素朴派のアンリ•ルソー
【日曜日画家】
アンリ・ルソーは、素朴派の画家の元祖です。また、後期印象派の画家の一人に数えられます。ルソーは、正式な絵画教育を受けたことがない素人画家です。素人の日曜画家だったため、その自由で独特なスタイルは、嘲笑の的でした。ルソーは、元税関使という異色の経歴の持ち主です。そのため「税関使ルソー」と呼ばれていました。しかし、実際は、立ちっぱなしのただの門番です。ルソーの絵は、生前にはあまり評価されませんでした。本格的に絵を描き始めたのは、45歳くらいからです。そこから、専業の画家となりました。
【技法】
ルソーは、伝統的な遠近法を使わなかったので、絵の風景は平面的でした。遠近法とは、絵を3次元的に表現する技法です。また、明暗法も活用しませんでした。明暗法は、光と影の対比によって立体感をだす視覚効果です。ルソーは、基本的な技術を使わなかったため、その稚拙さを落書きと酷評されました。しかし、当時の美術の流行や技術に影響されなかったことで、かえって独創的な作風となります。
【模写】
ルソーの絵は、色彩豊かで緻密です。植物の葉も、一枚一枚が几帳面に描かれています。その完成度は、非常に高いものでした。絵の中の動物は、写真や雑誌を模写したものです。植物を描くためには、パリの植物園を取材しました。ルソーのメキシコ遠征の話しは嘘です。実際は、フランス国外に出たことがありませんでした。
【空想の世界】
ルソーの絵は、想像で描かれるため幻想的です。その豊かな想像力で、夢のような情景を描きました。絵は、写実と幻想が交錯する空想の世界です。そこには、純真無垢で、素朴な美しさがありました。ルソーの絵画は、詩的です。作品「眠るジプシー女」では、砂漠で眠るジプシー女性とライオンが描かれています。絵のライオンは、獣たちを守護する王です。ジプシーとは、移動型の生活をする少数民族であり、西洋人とは異なる外見をしていました。作品「カーニバルの夜」では、神秘的な月の光が描かれています。
【ジャングル】
ルソーは、ジャングルをモチーフにした作品を多く描いています。モチーフとは、創作の動機となる思想や題材のことです。ルソーが描くジャングルは、想像力が産んだエキゾチックなものでした。作品「蛇遣いの女」では、エキゾチックな熱帯のジャングルの中に、蛇遣いの黒人女性が描かれています。作品「夢」では、神秘的な夢の楽園を描きました。ルソーが描く空想的なジャングルは、ゴーギャンに影響を与えました。ゴーギャンの絵も、エキゾチックで神秘的な絵です。それは、現実離れした詩的で装飾的な画風でした。
【影響】
ルソーの絵は、シュルレアリスムを先取りしています。シュルレアリスムは、超現実主義と訳され、人間の無意識や潜在意識を描いたものです。またルソーの絵は、キュビズムのピカソに認められています。キュビズムは、抽象芸術の一つです。ルソーの絵のように写実的でなく、あえて遠近法は使用されません。キュビズムでは、複数の視点を一つの画面で表現します。それは、現代的で主観的な美です。
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