⑪お山座りの危機『怒りの矛先・温もり・大人になる』
姉は旦那さんの実家へ。
兄と私は元の家へ。
の時期の事。
母は
隣町の家を出て
男の人の家に行った。
夜
父が酔っ払って、
私を、
ジーンズで
後ろから
2度
叩いた。
2回目の時
ジーンズの
金属の
ホックが
おでこを通り越して
目に入り
体ごと
後ろに倒れ
すぐに
起き上がった。
「オメーの母親どこ行った!」
「居場所知ってんだろ?」
「ふざけた事しやがって」
煽る父に背を向けて
座っていると
「母親にそっくりだなあ!」
「見たくねぇ」
そう言って
父はお風呂に行った。
すぐに
目をおさえた。
開かない…
どうなってるのか
怖くて
開けられない。
涙が止まらなくて
お風呂から
上がってくる前に
部屋に行った。
兄が電話を持ってきて
『お母さんの所行くか?』
と聞いてきた。
兄は携帯で
母と連絡をとっていたのだ。
私は最初、
学校だから行かない
と言った。
『殴られたんじゃないの?』
痛みの涙なのか
縋りたい涙なのか
どっちもか、分からないくらい
しゃくり上げていた。
父がお風呂から戻って来て
私が
しゃくり上げて泣いている音を聞いて
気に触ったのか
隣の部屋から
また怒鳴られた。
その怒鳴り声を聞いて
兄が飛んできた。
『お母さんに電話したから、今迎えに来るから、
学校の荷物持って、派出所の前で待ってな』
近所には駐在の派出所があった。
私は震えながら準備をした。
震える足で外に出たら
父が追ってきた。
派出所の電気は消えていた。
父は私の首を掴み
往復ビンタを何度もした。
目の痛みのせいで
頬の痛みなど感じなかった。
一瞬、道路の向こうの
家の人が
車から降りて
家に入るのが見えた。
祖母が追って来た。
母に何か
言おうとしに
来たんだろうけど、
私を叩いてる父を
止めるので精一杯の
様だった。
悪口は言うが、
祖母も
暴力は嫌いな人だから。
散々ビンタをして
最後に
太腿を膝蹴りされたあと、
祖母の手が
私の
頬を
包んだ。
その手は、
温かかった。
ジンジンしている頬を
興奮した体温で
温かい
手が
触れた。
覚えてる。
太っていた
祖母の
お肉の
柔らかい手。
腫れ上がった
私の頬に
触れて
祖母は
何か
思ったかな。
祖母はその後
私には
悪口は言わなくなった。
祖母は
父を連れて
家に戻って行った。
田舎道に、
車のライトが見えた。
急いで涙をふいて
待ち望んだライトに
手を振った。
兄は、後ろから母の後を
追って、
男の人の家に着いた後
起こった事を母に話し、
『部活終わったら迎えに行くから電話しな』
と言って帰った。
兄は
父の尾行を
阻止してくれていた。
だから、
危険だけど
母を迎えに
寄こしたのだ。
大人になってから
あの時そうだったんだ
と、考えられる様になった。
翌朝、案の定
瞼が青くなっていた。
出血はしてないが
真っ赤に
充血していた。
頬も
赤紫になって、
太腿も痣ができていた。
そしてその家は、男の人が
設計の仕事をする為の
事務所だったらしく、
夜、男の人は
いなかった。
学校では何も聞かれなかった。
私は
虐められていた。
原因は、分かっている。
匂いだ。
家では
洗濯の水に
井戸水を使っていた。
もう錆びた井戸水で
近所のスタンドの油が
混ざっていた。
体操着に
ガソリンの匂いと
汗の匂いが混ざって
ワキガ
の匂いみたいになった。
体操着もブラウスも
水道水で洗い直しても
臭いままだった。
何度も漂白をした。
部活の先輩が
使っていた
制汗スプレー
こんな物があるんだ
と、初めて知って
兄が集めていた
ギザ10を
30枚
拝借して
近所のラーメン屋さんの
ジュースの自販機で
100円に両替して、
300円で
制汗スプレーを買った。
そのおかげで
強い匂いは消えた。
虐めは暫く続いたが、
部活の先輩が、
生徒会長の協力をあおぎ、
会長が虐めてる
グループを大人しく
させてくれた。
ありがとうございます。
ある夜
酔った父は
母の手紙を私に見せてきた。
メモ帳に殴り書きをした
男の人への
手紙だった。
【何もかも全部捨てて、
○○さんの所に行きたい。
子供も私には育てられない。
○○さんの所に置いてください。】
写真の様に
頭の中に残っている。
この手紙を見せつけて、
「お前は捨てられたんだよ」
「可哀想な奴だな」
「こんなお母さんがまだいいか?」
「ついて行っても育ててもらえねーよ?」
「捨てられたんだから」
私は
読んだ後、自分の部屋に逃げようとした。
でも首を捕まれ
タンスに推されて
手紙で顔を覆われた。
苦しくて
出る限りの
声にならない
声を出して
力が緩んだすきに
外に逃げた。
父は追って来なかった。
夜だから
分からない。
お金もないから
電話はかけられない。
父が来る恐怖で
走るのを止める事は
出来なかった。
小学生の頃から
遊んでいた
同級生のお家に行ってみた。
お友達のお母さんは、
私の顔と服装を見て、
すぐに家に入れてくれた。
温かく濡らした
タオルで
顔を拭いてくれた。
「泊まってもいいですか?」
と聞いた。
何をお話したのかは
覚えてないけど、
泊めてくれた。
次の日、
上着を貸してくれて、
ドライブに連れて行ってくれた。
道の駅で
ソフトクリームを食べた。
夕方、
兄が迎えに来た。
帰る途中
「お前はまだ、あの家にいるしかない。だから、婆ちゃんに謝れ。探し歩いてたから。」
「お前が、大人になれ」
祖母に謝った。
父にも、
謝った。