御用は何?

 ある平日の昼下がり、自宅のチャイムが鳴ったので、インターフォンで対応しました。
「はい」
「◯◯と申します」
地元にいくつかある葬祭会館の名前です。

「……」
「……」

 で? 何の御用?
 会社名を名乗ったっきり、その先を続けない。

「どういった御用件でしょうか?」
 一拍待ってはみたが、痺れを切らしてこちらから訊いてみる。

「この度、リニューアルオープンしまして……」

 続かない。

 だから何?
 それがどうしたの?
 おたくがリニューアルしようが、私には知ったこっちゃないお話ですが?

 何がしたくて、見ず知らずの他人の家のピンポンを鳴らしたのでしょう。
 その労力に免じて、語らずとも察してやってくれとでも仰る?
 地元で知られた社名なら、安心してはいはいと快くドアを開けてもらえるとでも?
 セールスに来ながら、こちらの忖度に頼るとは、どんだけの他力本願でしょう。

 対面で説明したいなら
「2、3分、お時間頂きたいのですが、お玄関口までお願いできますでしょうか?」
 と言うべきだし、パンフレットがあるなら、
「ポストに入れさせて頂きますので、ご覧ください」
 等の営業トークをするべきだ。

「パンフレットあります?」
 私は訊いた。
「はい」
 としか言わない営業マン。
「じゃあ後で見ますので、ポストに入れておいてください」
 営業する気がない会社のパンフを、わざわざ見てやるつもりはなかったが、そう言うしか着地点がなかった。物欲しそうにいつまでも玄関前に立っていられるのも嫌だ。

 さっさとインターフォンを切ったので、その後、営業マンが何か言ったかどうかは知らない。
 ガツガツ来られても不快だけど、何がしたいのかわからないままテリトリーに近付いて来られるのは、ものすごく気持ち悪いものだと感じた昼下がりでした。

 伝えたい事があるなら、ちゃんと伝わるように言わなきゃ、そこまでのアクションの全てが無駄になる。
 営業マンとしての仕事は何ひとつしなかったくせに、彼は私に、◯◯という会社に対するマイナスの印象を植え付け、決してこの先、顧客にならないであろう家庭をひとつ産んだのです。


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