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2024年上半期ベストアルバム30+α

こんにちは。暇じゃない暇人です。

早いもので2024年も半分が過ぎました。僕は大学受験から入学、新生活と環境の変化に戸惑いながら過ごしていましたが、以前よりも自由な時間が増えたのもあって以前より熱心に新譜を追うことができた上半期だったかなという印象です。それに比例するかのように濃厚なリリースが数多くあり、気鋭の新人からベテランまで幅広く名盤が産み落とされた環境で凄く楽しい音楽ライフを過ごせた感じがしましたね。今回は上半期にリリースされたアルバムの中からよかったものを30枚選んで、ランキング形式で発表しようという記事です。30枚に絞るのも一苦労な豊作っぷりでしたが、僕の完全な好みで選んだ上半期ベスト30はこんな感じです。


30位 THE YELLOW MONKEY 「Sparkle X」

イエモンの復活は今年でも凄く嬉しかったニュースの一つだけど、早速リリースされた新作が彼らの復帰を堂々と告げるに相応しい傑作だったのもまた嬉しい。成熟した余裕と色気を押し出した大人のロックアルバムという趣で、デビュー当初から彼らの大きな魅力である圧倒的なカリスマ感に遊び心を接続したようなラフな器用さが漂う。前作「9999」でも感じたけど、再結成したバンドが無理して当時を再現しようとせず、今ありのままの状態でカッコいい姿を見せられるのは理想的な形だと思うんですよね。アルバムの最後を飾る「復活の日」は吉井和哉の癌というバンドの危機を乗り越えた彼らの決意表明のようで泣ける。


29位 Adrianne Lenker 「Bright Future」

みんな大好きBig ThiefのボーカリストAdrianne Lenkerの新作です。彼女に関してはもうこの声の時点で強すぎる。繊細であるようで芯もあって、歌が持つ魔法みたいなものを最大限に引き出してくれるような歌声。優しさの極致に辿り着いたかのようなソングライティング、ピアノとギター、ストリングスの生の響きが絡み合って生まれる包み込むようなサウンド感。自分の心の中に大切にしまっておいて拠り所にしたい一枚。ただ一昨年のBig Thiefの最新作で見せられたユニークさと美しさのハイブリッド感を思うといささか物足りなさを覚えるのも事実。まあこのレベルの作品で物足りなさを覚えるほどBig Thief関連の作品のクオリティが異次元ってことなんだけど。


28位 DIIV 「Frog In Boiling Water」

2010年代のインディーロックにおけるサウンドの方向性を形作ったとも言える10年代インディーの雄DIIVの新作。今作も聴く人を快楽の彼方へと連れて行く桃源郷のような一枚。平面的であるものの分厚い手触りのギターサウンドと気だるそうだけど器用なコーラスワークに彩られたボーカルの絡み合いは今回も極上。やってることは物凄くいなたいギターロックなのに夢見心地になれるのはやっぱりインディーロックの魔法ですよね。昨年リリースされたBeach Fossilsの新作「Bunny」と並べて飾りたい、どうしようもない気だるさと清涼感を同時にもたらしてくれるドリームポップの理想郷。


27位 Shellac 「To All Trains」

今年の5月に惜しくも亡くなった名エンジニアSteve Albiniが率いるShellacの最終作となってしまった一枚。これぞまさしくアルビニサウンドと唸るような圧倒的な切れ味の音が鳴り響き、無骨なバンドアンサンブルが鉄壁のサウンドを作り上げる無敵状態。歌詞とかメロディとかの次元を超えて、鳴っている音そのもので極限の格好良さに迫る姿勢に痺れる。これがアルビニの遺作となってしまったのが非常に惜しいが、彼が手がけてきた数々の名作の最後に並ぶが自身のバンドによるこのアルバムというのもまた美しいとも思ってしまった。


26位 Tempalay 「((ika))」

前作「ゴーストアルバム」以降メインストリームでの露出も増え、ロキノン系フェス等の出演もあるなどコアな音楽リスナー以外からも広く支持を得た彼らの新作は更にポップかつディープな世界に潜り込む一枚に。1時間超えの長尺の中で洪水のような音の情報量が渦巻く濃厚なサウンドが展開しつつ、それに相反するように叙情的なメロディもまた印象的な仕上がり。民謡的な雰囲気もありつつグルーヴィなサイケの色も色濃く出ていて、この強烈な個性を希釈し過ぎない程にポップさを入れ込むバランス感覚が素晴らしい。確固たる音楽性の上で野心的なビジョンを持つバンドがメインストリームで勝負できるのは凄くいい環境だと思う。


25位 Kim Gordon 「The Collective」

Kim Gordonの新作は衝撃的でしたね。元Sonic Youthのメンバーという肩書きを裏切らない圧倒的なノイズとは裏腹に、伝説的オルタナバンドの面影を吹き飛ばすかのようにロック的なアプローチは姿を消している。ノイジーでインダストリアルなビートやブレイクビーツ、果てにはアンビエントとも共鳴するなど飽くなき音楽探究が感じられる孤高の世界観。彼女のボーカルも歌とラップ、ポエトリーリーディングのどれでもないような佇み方をして、重厚なノイズに覆われたアルバムのアブストラクトさに拍車をかけている。今年で71歳になった彼女だが、その尖り続ける姿勢にはただただ驚かされるばかりだ。


24位 L'Imperatrice 「Pulsar」

フランス出身のディスコバンドの3枚目となるアルバム。ダンスミュージックの快楽を熟知している陶酔感を感じさせながら肩の力を抜いたようでソフトな音像、ウィスパー的な声質のボーカルでなぞる繊細なメロディによって演出される浮遊感が聴く人をリラックスさせてくれると同時に、踊れるポップスとしても一級品に仕上がっている。イタリア・ナポリ出身のシンガーFabiana Martoneをフィーチャーした「Danza Marilù」が極上。脱力感と高揚感が同時にパッケージングされた、ふとした瞬間に聴き返しては多幸感に包まれるような一枚。


23位 ザ・クロマニヨンズ 「HEY! WONDER」

クロマニヨンズのアルバムに余計な解説は不要。そう言い切ってしまってもいいくらい今作も初期衝動とロックンロールにおける最高の瞬間が詰め込まれている。ヒロトとマーシーのソングライティングのクオリティは全キャリアの中でも最高潮と言ってもいいくらいだし、何よりリズム隊の2人の演奏もキレキレだ (特に桐田勝治のドラムが最高)。ずっと変わらないロックンロールへの飽くなき探求の中で常に進化し続ける彼らの存在は世界を見ても本当にプライスレスだなと思う。ブルーハーツやハイロウズは聴いてたけどクロマニヨンズまでは追えてないって人こそ聴いてほしいですね、ヒロトとマーシーは今が一番凄い。

22位 Pearl Jam 「Dark Matter」

Pearl Jamがここまで瑞々しいロックサウンドを鳴らすとは。決してベテランになって勢いが落ちたとは思っていなかったけれど、4年ぶりの新作で聞こえてくるのは今が全盛期と言っても過言ではないような驚異のギターサウンド。各楽器の演奏も非常に洗練されている上に曲も清々しいほどに真っ直ぐなアメリカンロック、日々のモヤモヤも全部吹き飛ばしてくれるような痛快さがアルバム全体を覆っている。彼らもコンスタントに衰えない輝きを見せ続けている偉大なバンドだと実感するとともに、昨年のストーンズでの仕事も素晴らしかったアンドリューワットの流石の手腕に感動を覚える。もう前回から20年近く経ったよ、そろそろ来日して!!!!!


21位 Hedigan's 「2000JPY」

SuchmosのYONCE率いる新バンドHedigan'sの1st EP。Suchmosの洗練されたネオシティポップ的な感覚とは打って変わって、飄々とした立ち姿でどこかサイケデリック的なフォークを鳴らしている。心の赴くままに自由に音を鳴らすような伸びやかな雰囲気。どことなくOasisやRadioheadなんかのUKロックを彷彿とさせる瞬間があったり、ユーモアに溢れた詞世界も好きなポイント。YONCEの声はこのようなアコースティックな世界観にも抜群の相性を見せる。ライブでは音源以上にロックかつサイケな音像に振り切った音を鳴らしていたり、今作に未収録の新曲も披露していたりと今後の進展も見られるようなので凄く楽しみ。


20位 Friko 「Where we've been, where we go from there」

その登場と同時にTwitter上で話題を掻っ攫っていった新時代オルタナロックの衝撃作。とにかく生々しく爆発的なエネルギーがアルバム全体を支配する尋常じゃないテンション感。Arcade Fireあたりを彷彿とさせるチェンバーポップやポストパンクなどといったジャンルからの影響を飲み込んだ激情のアメリカンインディー。ヘヴィなアンセムもバラードもギターロックの格好良さで全部突き抜けてしまうような、近年失われていたオルタナロックのヒーロー感あるバンドが遂に現れたという感触がする。そんな彼らをフジロックに招聘できたのは今年の大きな功績だと思うし、現代でもロックバンドが大きな人気を誇るここ日本で特別な存在になってほしいと願うばかりだ。


19位 AJICO 「ラヴの原型」

2021年まさかの活動再開を発表した、UAとベンジーこと浅井健一によるコラボバンドAJICOの新作EP。サウンドはベンジーの特徴的なサウンドを活かしつつ現代的な感覚にアップデートしているし、UAとベンジーの妖艶な歌声は更に生々しさを増している。TOKIEと椎野恭一によるリズム隊の演奏もムード感満載。ただでさえ強烈な個性を持つ4人の特徴的な部分を集めて一枚に落とし込んだとんでもない濃度のロック。再結成バンドが出す新作が懐メロにならず現役としての張り詰めた才能とオーラを纏っているというのは理想的な環境だと思うが、期間限定っぽかったユニットがここまでの進化を遂げるかと衝撃的だった。


18位 折坂悠太 「呪文」

折坂悠太の約3年ぶりの新作は、コロナ渦の中で制作され独特の緊張感を纏っていた前作「心理」とは打って変わって、自由で散漫とした風通しの良さが際立つ一枚に。その中でも「凪」や「努努」などアグレッシブなバンドアンサンブルを聴かせる楽曲もあり、「平成」で見せた素朴な歌の強さと「心理」でのオルタナティブ路線の双方を活かした構成となっているのが素晴らしい。歌詞を見ても日々の生活から溢れたような事柄を丁寧に綴った言葉が並んでいる。アルバムの最後を飾る「ハチス」では過去最高級に活き活きとしたアンサンブルを聴かせるが、その中で "全ての子供を守ること" という一節が含まれているあたりに彼の一貫した信念を感じる。ジャズ的な充実のバンドサウンドと持ち前の歌心が見事にマッチした快作。


17位 ピーナッツくん 「BloodBugBrainBomb」

登場時からVTuberシーンのみならず音楽好きをも唸らせてきた実力派であるピーナッツくんの新作。ハイパーポップあたりの音楽性を吸収した縦横無尽かつアグレッシブな音像が印象的なのと同時に、引き算的で鋭利さを持つトラックも使いこなすディープな一面も確立している。その中でVTuberという自身の存在そのものを強烈なコンセプトとしてカオティックな楽曲群を駆け抜ける大暴走が展開。同じくVTuberとして活動する月ノ美兎をゲストに迎えた「Birthday Party」はウィスパーボイスを大きな武器とする月ノ美兎のフロウとピーナッツくんの掛け合いがドラムンベース的なビートの上で繰り広げられる驚異の名曲。すげえよこの豆。


16位 Bleachers 「Bleachers」

Taylor SwiftやLana Del Reyらを手がけ、現代のヒットメーカーとして名を馳せる敏腕プロデューサーJack Antonoff率いるBleachersの新作。有機的なバンドアンサンブルとアンセミックなソングライティングで聴く人全員を多幸感に包み込む最高のポップアルバム。2年前に彼のプロデュースによって発表されたThe 1975の傑作「Being Funny In A Foreign Language」などを筆頭に、彼のプロダクションは綺麗にまとめ上げる器用さが印象的だが、自身のバンドでは野心的で荒々しさすらあるキラキラしたポップスを展開!サックスはじめホーンセクションの使い方も流石の手腕、余すことなく全方位に張り巡らされたエンターテインメント性が楽しい一枚。


15位 Still House Plants 「If you don't make it, I love u」

イギリス・ロンドン出身のロックバンドによる3作目。バンドサウンドはギター、ドラム、ボーカルのシンプルなトリオ編成。規則的に刻まれるざらついたギターのフレーズと簡素なセットながら不規則に打たれるドラム、それらが作り出す隙間だらけの土台に乗る渋みのある妖艶なボーカル。そして溢れる熱を押さえつけるような凄みのあるソングライティング。徹底的な緊張感を最小限のピースで演出しているロックバンドの美学。鳴る音全てが鋭利なサウンド感覚で聴く人の鼓膜を劈く、音楽における核の部分を厳選して詰め込んだような、単純さが辿り着いた究極の美しさがここにある。


14位 张醒婵(Zhang Xingchan) 「No, No!」

突如Twitter上で話題になった中国のSSW。ロックからジャズから様々なジャンルを横断して様々な顔を見せる楽曲群、更にそれらを飲み込んで全く独自の音楽へと昇華させる技術まで見せる尋常じゃない才能。これを大学院在学中に、しかも演奏からマスタリングまで全て自宅で制作されたというから驚き。アルバム全体を支配するかなりハードなギターサウンドと目まぐるしく移り変わる展開からCorneliusの名盤「FANTASMA」と似た才能の爆発を感じるというのも納得。間違いなく今年一番のダークホース。使われているサブスクの違いなどもあってか、日本国内にあまり情報が入ってこない中国音楽だけれど、このレベルの名盤がまだまだ埋もれているかもしれない、と考えるとかなりワクワクする。


13位 Lantern Parade 「あなたが思い出すための / 心の中の海辺」

ランタンパレードこと清水民尋はこのアルバムを「どこの国かは分からない不思議なダンスミュージック」と述べている。その言葉通り無造作にザッピングしたような情報過多さが漂う (楽曲の中には2分弱で突然終わってしまうような曲もある) 一枚なのだが、そのムードが混沌とした現代世界と合致しているようにも思える。サンプリングを主体としたアナログな温もりの中に漂う無機質さがリスナーをドリーミーな世界へと誘う作品。そんなダンスミュージックの中に並べられた言葉たちは世の中への不信感と失望に満ちた情感を纏っている。極私的な独り言のような、記憶の断片を掻き集めて作り上げたような作品の世界観の内側で、現代社会への諦めの中でダンスミュージックの冷ややかな快楽に救われるような感覚に陥る。


12位 Dolphin's Hyperspace 「What's My Porpoise?」

Twitterでこのアルバムについて言及した投稿がたびたびバズっていたのも印象的だった、そのジャケ完全に「お前を消す方法」じゃねえか状態のモダンジャズ。人力テクノと言われるのも頷ける、アルトサックス奏者とベーシストによるデュオの超絶技巧が炸裂する一枚。ドラムには参加した作品全部名盤でお馴染みの超人ことLouis Coleらが参加、ドラムンベースかよと突っ込みたくなるような凄まじいビートによって超絶技巧が更に際立つとんでもない世界観に。モダンジャズの遊び心とダンスビートの快楽を異次元の技術で融合させたハイレベルすぎるダンスレコードが誕生。


11位 Nia Archives 「Silence Is Loud」

ジャングルを基調とした音楽性で注目されていたUKダンスミュージックの超新星・Nia Archivesの待望のデビューアルバム。こちらの期待をはるかに上回る最高の出来でしたね。ジャングルやドラムンベース畑の超クールなビートに乗る歌声がまず最高、シンガーソングライターNia Archivesとしての成長も感じさせる抜群のセンスしたメロディラインも最高、とどこを見ても踊り狂うにピッタリの完璧な構成。ダンスミュージックとしても歌モノのポップスとしても文句なしの完成度だ。本人のライナーノーツではブリットポップ、レディオヘッド、マッシブアタック等の音楽からの影響も公言している通り、ジャングルの枠組みを超えてポップミュージックの歴史を接続していくような融合にも強く惹かれた一枚だった。


10位 柴田聡子 「Your Favorite Things」

前作「ぼちぼち銀河」も絶好調だった柴田聡子の新作はまたもや大傑作でしたね。僅か35分の中でネオソウルやヒップホップ的な感覚など様々な要素を貪欲に取り込んだ粒揃いの一枚に仕上がっているが、持ち前のポップセンスによってサラッと聴き流せる心地良さも両立していて難解もリピートしたくなる中毒性があるオルタナティブポップの大傑作的なアルバムに。彼女らしい特徴的な言葉選びとメロディへのはめ方も際立っているが、前作以上に流れるような歌い方になったことでより彼女の歌う言葉が音の中に溶け込んでいくような感覚を手にすることとなった。曲間の繋ぎも随所随所で工夫されていて見事、アルバム全体を通して風通しの良さが抜群な極上のポップレコード。


9位 Billie Eilish 「HIT ME HARD AND SOFT」

現代ポップシーンの頂点の一角に立った彼女の次なる一手はアルバムというフォーマットの再定義と呼べるような行為。先行シングル一切なし、アルバム内の曲順などへのこだわりを繰り返し語るなどアルバムとして通して聴いてもらうということに焦点を当てた一枚となった。実際その試みは大成功でこのアルバムとして届けられ、チャートを見ても全楽曲が満遍なくチャートインするなどの動きを見せる。楽曲に目を向けても明らかに進化しており、これまで無機質な音像と囁くようなボーカルによる不気味さを魅力にしていたのが、今作では立体的でクリアなサウンドと凄まじいメロディセンスでポップミュージックとしての理想像を演じている。一曲の中での変遷も流石のセンス、ポップシーンの最前線に立つ者として完璧な一手。


8位 Glans 「slow tree」

GEZAN主宰のレーベル・十三月からリリースされた札幌出身の5人組・Glansのデビュー作。テクノミュージックを人力で再現しようとする異常なビートと縦横無尽に揺れ動くBPMが両立する不可思議な音楽性にサイケ的な雰囲気が合わさって生まれる混沌の世界。そしてシームレスに繋がれて展開されてきた37分にも及ぶ怒涛のアンサンブルは最終曲「hi de to」へと流れ込んでいく。まるで展開されてきたアンサンブルが最終トラックへの前哨戦かのような、この僅か2分17秒のためにその前の全ての時間を使ったような衝撃の構成。そして最後にこれまでのビートの流れも汲んだ尋常じゃない熱量のバンドサウンドを聴かせてアルバムは終了。徹底的な構築美と圧倒的な熱量が組み合わさった時の凄まじいカタルシスを閉じ込めた怪物的音楽。


7位 Khamai Leon 「IHATOV」

小田朋美や石若駿ら率いるCRCK/LCKSや君島大空を擁するAPOLLO SOUNDS所属の4人組バンド。「エクスペリメンタルクラシック」を標榜していると本人たちが語る通り、ミクスチャーっぽい雰囲気もある上にヒップホップからエレクトロまで全部飲み込んだカオティックさで、歌メロまで混沌としたバンドアンサンブルの一部として溶け込む複雑怪奇さ。隅から隅まで異次元の音が鳴っているようで、少し民謡的な雰囲気も醸し出すフルートなどの生楽器を活かした耳馴染みの良さも同時に発生しているどこまでも不可思議なサウンド感覚。近年の邦楽シーンが成し遂げてきたジャンルレスな音楽吸収によるカオティックさを最高濃度で抽出したような驚愕の傑作。これで月間リスナー2600人はあまりにも少なすぎる。


6位 Dos Monos 「Dos Atomos」

2023年の夏に第一期の活動終了を発表し、今年の3月にヒップホップクルーからロックバンドへ、と語り第二期へと突入したDos Monosの新作。サンプリング主体のヒップホップから大きく飛躍し、生演奏を積極的に取り入れた攻撃的なサウンドを軸にジャンルの壁を一切取り払った衝撃作に。変拍子やテンポ変化も縦横無尽な情報量の渦のような楽曲群、ヒップホップクルーとして築き上げた畳みかけるようなフロウ、その全てが絡み合った結果ヒップホップからもロックからも離れた未知なる領域へと到達している。大友良英、Morgan Simpson (black midi)、「MADドラえもん」の動画などでも知られるFranz K Endoなど異色の才能が参加しそのカオティックさに更に磨きがかかっている一枚。今の彼らは他の誰の追従も許さない地点に立っている。


5位 Bring Me The Horizon 「POST HUMAN: NeX GEn」

延期に延期を重ねた末にサプライズリリースという形で放たれたBMTHの新作。結果として本当に待った甲斐があった大名盤でしたね。彼らのルーツであり得意とするデスコアやメタル的なヘヴィサウンドの上で、現代シーンを席巻するハイパーポップなどからの影響も飲み込んだ異次元のロックミュージック。バンドが長年取り組んできたエレクトロとヘヴィなロックサウンドの融合も最高の強度で合わさったと言い切っていいだろう。ニューメタルなど批評筋から冷遇されてきた音楽まで堂々と自身のルーツとして昇華する姿勢にも痺れる。それぞれの楽曲の繋ぎなども滑らかに聴かせ、一枚のアルバムとしての完成度も抜群のものに仕上がっている。名実ともに現代の頂点に立つバンドの一角であるという宣言たる傑作だ。


4位 ZAZEN BOYS 「らんど」

前作から12年の時を経て遂に放たれたZAZEN BOYSの新作。新ベーシストMIYAの加入によるメンバーチェンジ、NUMBER GIRL再結成・再解散と大きな動きがあった後でのリリースとなったが、シンセなしの4人でのアンサンブルが過去最高級のソリッドさを持ち、ヒリヒリする情景が目に浮かぶような一枚となった。それと同時に、変拍子やヘヴィなリフも取り入れつつこれまでの向井秀徳作品の中でも歌モノとしてのポップさも最高級。そんな世界観の中に収められた行き場のない絶望感や孤独のようなドス黒い感情が解凍された冷凍都市に鳴り響く。中でも少女というテーマに囚われ続けてきた彼がその象徴を用いて、戦争というテーマに真正面から向かい合った「永遠少女」から感じる彼らの意思表示と覚悟が重くのしかかる。向井秀徳は更にギラついた目で世界を見つめ、「繰り返される諸行無常」を歌っている。


3位 tofubeats 「NOBODY」

このEPはとにかく衝撃的で怖かったですね。日本のクラブシーンを牽引してきたtofubeatsによる最新作は全曲AIによる合成音声にボーカルを務めさせるという試みを敢行。各々の楽曲のタイトルや歌詞は他者の存在をキーとしているのに対して、ボーカルはAI、ジャケットは全員同じ顔と服装をした警察官、と明らかに人間味の欠落を感じさせる。アルバムの最後に収められた「NOBODY (Slow Mix)」では廃墟のようになったステージを演出し、そこで合成音声が "君のことずっと待ってたよ" と歌う。人を待っている存在はあるのにそれは誰もいない虚無のダンスフロアなのだ。AIの進歩が凄まじいスピードで進み、ある場所での人間の不在も他人事のように思えなくなっている現代社会。そこに投げかけられたこの作品は存在と不在の矛盾という概念を用いた強烈なアイロニーを孕んでいる。


2位 Faye Webster 「Underdressed at the Symphony」

USインディシーンで大きな注目を集めるSSW・Faye Websterの新作は、飾らない生の柔らかなサウンドと歌が記録された日常をささやかに彩るサウンドトラックのような一枚。大きなサウンドの変化やソングライティングの劇的な展開もなく、音数も控えめでBPMも遅めな平坦とした世界観が漂っているが、人々が生きている日常はそんな音楽が沁みる瞬間に溢れていると思う。Lil Yachtyをフィーチャーした「Lego Ring」では2人の歌声が独特のサイケデリアを魅せるものの、ここでもその根底にあるのは生活の中にあるありふれた瞬間の煌めき。WilcoのNels Clineによるギターサウンドも細やかで暖かみ溢れる極上の彩りとして溶け込んでいく。今年の上半期は「Thinking About You」を聴いては人生を肯定されたような穏やかな気持ちになった。このアルバムが持つ包み込むようなエネルギーに何度癒やされたことだろう。


1位 Vampire Weekend 「Only God Was Above Us」

この一枚はもう圧倒的でした。正直これ以外の1位は考えられなかった。USインディーシーンで確固たる存在感を放ち続けてきた彼らの約5年ぶりとなる新作は、これまでで最も尖った不穏な音像が印象的なのと同時にどこまでも優しく内省的な印象も受ける一枚に。キャリアの中で得た幅広い地盤の上でこの上なく美しいメロディが響く全10曲。とりわけチェンバーポップ的なストリングスやピアノの旋律がバンドサウンドを彩るのが印象的。また全編通してノイズや不協和音、攻めたミキシングが美しいメロディに不穏さや重さといった彩りを添えているのも特筆すべきポイント。戦争や諦めといった重みのあるテーマをポップソングの中で伝えるにおいてこれらの要素が素晴らしい相乗効果を生んでいる。彼らのキャリアのセルフオマージュ等も盛り込まれたキャリアの集大成的な一枚であると同時に、オルタナティブで繊細で美しくて完璧なロックアルバム。本当に聴けて良かった。


おまけ: 2024年上半期ベストシングル10

ここでは上半期にシングルとして発表され、かつ下半期にアルバムのリリースが決定していない、もしくは予定がない曲から良かったものを厳選して紹介します。こちらについては順位等はつけず、リリース順に並んでいます。

1. 花譜×岸田繁 「愛のまま」

バーチャルシンガー・花譜とリアルのコンポーザーによるコラボプロジェクト「組曲」から。くるりの岸田繁が作詞作曲を務めた一曲で、花譜の溶けるようなメロウなボーカルと岸田繁の暖かみのある普遍的なメロディが最高の相性を見せている。バックの演奏もベースは佐藤征史、ドラムは石若駿と実質花譜とくるりのコラボという状態。

2. Summer Eye 「三九」

上半期、特に5月と6月はSummer Eyeばっかり聴いてましたね。今年で39歳になる夏目知幸からのビッグなプレゼント、3月9日に390円で配信というリリース形態には笑ったし、曲もギターとホーンの絡みが楽しいゆるりとしたビートと歌が気持ち良く、肩の力を抜いて気ままに踊れる名曲。5月にGROOVETUBE FESで見たライブめちゃくちゃ楽しかったです。

3. 中村一義 「春になれば」

中村一義といえばデビュー当時から孤高の天才と称された存在だが、そんな彼がここまで人懐っこいメロディを書くこと滅多にないんじゃないか。春になれば、と繰り返される歌詞もやって来る春への希望と期待に溢れていて大好きだ。春の風がそっと新たな生活への扉を開いて背中を押してくれたような、そんな気分になった。

4. 名取さな 「いっかい書いてさようなら」

正直ベストシングルはこの曲を紹介したくて作ったコーナーと言っても過言ではないです。VTuberとして活動する名取さなが自身の誕生日イベントで披露した新曲。この曲は月ノ美兎「ウラノミト」を手掛けた只野菜摘と広川恵一による提供。ポップミュージックの引き出しを片っ端から全開にして、怒涛のスピード感でグルーヴィに突っ走る極上のオルタナポップ。最後の潔いブツ切り感まで全部最高。

5. リーガルリリー 「キラキラの灰」

個人的に現行邦ロックの中で最高のバンドだと思っているリーガルリリー。この曲はアニメ「ダンジョン飯」の主題歌に起用され、一般層にも広くリーチした曲となったが、キャッチーなメロディと更に硬派になったバンドサウンドを駆使した新たなアンセムに。イントロのSmashing Pumpkins「1979」のオマージュなんかも愛に溢れていて最高だ。

6. カネコアヤノ 「ラッキー」

カネコアヤノはどんどんノイズとサイケの海へと潜っていってる。サウンドの不穏さが更に増して持ち前のオルタナ性が剥き出しになったような一曲。近年の作品で核となっていた暖かな世界観は鳴りを潜め、全体的に真っ黒に塗り潰したような狂気が渦巻く。同時にリリースされた「さびしくない」も狂気性が隠しきれなくなったようなカネコアヤノのオルタナの神髄。

7. サニーデイ・サービス 「Pure Green」

1年以上に渡って日本全国を回った「DOKI DOKI」ツアーを大盛況で終え、更にバンドとしてのパワーを増したサニーデイの新曲は爽やかに突き抜けるようなロックンロール!キャリアのこの地点で過去最高級にキャッチーなポップソングを出せるのも今のバンドの調子の良さが窺えるようで嬉しい。今のサニーデイは間違いなく日本で一番アツいバンド。4月に出たライブ盤も5月にGROOVETUBE FESで見たライブも凄まじい熱量で最高でした。

8. スカート 「波のない夏 feat. adieu」

これは本当によく聴きました。名曲しか出さない生粋のポップメーカーとして定評のあるスカートの新曲。「ひみつ」などの時みたいな焦燥感のあるバンドサウンドにadieuこと上白石萌歌とのツインボーカル、と完全に反則技状態。夏の暑さと爽やかな風が吹いてくるような感覚に襲われてどうしようもない感情になる。同時期にリリースされた「君はきっとずっと知らない」も軽やかなメロディが気持ち良い名曲です。

9. 初星学園, 篠澤広 「光景」

アプリゲーム「学園アイドルマスター」に登場する篠澤広のキャラクターソング。作詞作曲は今夏リリースの新作も期待されている長谷川白紙。彼の持ち味である怪物的なビートをメロディックな曲調に掛け合わせて、更に管弦の編曲はHiatus Kaiyoteなどの作品にも参加したArthur Velocaiという豪華っぷりとのこと。月ノ美兎「光る地図」、花譜「蕾に雷」など、彼が女性シンガーに楽曲提供する時のクオリティは間違いないです。

10. Homecomings 「Moon Shaped」

Homecomingsの新曲はバンドを卒業した石田成美(Dr)との最後の楽曲。繊細に寄り添ってくれるようなメロディ、一音一音丁寧に紡いでいくようなサウンド、そのどれにもインディポップバンドとしてのセンスと気品があるしそれが優しさで溢れている。メンバーの卒業は勿論悲しいけれど、バンドもファンも暖かく送り出して前に進む姿勢を見せていて、そんなところまで愛おしいバンドだなと思う。



ということで上半期の振り返りはこんな感じでした。Vampire WeekendやZAZEN BOYSなど長年待ち望んだ新作が期待をはるかに上回る最高のクオリティを見せてくれたり、若手の才能あるミュージシャンの傑作が聴けたりと盛りだくさんの半年間でしたね。今回ランクインしなかった作品の中にも、Liam GallagherとJohn Squireのコラボ作やThe Last Dinner Partyなど注目作が多く話題に事欠きませんでした。下半期にもJamie xxやBUMP OF CHICKEN、長谷川白紙など注目のリリースが数多くあるのでとても楽しみです。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

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