日本の神話、木花咲耶姫
木花咲耶姫「コノハナサクヤビメ」は、山神の首領であった大山祇神の末娘です。桜の女神とされ、桜の花のように美しい女神でした。すぐに散る桜は、日本では儚さの象徴です。美人薄明と言われるように、木花咲耶姫は短命であり、人間の有限な命を表現する女神でした。一方、姉の石長比売は、容姿は醜かったのですが、岩のような永遠性の象徴です。木花咲耶姫は、花のように咲いても、永続しない繁栄や栄華などを象徴していました。
【火中出産神話】
木花咲耶姫は、アマテラスの孫であった天津神ニニギノミコトと結婚します。一夜で身籠ったため、ニニギノミコトに国津神との不貞を疑われました。天津神とは、天上界の神々であり、国津神は地上の神々です。木花咲耶姫は、潔白を証明するために、締め切った産屋に火をかけて、その中で出産することにしました。これは、国津神の子だと言う疑いを晴らすための一種の試練です。その結果、海幸彦、山幸彦と言う子供が無事に産まれました。山幸彦は天皇家の先祖なので、木花咲耶姫は、皇祖の大御母神と言われています。木花咲耶姫は、火中でも出産することが出来たので、防火、火除けのご利益があるとされました。また、安産、子宝、子育の女神として崇拝されています。皇族の先祖であるニニギノミコトは、山神の娘である木花咲耶姫との結婚によって、山「地上」の霊力を得て、統治の正当性を持ちました。一説では、この火中出産神話は、焼畑農業のことではないかとされます。焼畑農業とは、木や草を刈り払って燃やし、灰を肥料として農作物を育てる農業形態です。また焼くことによって、雑草や病害虫を駆除も出来きました。これは、焼け跡から、新しい穀霊「山幸彦」が誕生したことを表現しています。そのため、木花咲耶姫は農耕神でもあります。
【別名、浅間大神】
木花咲耶姫は、浅間大神と同一視されました。浅間大神は、山そのものを御身体とする富士山を神格化したものです。富士山が活火山だったので、木花咲耶姫も火山神とされました。木花咲耶姫は、浅間神社「あさま、せんげん」の主祭神です。全国に1300社ある浅間神社の総本宮は、静岡富士宮市にあります。主祭神とは、その神社に祭られた複数の神の中で、その中心となる存在です。火中出産を行った木花咲耶姫は、火山鎮火の神として祀られました。浅間神社は、富士山信仰の本拠地とされます。歴史的には、坂上田村麻呂が社殿を営み、戦国武将の今川氏が崇拝しました。山は、川や海などの水とも関連があります。そのため、水の神とされ、漁業、航海安全、海上安全の守護神でもありました。
【酒造りの酒解子神】
木花咲耶姫は、お乳の代わりに甘酒を作って飲ませて子育てをしたとされます。父の大山祇神は、酒解神「さかとけのかみ」と同一視されていました。初めて酒を作って、お祝いに神々に献じたとされます。卜占によって、稲田を選び、神聖な米によって、芳醇な酒を醸造しました。木花咲耶姫は、大山祇神の娘なので、酒解子神「さかとけこのかみ」と呼ばれます。親娘の二神は、造酒の祖神として、梅宮大社の主神として祭られました。特に酒造関係者には、崇拝されています。