月読命、月と農耕

【月読命】


 月読命は、イザナギとイザナミの子とされています。ちなみに、父がイザナギで、母がイザナミです。二神は、協力して日本列島を作りました。それを「国産み」と言います。二神は、沢山の神々を産みましたが、最後に、イザナミが、火の神を産んだ時、重度の火傷を負って死んでしまいました。
 日本の神話では、死者の国を「黄泉の国」と言います。イザナギは、イザナミに会いに黄泉の国を訪れましたが、その変わり果てた姿に驚いて逃げ出しました。黄泉の国には、穢れがあるとされています。イザナギは、その穢れを清めるために川で顔を洗いました。その時、誕生したのが「天照大神」「スサノオ」「月読命」という三人の貴い神々です。順番に「左目」から天照大神が、「右目」から月読命が、「鼻」からは、スサノオが誕生しました。この三人の神々を、3貴子「さんきし」と言います。
 月読命は、誕生後の記述がほとんどなく、他の兄弟と比べると存在感がありません。一説では、荒ぶる神スサノオと、慈悲深い天照大神のバランスをとっているとされています。月読命は、何もしないので、無為の神と呼ばれました。しかし、日本の神話では、そうした陰の存在が重要だとされています。月読命を祀っている神社は、あまりありません。その一つが、出羽三山の一つ月山神社です。


【月の神】
  
 月読命「つくよみのみこと」の「ツク」は、古語で「月」のことだとされています。「ヨミ」の方は「夜」「闇」「黄泉」などという意味です。月読命は、日本書紀では、月の神とされています。月の神、月読命と対になるのが、太陽神とされる天照大神です。その場合、月読命が夜の、天照大神が昼の支配者とされました。
 神話では、月が欠けることが、死の起源で、満ち欠けを繰り返すことが、死と再生の象徴とされています。月と海には、もともと関連性がありました。月の引力が、潮の満ち引きを起こすからです。そのため、古事記では、漁業などを司る海の神様ともされました。月読という名前は、月を読む「読み解く」ことに由来しています。月を読むとは、吉凶を占うことなので、そこから占いの神とされました。また「ツキ」という読み方から、運を呼び込むともされています。読むには「数える」という意味もあったので、月を数える暦の神ともされました。


【農業】
 
 日本書紀では、月読命は、天照大神に、保食神という女神の様子を見てくるように命じられました。保食神「うけもちのかみ」の「ウケ」には「穀物」や「食物」という意味があるので、食物の神ともされています。保食神は、口からたくさんの食べ物を出して、月読命に提供しました。しかし、月読命は、それを汚いと怒り、保食神を剣で殺してしまいます。その死体からは「牛」「馬」「蚕」「五穀」などが発生しました。この保食神の話は、破壊と再生という大自然の営みの表現だとされています。天照大神は、月読命の殺人に怒って、2神は別々の世界に住むことになりました。それが昼と夜が出来た原因だとされています。
 天照大神は、天熊人という者をを遣わし、保食神の死体を持ち帰りました。そこから、たくさんの食料を得ることが出来たので、大変喜んだとされています。この穀物起源の話から、月読命は、農耕の神とされました。
 保食神の神話は、死体化成神話の一つとされています。死体化成神話とは、死体からさまざまな事物が発生する神話のことです。特に、死体から栽培食物が生まれる神話を「ハイヌウェレ型神話」と言います。ちなみに保食神は、古事記に登場しません。古事記では、この話は、スサノオと大宜津比売の話に代わっているからです。地下「大地」には、月読命の故郷「夜の食国」があるとされています。月読命は、そこを支配者する穀物の神とされました。なぜなら、穀物のように死んで種となり、大地から豊かな実りとして再生するとされたからです。

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