生きるために必要な音楽を

札幌にはSAKE祭というイベントがある。
ライブハウスのビール(ジンジャーエ―ル)が飲み放題になるという破天荒なサービスが昼の12時から夜明けまで続くという、若干頭のおかしいライブイベントで、昨年までに13回続いてる。
昨年末、毎日深刻なニュースを聞きながらSAKE祭があるかないかってことをやきもきしながら過ごしていた。主宰もライブハウスもギリギリまで開催を模索していたみたいだけど、コロナ禍で完全アウトな趣旨ということで配信による開催を知ったのはもうクリスマスも終わった頃だった。

当然といえば当然の配慮。
お金がかかるうえに余計な手間がかかる配信という選択をしてまで、
このイベントを続けることにしたsoundlab moleと主催の奥山京には頭が下がる。

そんなことはよくわかってる。
それでもわたしのなかの子供が釈然としないって騒ぎだしていた。
冬の札幌。髪の凍るような空気の中。肩を丸めて降りる地下室への階段。
一晩中鳴り続ける音楽に酔いながら好きなように踊る時間。
振り向けば笑っている顔なじみがいて何度も繰り返す乾杯。
やがて疲れて身を沈めるソファ。
大トリの奥山漂流歌劇団が奏でるメッセージに泣きながら感じた新年の始まり。

それが全部なくなった。

昼12時から朝5時まで17時間。
配信になったSAKE祭を、ひとりアパートの部屋で見続ける自信がなかった。
ひとりで過ごすのが好きなわたしが何を言ってるんだろう。コロナ禍なんだからつるんでないで一人で楽しめよ。
日頃、そんな尖ったことまで言っているのに。
でもやっぱりはっきりと。SAKE祭の配信をひとりでみるのは寂しいって思った。いっそ中止ならいいのに。とさえ毒づいているわたしがいた。


こんな声が届いたのか、主催の奥山京は配信ライブを流してくれるお店を募集した。ライブハウスに観客は入れない。でも感染対策して営業中のバーやレストランが良ければ配信を使って見に来る客を受け容れたらどうかな。そこはひとりじゃないし、美味しい料理やお酒があるはず。
っていう趣旨。
奥山京、天才かよ。

一都三県で出された緊急事態宣言。
2021年1月10日。わたしはニュースから目を背けて札幌に飛んだ。
馬鹿だよね。Youtubeはどこでだってみられるのに。どこに行ったってひとりなのに。距離感のおかしいわたしは、SAKE祭のライブが行われる札幌で同じ空気を共有したいって思ったんだ。

WiFiが速そうなホテルの部屋を取った。
札幌でライブビューイングのお店に行こうかな。

そんなことを呟いたら、ウチで観ようって誘ってくれる友達がいた。
本当のことをいうと彼女はよく行く箱の常連で、LINEさえも交わしていない顔見知りなんだけど、それでもウチに来ない?って言ってくれた。
図々しいよね。って思いながら、わたしは彼女の好意を受け容れて数時間一緒にSAKE祭をみた。

わたしはとても救われた。

でも、思いがぐちゃぐちゃで迷惑をかけるから誰にも会わずに一人でみるよって言った友達もいた。

個々の自由、個々の感受性で。
聴いてください僕らの音楽を。

奥山京がずっと伝えているメッセージ。

長生きしよう。
そして、
生きるために必要な音楽を。


わたしにとって灯台のような存在は、今年も真っ暗な世界を鮮やかに照らしていた。


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