セザンヌと「後期印象派」
【セザンヌ】
ポール・セザンヌは、ゴッホ、ゴーギャンと並び、三大後期印象派の一人に数えられます。「近代絵画の父」と呼ばれ、近代絵画への道を開きました。近代絵画に深い影響を与えた巨匠であり、その先駆者です。セザンヌは、裕福な銀行家の息子として生まれました。父から経済的援助を受け、父の死後は莫大な遺産を受け継いでいます。自分自身を「頑固じい」と称しており、偏屈で癇癪持ちでした。リンゴに対するこだわりがあり「リンゴでパリを驚かせてやる」という言葉を残しています。絵を書くことに没頭していたので「仕事の犬」という、あだ名がありました。
親友には「居酒屋」で有名な小説家のゾラがいます。印象派のピサロやルノワールとも交流がありました。ピサロからは、造形的な部分で影響を受けています。一時、印象派の人々と行動を共にし「印象派を美術館の美術らしく、堅固に永遠的なものにしたい」と言いました。しかし、印象派の絵は、形がぼやけるなどといった理由で、後に印象主義を放棄します。その後、印象派の友人たちとは、決別しました。その時の孤独を表現しているのが「トランプをする男」という作品です。
【新しい技法】
セザンヌは、印象派から離れ、新しい美術的な表現を模索します。そこで生み出されたのが、多視点な絵です。多視点とは、対象を一つの方向から見ることではありません。複数の異なった視点から観察することです。そこから見えたものを同じ空間の中に再構築します。
セザンヌは「構築的筆致」という技法を使用しました。構築的筆致とは、リズムカルな筆使いで、色調を変化させる技法です。この技法によって、空間の広がりや、物の質感と立体感を表現することが出来きました。セザンヌの新しい技法は、キュビズムに影響を与えています。
キュビズム的手法によって描かれたのが「サンド・ヴィクトワール山」です。この絵は、充実期の代表作の一つとされます。サンド・ヴィクトワール山は、なんの特徴もない山でしたが、セザンヌにとっては、最大の主題でした。
【幾何学】
セザンヌの絵は、デフォルメされた、不自然な絵です。セザンヌは、自然の中に、隠された形を見出しました。その形を見いだすため、対象である自然は単純化されます。セザンヌは、それを幾何学的な形に置き換えました。幾何学な形とは、円筒、球体、円錐などです。セザンヌは、幾何学な形によって、自然を表現しました。なぜなら、セザンヌにとって、絵は自然の再現ではなく、それ独自の世界だったからです。
【画面構成】
セザンヌは、何より構図のバランスを優先しました。セザンヌの絵は、幾何学的な形とはっきりした色合いで構成されています。セザンヌは、感覚的に空間の関連性をとらえ、それを独自の表現で絵に再現しました。セザンヌにとって、芸術は自然とは別の調和です。絵は、自然の再現ではありません。自分の感覚そのものを画面に表現したものでした。
「大水浴」は、水浴する人々を主題にした作品です。この絵は、現実的ではありません。あくまでセザンヌの心象風景であり、地上の楽園の再現でした。セザンヌの絵の構図には、揺るぎない安定感があります。絵に安定感があるのは、セザンヌが目指したものが、永遠性の表現だからです。