?」と言われた。
ああ、こうして人にもバレてしまう。
その時、なんて言葉を返したのかは覚えていない。
仕事の帰りに、コンビニの駐車場でタバコを吸うのが好きだった。
彼のためにやめようと禁煙した自分よりも、今の自分の方が生きている感覚がした。
家族が欲しいという気持ちだけで恋愛に依存して、誰かと生きようなんて馬鹿げたことを考えた自分が馬鹿だった。
やっぱり私は誰からも愛されずに、上辺だけの優しさを適当につまんで、誰もいないところで泣いて。
そんな人生なんだと思った。
おかしいな、あんなに好きだったのに。
見惚れるような横顔も、安心するような大きな手も、背中も。
笑った時の口元、目元のシワ、優しい声も。
私の話を一生懸命聞いてくれるところ、すべてを認めて抱きしめてくれるところ。
大好きだったから、全部許してきたのにな。
嘘の出張も、誰かとの電話も。急に飲みに行くと言って朝まで帰らなかった日も。
大抵その日の後は優しくて、急に「今日もかわいいね」と声を掛けてきた。
嘘をついて行った旅行は楽しかった?コッソリと隠れて食べるディナーはどんな味?
大好きだったその手も、いつからか私ではない誰かのモノになっていて。
全部許した私が馬鹿だったんだよね。いつかは帰ってくるってずっと信じてたから。
帰ってきてよお願いだからって、震えるほど泣いていたのに。
「どうして親を許せないの?」
「お前は人に甘えすぎなんだよ」
「その髪型、微妙だね」
嫌なセリフばかりが頭を回る。
幸せだった時もあったのに。
彼には何も言わずに家を出た。
我ながら良い別れだったと思う。
「ありがとう」もなければ「さようなら」さえも言わずに、言うことも許さなかった。
「さようなら」という言葉は、相手に少しでも愛がある時に言える言葉なのだと、その時に初めて気づいた。
彼と最後になんて話したか、それさえももう忘れてしまった。
「もう離れよう」。そう決めてからの私は、自分でも驚くほどドライになっていたし、やっと目が覚めた感覚だった。
目が覚めた私に気づいた彼は、必死に私を引き留めたけれど、もう全てが遅かった。
その別れの後も、背負いたくもなかった何かが背中に付きまとい、私は何年も苦しむことになる。
もう死んでしまいたいと悩んだ日もあれば、このまま楽な方へ逃げて良いのだろうかと考えた日もあった。
月日が経てば経つほど、「誰かを恨むこと」に疲れ果て、「それでも許せない自分」を恨みそうにもなった。
それでもひとつ言えるのは、当時の私はそれくらい彼を愛していて、人生の中で必要だと願っていたということだ。
今でもたまに思うよ。忘れてなんかやるかって。
もう恨んではいないけれど、許したわけでもない。
今の生活はとても幸せだけれど、だからといって過去に感謝できるほど私はできた人間じゃない。
かつて家族にも捨てられ、恋人にも裏切られた私は、それでも誰かを愛すことはやめなかった。
やめられなかったのだと思う。
誰かを愛することが、唯一の私の生きる理由と、希望だったから。
このまま投稿する勇気はなかったので、少し後書きを書かせてください(世界観をぶっこわす☆彡)
フィクションも少し入れたほぼ実話です。恋愛依存していた頃の私は暗黒そのものでした(笑)
今でこそ「そりゃあれだけ重かったら浮気もされるかぁ」と思うこともありますが、
「あいつは俺のこと大好きだから浮気しても平気」と言われるくらい、なんだか生きづらい恋愛ばかりしていました。
そんなにたくさん恋愛はしてませんが、大体いつも浮気されてました(笑)
大好きなaikoの「ばいばーーい」という曲を聴いた時に、「あれ?aiko私と同じ恋愛してた?」と錯覚するくらい、エピソードが似てました。本当に。
ぜひ聴きながら読み返してください(笑)
初めて浮気をされた時に、胸の苦しみを感じると同時に「ああこの痛さを忘れたくない」と思ったのを覚えています。その痛みさえも愛なのだと信じていたから。
なので今でもその感覚はずっと残っていて、鮮明に思い出すこともあります。
私はaikoみたいに素晴らしい楽曲にすることはできませんが、こうしてたまに文章にして消化することで、何となく気持ちがスッキリします。
この文章を書くこと、投稿することは実は手が震えるくらい怖かったのですが、ある意味過去を乗り越えられたのだなぁと自分でも驚いています。
“時間が過ぎるって凄いことなの”…ほんとそれな!!
そんなこんなで今後も急に過去の恋愛の話を書きますが、ある意味元気な証拠ですので(笑)
引き続き温かく見守ってくださると嬉しいです。
ありがとうございました!