那羅延天とヴィシュヌ

【那羅延天】
 那羅延天とは、ナーラーヤナの音写です。ナーラーヤナは、毘紐天「ヴィシュヌ」の異名とされています。那羅延天とは、仏教での呼び名です。スリランカでは、仏教を守護する護法善神とされました。天とは、仏教の守護神のことです。那羅延天は、力が強いとされるので、日本、中国では、天の力士「金剛力士」と混同されました。金剛力士は、よく寺の門を守る守護神として祀られています。
 ヴィシュヌという名前の由来は「遍く満たす」や「全ての中に存在する者」です。そのため、どこにでも存在するとされました。ヴィシュヌは、鳥の王「ガルーダ」を乗り物とし、龍王シェシャ「アナンタ」の上で眠るとされています。妻とされるのが「幸福」「美」「富」「豊穣」の女神ラクシュミです。ヴィシュヌは、青い肌で、4本の腕があり、それぞれの腕には「棍棒」「円盤」「蓮華」「ホラ貝」を持つとされています。

持ち物の意味は、次の通りです。
①棍棒「カウモダキ」は、黄金の槌矛で、知力、知識の象徴とされています。
②円盤「チャクラ、スダルシャナ」は、108のノコギリ歯を持つ円盤で、天地創造の時に使用した武器だとされています。その名前の由来は「真実を観る」です。円盤は「太陽」「創造と破壊」の力を象徴しています。
③蓮華「パドマ」は「太陽」「生命」の木のことで、純潔を象徴しています。
④ホラ貝「シャカ」には、存在の根源と結びついているという意味があり、宇宙を象徴しています。

【ヴィシュヌ】
 ヴェーダ時代、ヴィシュヌは、目立った神格ではありませんでした。地、天、空を3歩で歩いて測量したことや、インドラがヴリトラを倒す手助けをしたという記述があるだけだからです。ヒンズー教時代になって、ヴィシュヌは、最高神とされました。ヴィシュヌは、同じく最高神の一人、全一者ブラフマーと同一視されることもあります。そのため、全宇宙の体現者とされました。または、この現実世界は、ヴィシュヌの夢にすぎないとされています。
 ヴィシュヌは、宇宙の均衡が崩れた時、ダルマ「正法」を修復するために地上に現れる世界の維持者とされました。そのため、善を守り悪を滅ぼす「温和」「慈愛」「恩寵」の神とされています。地上には、目的に応じて、様々な姿で現れました。それをアヴァーターラ「化身」と言います。ヴィシュヌの化身は、次の10種類です。

【アヴァターラ】
①「マツヤ」は、魚の化身で、人類の祖先「マヌ」を洪水から救出したとされています。

②「クールマ」は、亀の化身です。神々が乳海攪拌を行った時、大地を支え、不死の霊薬「アムリタ」を獲得する手助けをしました。

③「ヴァラーハ」は、猪の化身のことで、さらわれた大地の女神を助け出しました。

④ナラシンハは、獅子の頭をした人間です。どんな武器にも殺されない身体を持ち、アスラ王を打ち倒したとされています。

⑤ヴァーマナは、小人で、アスラ王から天と地を騙し取ることに成功しました。

⑥「パラシュラーマ」は、シヴァの直弟子の聖仙で、邪悪なクシャトリアを倒したとされています。ちなみに、パラシュとは「斧」という意味です。

⑦「ラーマ」は、叙事詩「ラーマヤナ、」の主人公で、ダルマを体現するインド人の理想の君主とされています。

⑧「クリシュナ」は、叙事詩「マーハーバータラ」に登場する無敵の武将です。青い肌で「魔法の笛」と「円盤」を持つとされています。名前の由来「黒い神」です。クリシュナは、インドでは、最も人気があり「宇宙の踊り手」ともされています。

⑨九番目のアヴァーターラは「バララーマ」か「ブッタ」です。「バララーマ」は、農耕と関係が深い神なので、農具を武器としています。ただし、バララーマは、ヴィシュヌではなく、アナンタの化身とされています。

⑩「カルキ」は、白馬の姿をしたアヴァーターラの最後です。宇宙を更新するために、全てを破壊するとされてます。

いいなと思ったら応援しよう!