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「舟」 北方領土で起きた日本人とロシア人の物語

 第二次大戦末期の1945年8月9日、ソ連は、当時まだ有効であった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本がポツダム宣言を受諾した後の同年8月28日~9月5日の間に北方四島(国後島、択捉島、色丹島、歯舞群島)の全てを占領。
 その後、ソ連は1946年に四島を一方的に自国領に「編入」し、1948年までに全ての日本人を強制退去させロシア人による入植を開始した。当時四島に住んでいた日本人は17,291人。約半数が自力で脱出したが、残りの島民はソ連によりサハリン(当時の樺太)の抑留を経て日本に送還された。

 本作品は、歯舞群島の中の志発(しぼつ)島で、まさに引揚げの日の朝、海で遭難した入植ロシア人の子どもたちを、一人の日本人漁師が引き揚げ船に間に合わないリスクを冒してでも単身海へ出て探し出したという、奇跡的な救出劇をもとに描かれた小説である。(ノンフィクションではなく、史実を核にしたフィクション)

 小説の執筆者「マイケル・ヤング」氏はペンネームで、実際はロシア在住のロシア人。領土問題に絡む小説をロシア人名で実名公表することは、今のロシアではリスクがあるとの判断で、やむを得ず米国人のようなペンネームを名乗っている。

 この小説に迫力を加えているのは、翻訳者の樫本真奈美さん自ら、実際に遭難したロシア人を探し出し行ったインタビューだろう。この部分こそが、この本の背骨と言って良いと思う。

 このインタビューと北方領土の歴史解説の部分から先に読んでも良いかと思う。

 北方領土問題への認識と、この本への感想・評価は人によって様々だろう。
 が、私は「混乱の最中でも勇気ある(そして冷静に)行動をした日本人男性がいた」という事実を確認出来ただけで、この本に携わった人たちに感謝の意を表したい。

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