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わが家のネコの名前

これまでに何匹かのネコがわが家を出入りしました。性格は皆それぞれでしたが、いずれも他には替え難い家族のようなもので(した)す。ただそうした身近さも手伝ってか、その名前は、最初としばらく後とでは、結局違ったものになってしまうのでした。

あるネコは幼い子供が命名しました。いかにも子供が付けた風の、愛らしい名前でした。ですがそこに、大人の戯れが忍び寄ります。その名を聞くや、その頭文字だけを取って、「そうか、〇ノ字か」と。
実際のところ、そうしたやりとりが決定的な役割を果たしたものか、今となっては定かではないのですが、そのネコは後に「〇ノ」と呼ばれるようになり、そのままそれが名前として定着しました。

またあるネコは、一体誰が言い出したのか、当初は恐れ多くもプリンセスを意味する和名をその名として頂きました。ですがこちらは、第三者の前でその名を口にすることが躊躇われたからか、他に何か別の理由があったからなのか、いつした姉妹の一方を意味する名前にすり替わっていました。

また別のネコには当初、遠い昔の、良く知られた女性の幼名が、名前として授けられました。おそらくはその名に含まれた文字の指し示す色と、そのネコの色が同じところから命名されたのだろうと思うのですが、気がつけばいつしか、その名はただただその色を音引きしたものに入れ替わっていました。家族の中には「〇色」と、そのものずばりの呼び名で通す者さえいました。

戸籍でもあれば、単なる愛称や呼び名が付いたという程度のことなのでしょうが、そんなもののないネコたちは、それがそのまま新しい名前となってしまったわけです。

とは言え、そんなネコたちにも、かつての名前を後生大事に留め置いてくれているものがありました。幼き頃にお世話になった動物病院の診察券とカルテです。

時を経て、改めてお世話になる機会があると、獣医さんが口にするのはもちろん最初の名前です。すると、どうにも昔の恥ずかしい出来事を暴かれでもしたかのような、恥ずかしさとバツの悪さ、加えて吹き出さずにはいられない衝動に駆られる(たも)のです。