マルチエージェントプロンプト:3つのデザインパターン
👇こちらのnoteに紹介されていた「マルチエージェントの代表的な3つのデザインパターン」に関する内容を記事にしてみました。
はじめに
近年、AIの分野で注目を集めている「マルチエージェントシステム」。複数のエージェントが協調してタスクを遂行することで、単一のエージェントでは実現困難な高度な問題解決を可能にします。本記事では、マルチエージェントシステムの代表的な3つのデザインパターンであるReflection(反映型協力)、Voting-based Cooperation(投票型協力)、Role-based Cooperation(役割分担型協力) について解説します。
Reflection(反映型協力): エージェントが生成した結果を、別のエージェントがレビュー・改善する、いわば「ディスカッション型」のアプローチです。主に、出力の精度向上が求められるタスクに適しています。
Voting-based Cooperation(投票型協力): 複数のエージェントが独立に答えを出し、多数決や評価指標で最適なものを選ぶ「合議制」のアプローチです。多様な意見を集約し、バランスの取れた結論を導き出すことが求められるタスクに適しています。
Role-based Cooperation(役割分担型協力): リーダー役のエージェントが、専門性を持つ複数のエージェントにタスクを割り振り・統括する「組織型」のアプローチです。複雑で大規模なタスクを効率的に遂行するのに適しています。
これらの仕組みや具体例、メリット・デメリットを詳しく説明し、さらに組み合わせによる活用方法(ハイブリッド型)にも触れていきます。
マルチエージェントプロンプトとは
マルチエージェントプロンプトとは、複数のエージェント(AI)が協力して、ユーザーの質問やタスクに対してより良い回答や成果を生成するためのプロンプト技術です。各エージェントは、それぞれ異なる役割や知識、アルゴリズムを持つことができ、それらを組み合わせることで、より高度で複雑なタスクへの対応が可能になります。
3つの主要なデザインパターン
マルチエージェントシステムには、主に以下の3つのデザインパターンが存在します。
Reflection(反映型協力)
Voting-based Cooperation(投票型協力)
Role-based Cooperation(役割分担型協力)
3つのタイプを比喩で表すと?
ここでは、各タイプをより理解しやすくするために、比喩を用いて表現してみます。
1. Reflection(反映型): 「ディスカッション的」
比喩: 何人かが交互にアイデアや文章を出しては「ここが変かも」「もっとこうしたら?」と突っ込んでいく “ゼミや議論のリハーサル”のようなイメージ。チームメンバーが順番にレビューを回し合い、「ちょっと違う、ここを改善」とフィードバックし続けるため、“ブレスト(ブレインストーミング)の進化版” とも言える。
特徴: フォーマルさよりも柔軟なやりとりが重視され、試行錯誤しながらアイデアを磨いていく過程がメイン。互いに「ツッコミ」や「追加アイデア」を出して、反復的に洗練していく。
2. Voting(投票型): 「合理的な合意形成」
比喩: それぞれが独自にアイデアや意見を用意し、最後に「投票」や「多数決」「合意形成」で“みんなが最も納得しやすい1つ”を選ぶ“委員会”や“評議会” に近い。選挙のようにいくつかの候補があり、最終的にもっとも支持率の高いものが「当選」する。
特徴: 一定のルール(投票やスコアリングなど)に従い、手続き的かつ客観的に「最善解」を探ろうとするアプローチ。理詰めや数的評価も重要視される。
3. Role-based(役割分担型): 「組織的」
比喩: 明確な「上司(リーダー、司令塔)」がいて、各部門(エージェント)が自分の専門分野を担当する“会社組織”や“オーケストラ” を思い浮かべるとわかりやすい。指揮者(リーダー)が全体を見渡し、専門家(プレイヤー)それぞれが自分のパートを演奏する(タスクを遂行する)。
特徴: 上意下達または管理者がタスク配分を行い、専門性を活かした分業で大規模・複雑な仕事を進める。プロジェクト管理や組織論の感覚が強い。
各タイプの仕組みや活用例
以下では、それぞれのデザインパターンについて詳しく見ていきましょう。
1. Reflection(反映型協力)
Reflection(反映型協力)は、まずメインエージェントがユーザーからの質問やタスクに対して初期回答を作成することから始まります。その後、Reflectionエージェントがその出力をレビューし、問題点や改善点を指摘します。このフィードバックを受けて、メインエージェントは出力を再度修正・生成し、この改善ループを繰り返すことで、最終的な出力の品質を高めていきます。
活用例:この方式は、文章生成の推敲に特に効果的です。たとえば、メインエージェントが書いた文章をReflectionエージェントが校正し、文法的、論理的な不備を指摘して修正を重ねることで、より完成度の高い文章を作成できます。
また、コードレビューにも活用でき、メインエージェントが作成した初稿のプログラムに対して、Reflectionエージェントがコードスタイルやバグの可能性をチェックします。さらに、研究論文の草稿チェックにも役立ち、下書きした論文の漏れやデータの不整合を検出してフィードバックを提供できます。
メリット:Reflection(反映型協力)の最大のメリットは、その高い品質向上効果にあります。自己評価に加えて外部エージェントからのフィードバックを反復することで、結果がより洗練され精緻化されます。また、Reflectionエージェントの視点を変えることで、文法チェックや論理チェックなど、様々な観点からのフィードバックを得られる柔軟性も魅力です。
デメリット:一方で、改善ループを繰り返すことで処理コストが増大するというデメリットも存在します。フィードバックループの回数が増えるほど計算資源が必要になるため、そのバランスを考慮する必要があります。また、Reflectionエージェントのレビュー精度が低いと改善効果が限定的になるため、フィードバックの質に依存してしまうという点も考慮が必要です。
2. Voting-based Cooperation(投票型協力)
Voting-based Cooperation(投票型協力)は、複数のエージェントが独立して回答を作成する仕組みです。各エージェントは、それぞれ異なるアルゴリズムや知識ベースを基に回答を生成します。そして、調整役のエージェント、または投票プロセスを通じて、各エージェントが提案した回答を比較・評価し、投票やスコアリングによって最も適切な解決策を選出します。
活用例:この方式は、意思決定システムに効果的です。例えば、企業や組織の意思決定において、コスト、リスク、ユーザー満足度など、複数の観点を持つエージェントが提案を行い、投票によって合意形成を図ります。また、映画や商品のレコメンドエンジンにも利用でき、異なるレコメンドアルゴリズムを並行運用することで、最も多くのアルゴリズムが支持するアイテムを提示できます。さらに、クイズやトリビアのような難問に対して、複数の知識モデルが個別に推論し、最も多くの支持を得た回答を採用するといった応用も可能です。
メリット:Voting-based Cooperation(投票型協力)のメリットは、まず多様な視点を確保できる点です。異なるアルゴリズムやパラメータ設定によって生成された多様な回答が集まるため、単一のエージェントによる回答よりもバランスが取れやすくなります。また、ロバスト性が向上する点も魅力です。あるエージェントが誤った回答を出力しても、他のエージェントの多数意見によって致命的な誤りを回避しやすくなります。
デメリット:一方で、エージェント間の投票や集約ロジックに手間や計算資源がかかるため、合意形成にコストがかかる点がデメリットとして挙げられます。また、エージェントのバイアスや訓練データの偏りが似通っている場合、投票による多様性の確保というメリットが薄れてしまう可能性も考慮が必要です。
3. Role-based Cooperation(役割分担型協力)
Role-based Cooperation(役割分担型協力)は、リーダーエージェントを中心に、他のエージェントが専門家、監査役、調整役といった固有の役割を持つシステムです。各エージェントは役割ごとにサブタスクを割り当てられ、最終的にリーダーエージェントがそれらの成果をまとめて統合します。
活用例:この方式は、大規模プロジェクト管理に非常に有効です。例えば、リーダーエージェントがスケジュールやリソースを管理し、各専門エージェントがソフトウェア設計、テスト、UI/UXなどを担当することで、複雑なプロジェクトを効率的に進めることができます。また、チャットボットの運用にも利用でき、ユーザー対応、内容チェック、トーン調整など、異なる役割のエージェントが連携して一つの返答を生成します。さらに、科学研究チームでも、数理モデル、実験デザイン、データ分析など、専門分野ごとのエージェントが共同で研究計画や論文執筆を行うことができます。
メリット:Role-based Cooperation(役割分担型協力)の最大のメリットは、各エージェントが専門性を最大限に発揮できることです。それぞれの得意領域に集中できるため、高度なタスクでも効率よく遂行することが可能になります。また、役割分担が明確なため、新しいエージェントの追加や交代が容易であり、システム全体の組織的なスケーラビリティが高いのも特徴です。
デメリット:一方、リーダーエージェントの管理能力や判断精度が低いと、システム全体のパフォーマンスが低下するリスクがあります。また、問題領域が複雑すぎると、役割をどのように切り分けるかという設計段階で高度な知識が求められるため、タスク分割が難しいという側面もあります。
タイプ別使い分け方針
ここでは、各デザインパターンがどのような場合に適しているか、判断指針を示します。
タスクの性質に基づいた選択フローチャート
[タスクの性質は?]
|
|-----> [単一の解があり、精度が最重要] ----> Reflection型
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|-----> [複数の解があり、多様な意見が必要] ----> Voting-based型
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|-----> [タスクが複雑で、専門的な役割分担が有効]
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|-----> [タスクをサブタスクに分割可能?]
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|-----> はい ----> Role-based型
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|-----> いいえ ----> 他のアプローチを検討
このように、タスクの性質、求められる成果物の特性、利用可能なリソースなどを考慮して、最適なデザインパターンを選択することが重要です。
各デザインパターンの詳細な設計アプローチと適用例
ここでは、各タイプ(Reflection、Voting-based、Role-based)について、「どのようにデザインし、どのようなケースで活用できるか」を具体例とともに示します。より現実のアプリケーションに近いイメージが湧くよう、それぞれのタイプでの典型的な設計アプローチと適用例を挙げます。
1. Reflection(反映型協力)の詳細設計
デザインアプローチ
明確なフィードバックループの設計:
メインエージェントが最初のアウトプットを生成し、Reflectionエージェントがそれを受け取り、「内容の妥当性チェック」「誤り箇所の指摘」「改善提案」を行います。
フィードバックを受けたメインエージェントが再度アウトプットを作成し、必要に応じてこのサイクルを繰り返します。
評価メトリクスとチェックリストの明確化:
Reflectionエージェントがどの基準で「評価・フィードバック」を行うかを設計段階で明確にします(文法チェック、事実性チェック、論理構成チェックなど)。
フィードバックを自動化するには、チェックリストやルールベース、あるいは大規模言語モデルによる回答評価基盤を事前に作成しておきます。
Iteration(反復回数)の設定:
何度繰り返すか、どのタイミングで打ち切るか(例:改善が見られない場合、一定回数に到達した場合)を決めておきます。
計算リソースや時間と品質のトレードオフを考慮します。
適用例
文章作成サポートツール: ライター向けのツールで、メインエージェントが文章を下書きし、Reflectionエージェントが「誤字脱字」「文意の不自然さ」「論点の不足」などを指摘。その後、ライターが最終チェックを行い、完成度の高い文章を得る。
技術文書のチェック(プログラミングや研究論文など): プログラミングコードを例にすると、まず生成したコードに対してReflectionエージェントが「この変数名が分かりにくい」「このAPI呼び出しは非推奨」などを指摘。指摘を反映した修正版が生成されることで、コードの品質が向上。
製品マニュアル作成: 新製品のマニュアル文章を生成した後、Reflectionエージェントが「手順の順番は実際の製品操作と合っているか」「安全上の注意が含まれているか」などをチェックし、修正点を提案。
2. Voting-based Cooperation(投票型協力)の詳細設計
デザインアプローチ
複数エージェントの独立性を確保:
各エージェントが異なるアルゴリズムや知識ベースを持ち、完全に独立して回答を生成する仕組みを設計します。
例:異なるLLM(大規模言語モデル)や異なるパラメータ設定、異なる専門領域(ニュース記事特化、科学論文特化)を利用する。
投票メカニズムの設計:
単純多数決、重みづけ多数決、最大支持率方式、ランク付け方式など、どのように「最適回答」を決定するかを決めます。
場合によっては、複数の候補を合議の上で「多数派意見+少数派意見のエッセンスを統合」する方法も考慮します。
意見の可視化と根拠提示:
それぞれのエージェントが「なぜその回答を導いたか」を説明可能にしておくと、投票後の合意形成がスムーズになります。
たとえば、各エージェントのスコアリング基準や推論過程を簡単に可視化できる仕組みを整備します。
適用例
複数のレコメンドアルゴリズムの併用: 映画や商品の推薦システムで、「協調フィルタリング」「コンテンツベース」「トレンド分析」など複数モデルを並行運用し、それぞれの推薦アイテムをリストアップ。最終的には投票により、もっとも多くのモデルが支持するアイテム、あるいはユーザー特性に合致したアイテムを優先表示する。
クイズ番組のAI回答: 3体のクイズAIが独自に問題を解き、各自の信頼度スコアを算出。調整役が回答を集約し、投票数や信頼度の平均値が最も高い回答を最終回答に選ぶ。
意思決定サポート(経営・政策): 経営戦略の候補を複数のエージェントが提案し、コスト分析・リスク分析・市場分析などの観点ごとにスコアリング。投票や合議で「最も総合得点が高い戦略」を選ぶ。必要に応じて少数派意見も検討し、最終決定を下す。
3. Role-based Cooperation(役割分担型協力)の詳細設計
デザインアプローチ
役割の洗い出しと権限・責務の定義:
プロジェクト管理者(リーダー)、専門家(領域ごと)、レビュアー、統合担当など、必要な役割を最初に明確にします。
それぞれのエージェントが「どのデータにアクセスし、どの範囲の判断を行うか」を定義します。
タスク分割とワークフロー構築:
タスクをサブタスクに分割し、担当エージェントがそれぞれ処理を行った後、次のエージェントにバトンを渡す形式で進めます。
リーダーエージェントは全体の進捗管理やタスクの再割り振りを行い、最終的に成果を統合します。
インターフェースとコミュニケーションプロトコル:
各エージェント間の情報共有を円滑にするため、メッセージ形式やAPI設計を慎重に行います。
役割ごとに出力フォーマットやインプット要件を揃えておくと、後工程での統合がスムーズになります。
適用例
ソフトウェア開発プロジェクト:
リーダーエージェント: タスク割り振り、進捗管理を行う。
設計エージェント: システムアーキテクチャの提案を行う。
実装エージェント: コードを生成し、ユニットテストも担当。
品質保証エージェント: テストのカバレッジやバグ検出を担当。
ドキュメントエージェント: マニュアルやリリースノートを作成。
これらが連携してプロダクトを完成させる。
学術研究チーム(マルチエージェント版):
研究リーダーエージェント: 研究テーマの立案・全体計画。
実験設計エージェント: 仮説検証のための実験プロトコルを組む。
データ分析エージェント: 実験結果やビッグデータを分析。
論文執筆エージェント: 分析結果をもとに、論文の草稿を作成。
レビューエージェント: 論文の構成や文献引用が正しいかをチェック。
一連の流れを自動・半自動で回すことで研究効率を高める。
複雑な問い合わせ対応システム(サポートセンター):
受け付けエージェント: 問い合わせのカテゴリーを判断し、それぞれの専門部門へ振り分け。
技術担当エージェント: 製品固有の技術情報に基づき問題解決案を作成。
顧客応対エージェント: 解決案をユーザーに分かりやすく説明し、やりとりを管理。
リーダー/管理エージェントが全体の問い合わせログを分析し、FAQ更新や担当分けの最適化を行う。
5つの汎用的なエージェントロール
ここでは、Reflection、Voting、Role-based の3タイプすべてに登場しうるエージェント機能を、「汎用的なエージェントロール」として抽象化・一般化します。
これは、マルチエージェントシステムの複雑さを理解しやすくし、応用範囲を広げ、柔軟なシステム設計を可能にするためです。
マルチエージェントシステムを構成するエージェントには、主に以下のような5つの抽象ロール(役割)が存在すると考えられます。単一のエージェントが複数ロールを兼任している場合もあります。
Creator(生成者): 与えられたタスク・入力をもとに、具体的なアウトプット(文章、回答、提案、コードなど)を生成します。
Evaluator(評価者): Creatorなどが作ったアウトプットに対して、批評・レビュー・スコアリング・改善提案を行います。
Aggregator(集約者): 複数のエージェント(特にCreator)が出力した案を収集・比較・統合し、最終的な単一の結論や成果物へまとめます。
Manager(管理者): 全体のタスク管理・役割分担・進行制御を行います。必要に応じてエージェント間のコミュニケーションやワークフローを調整し、最終成果物を確定します。
Specialist(専門家): 特定の領域や機能に深い知識・スキルをもち、その分野のサブタスクを専門的に遂行します。多くの場合、Specialist は「Creator」や「Evaluator」の役割を兼ねる形で機能します(専門知識に基づいて生成・評価を行う)。
各タイプを5つの汎用的なエージェントロールで表現
ここでは、Reflection、Voting、Role-based の各協力方式において、5つの汎用的なエージェントロールがどのように機能するかを整理します。
1. Reflection(反映型協力)
仕組みのおさらい
「出力を作るエージェント(Creator)」と、「それをレビュー・改善提案するエージェント(Evaluator)」が反復的に協力し合い、最終品質を高めていく方式。
ロールの配置
Creator: メインエージェントが該当。文章・コード・回答などを生成します。
Evaluator: Reflectionエージェントが該当。Creatorの出力を評価し、改善案を提示します。
Manager (任意): フィードバックループの制御を担います。
Aggregator (任意): 複数のEvaluatorのフィードバックを統合します。
Specialist: CreatorやEvaluatorが専門知識を持つ場合、その役割を兼ねます。
まとめ図
Creator (生成) ---> Evaluator (評価) ---> 改善案
↑ |
└------------- 反 復 ---------------┘
2. Voting-based Cooperation(投票型協力)
仕組みのおさらい
複数のエージェントが同じタスクに対して独立にアウトプットを作り、その中から投票・合議で最適解を選ぶ方式。
ロールの配置
Creator: Proposerエージェントが該当。複数のCreatorが並列で回答(案)を生成します。
Aggregator: Votingエージェントが該当。複数のCreatorの提案を収集し、投票やスコアリングによって最適解を導きます。
Evaluator (任意): 投票の前後に、出された案を検証・レビュー・採点する専任エージェントがいる場合もあります。
Manager (任意): Votingプロセスの進行管理を担います。
Specialist: Creatorエージェントの中に、特定の専門分野を扱うものがいる場合、その役割を兼ねます。
まとめ図
Creator(A) ----\
Creator(B) ----- ---> Aggregator (投票・集約) ---> 最終解
Creator(C) ----/
3. Role-based Cooperation(役割分担型協力)
仕組みのおさらい
リーダー(マネージャ)が全体を統括し、各分野のスペシャリストにサブタスクを分担。最終的にリーダーが成果を統合して完成させる方式。
ロールの配置
Manager: リーダーエージェントが該当。タスク分割・進捗管理・結果の統合などを担当します。
Specialist: 各専門エージェントが該当。リーダーが割り振るサブタスクを遂行し、CreatorやEvaluatorの機能を果たします。
Creator: Specialistが文章・コード・アイデアなどを具体的に作る場合は、そのSpecialistがCreatorロールも兼ねます。
Evaluator: Specialist同士が互いの成果物を評価したり、専用のReviewerエージェントが配置されたりする場合があります。
Aggregator (任意): 専門的に結果をまとめるエージェントが存在する場合、その役割を担います。
まとめ図(例)
(Manager / Leader)
/ | \
/ | \
(Specialist1) (Specialist2) (Specialist3)
| | |
(Creator/Evaluator) ... (Creator/Evaluator)
\ | /
\--------------+-------------/
統合結果をManagerが最終決定
汎用ロールの活用ポイント
すべてのマルチエージェントシステムは、基本的に Creator(生成)、Evaluator(評価)、Aggregator(集約)、Manager(管理)、Specialist(専門)のいずれか(もしくは複数)を担うエージェントによって構成できます。
ReflectionではCreator+Evaluatorのフィードバックループが中心。単一のアウトプットを段階的に改善していく構造。ManagerやAggregatorはオプションです。
VotingではCreator(複数)+Aggregatorが中心。独立に生成された複数案を投票や合議で一本化する構造。EvaluatorやManagerはオプションです。
Role-basedではManager+Specialistの組み合わせが中心。分業体制でタスクを効率よくこなし、最終成果をManagerが統合。SpecialistがCreator/Evaluatorを兼ねる形が多いです。
ハイブリッド構成: たとえば「Role-based + Reflection」のように、Specialistの成果物をEvaluatorがチェックして修正する仕組みを同時に導入するなど、実際のアプリケーションでは、1つのシステムに複数の協力パターンを組み合わせることが多いです。
3つのタイプを融合したら?
ここでは、ここまで説明してきた3つのデザインパターン(Reflection、Voting、Role-based)を、もし融合させた場合、どのようなシステムとなるかをイメージするために、比喩を用いて解説します。3つのパターンが組み合わさることで、単独では実現できない高度な協調体制が生まれる様子を、「大きな組織」を例に説明します。
喩えのイメージ:
組織的(Role-based): まず、大企業や大きなプロジェクトを連想。明確な役職・役割があり、プロジェクトマネージャー(リーダー)が全体を調整する。
ディスカッション的(Reflection): 各部署が作った企画書や成果物を、お互いにレビューし合う「クロスレビュー」や「相互チェック」文化が盛んで、どんどんブラッシュアップしていく。
合理的合意形成(Voting): しかし、最終的な重要意思決定は、いくつかの対立する案があれば「会議」や「評議」を経て多数決や合意形成できちんと一本化する。
具体的なたとえ:
大企業が、大事なプロジェクトで“ブレスト+評議会+専門部門”を総動員して成果を出すような構造。各チーム(役割分担型)が専門領域のプランを作り、互いにディスカッション(Reflection)で磨き上げ、最後は重役会(Voting)で案を決める、という“全社的総力戦” のイメージ。
あるいは、「オーケストラ(Role-based)+リハーサル(Reflection)+コンテストの審査委員会(Voting)」 というように、最初は指揮者と各楽器担当が役割を持ち、演奏を何度も稽古しながらブラッシュアップし(Reflection)、最終的には観客や審査員の投票(Voting)で勝敗が決まる…といった一連の流れを想像してもおもしろいかもしれません。
融合の良いところ:
組織的に動きつつも、意見を磨き(Reflection)合い、最終的には客観的な合議(Voting)で決めるため、柔軟さと合意形成の両立が図れる。
こうした比喩を組み合わせると、大規模プロジェクトの中でディスカッションと合議が充実しているイメージ、あるいは大きなオーケストラが練習と審査を繰り返しながら最終的に評価を受けるイメージなどがわかりやすいでしょう。
あるマルチエージェントアーキテクチャの例
以下は、ハヤシシュンスケさんのポストです。
この構成は、Role-based(役割分担型)に近いマルチエージェントアーキテクチャと言えるでしょう。まさに、知能システムの高度な縮図と言えるかもしれません。
それにしても… ヤバいですね(笑)
中央調整エージェント(全体を管理・最適化する立場)
知覚エージェント(外部からの入力を取り込み・リソースを割り当てたり状態を報告)
認知エージェント(知覚情報をもとにより高次の解釈や分析を行う)
意思決定エージェント(解析結果を踏まえて最適化や判断を行う)
実行エージェント(意思決定の結果を具体的な行動や出力につなげる)
フィードバックエージェント(実行結果や性能を評価し、改善提案を行う)
記憶エージェント(過去の経験や関連知識を蓄積・管理する)
各エージェントの役割
中央調整エージェント: 「リーダー」や「コーディネータ」に相当。他のエージェントの出力や状態を把握し、必要に応じてリソース配分・パラメータ調整・タスクの優先度付けなどを行う。システム全体が一番効率よく動くように「調整と最適化」を担っている。
知覚エージェント: 環境(外部)から入力を得て、システムとして必要な情報に変換。センサー的な役割、リソースの割り当て報告など、物理世界や外部データと直結する部分を処理。「行動計画」や「新規データ」という形で他エージェントに情報を渡し、「状態報告」を中央調整エージェントに送る。
認知エージェント: 知覚から受け取った情報をさらに高度に解釈し、分析した結果(解析結果)を意思決定エージェントに渡す。「認知負荷」「処理優先度」などの概念が出ていることから、どの情報をどう解釈し、どう重み付けするかといった認知的な処理を行っている。
意思決定エージェント: 認知エージェントの解析結果や、中央調整エージェントからの指示(決定基準やプロセス)を踏まえて、最適な行動方針を決める。「システム評価」「最適化情報」「記憶からの関連知識」など、さまざまな要素を考慮して最終的な判断を下す。
実行エージェント: 意思決定エージェントが定めた「行動計画」を実際に実行し、外部に向けて何らかの出力を行う。実行状況を知覚や中央調整にフィードバックし、さらに行動結果は「フィードバックエージェント」に送られる。
フィードバックエージェント: 実行結果や性能評価、学習情報などを集約して、改善提案を行う。Reflection(反映型協力)の要素を担っており、結果に応じた修正ループをシステムに差し込む役割を果たす。意思決定エージェントに「改善提案」を出し、認知や決定プロセスを更新することで次回以降の行動を賢くする。
記憶エージェント: 「過去の経験」「関連知識」「容量情報」などを保持し、ほかのエージェントへ必要なときに提供。経験を蓄積・再利用することで学習を可能にし、より高度な意思決定に寄与する。
このアーキテクチャの特徴
Role-basedと言える理由:
エージェントごとに担当が明確(知覚、認知、意思決定、実行、フィードバック、記憶など異なる機能を持ち、専門化されている)。
中央調整エージェントが全体を管理(各エージェントが出した情報や要求をまとめて、リソースや優先度を調整し、最適化を図っている)。これはRole-based型の「リーダー/コーディネータ」がいる形に近い。
タスクや情報が段階的に流れていく(入力→知覚→認知→意思決定→実行→フィードバック→(再び意思決定や認知へ)…というパイプラインが役割分担されており、典型的な役割ベースのワークフローになっている)。
複数のメカニズムの組み合わせ: Role-based(役割分担型)の骨格に、Reflection型(フィードバックエージェント)による出力改善のループも入っている。記憶エージェントが過去の経験を参照することで、場合によってはVoting型や高度な意思決定アルゴリズムとも併用できそう。
高度な知能アーキテクチャに近い: 「知覚→認知→意思決定→実行→フィードバック」という一連の流れは、ロボット工学やAIシステムでよく言われる知覚-認知-行動ループをかなり詳細化したもの。さらに記憶と中央調整を分けたことで、大規模かつ柔軟な拡張が可能な設計になっている。
中央調整エージェントの存在感が大きい: 全エージェントから情報を集約して最適化を行うため、ここが“頭脳”あるいは“司令塔”になりやすい。一方で依存度が高くなるため、ここの設計をどのように分散化するか・ボトルネックにしないかが重要になる。
この構成は、ロボティクスや大規模な自律型AIシステムに応用されることも多く、役割分担とフィードバックループの併用によって複雑なタスクを比較的スムーズに扱うことを狙っていると言えます。
3タイプを融合したマルチエージェントシステムの構築
ここでは、ハヤシシュンスケ氏のポストで示唆された役割分担型(Role-based)のアーキテクチャをベースにしつつ、Reflection(反映型)と Voting(投票型)の要素の組み合わせを検討してみます。本節では、それぞれの特性を活かしつつ、タスクや状況に応じて3つのタイプを動的に選択・適用することで、より柔軟かつ高度なシステムを構築することを目指します。
1. ベースとなる「Role-based(役割分担型)」アーキテクチャ
背景: Role-basedでは、リーダー(Manager/Coordinator)の下に、専門分野ごとのSpecialist(Creator/Evaluatorなど)エージェントが存在し、それぞれの役割を分担してタスクを効率的に遂行します。
基本構造:
中央調整エージェント(Manager/Coordinator): 各エージェントのタスク割り当てやリソース管理を担う。「司令塔」として、必要に応じてタスクの優先度や分担を見直し、進捗を把握する。
複数の専門エージェント(Specialist): たとえば「認知/分析担当」「実行担当」「知覚担当」「フィードバック担当」「記憶担当」など、機能に応じて分割。各エージェントがCreator(生成)やEvaluator(評価)の側面を兼ね、得意領域を担当する。
2. 融合の基本方針:動的なタイプ選択と組み合わせ
動的なタイプ選択: 各フェーズやタスクの特性に応じて、3つの協力タイプを動的に選択します。
大規模なタスクの管理: プロジェクトの初期段階や、大規模なタスクの管理では、役割分担が明確なRole-basedをベースに、タスク分割と進捗管理を行います。
品質向上が重要な局面: コードレビューや文書校正など、品質向上が求められる局面では、Reflection型のフィードバックループを適用します。
多様な意見を集約する必要がある局面: 重要な意思決定を行う局面では、複数の案を生成し、Voting型で合意形成を行います。
Reflection型とVoting型の組み合わせ: Role-basedなアーキテクチャをベースとしつつ、Reflection型とVoting型の要素を組み合わせて、より強力なシステム構築を目指します。
フィードバックループ: Reflection型を組み込むことで、各専門エージェントの成果物を評価し、改善点を指摘するフィードバックループを導入します。
合意形成プロセス: Voting型を組み込むことで、複数の専門エージェントがそれぞれ独立に提案を出し、その中から最適なものを投票で選ぶという合意形成のプロセスを導入します。
3. Reflection(反映型)要素を導入する方法
フィードバックエージェントの設置: 既にいる「評価担当」「改善提案担当」の専門エージェントを強化し、Reflectionループを回す中心的役割にする。たとえば「フィードバックエージェント」が各エージェントの成果物や実行結果を定期的にチェックし、問題点を指摘する。
ループ制御(反復回数や終了条件)の明確化: 中央調整エージェント(Manager)が、「フィードバック→修正→再評価」の反復を何度行うか、どのような基準で完了とするかを管理する。計算リソースや時間の制約に応じて回数上限を設けたり、一定の品質スコアに達したら打ち切るなどの条件を設ける。
専門エージェント同士のクロスレビュー: 1対1の「生成・評価」関係だけでなく、別のSpecialistが他エージェントの成果物をレビューすることで、より多角的なフィードバックを得られる。例:実行エージェントが作成した行動計画を、知覚エージェントが「本当に実行可能か?」の観点でレビューする。
4. Voting(投票型)要素を導入する方法
意思決定局面での複数提案生成: 普段はリーダー(Manager)が「このタスクは専門Aに任せる」という一極構造をとっていても、重要な決定や戦略的方針などの局面だけは、複数のSpecialistに「案を出させる」。例:マーケティング戦略・アルゴリズム選定・大きな投資判断など。
集約エージェント(Aggregator/Votingエージェント)の設定: 投票・評価基準を明文化し、Votingエージェント(あるいは中央調整エージェントが兼務)に集約機能を持たせる。各専門エージェントが出した案をスコア付けし、「最も支持の多い案」もしくは「バランスの良い案」を選ぶ。
統合後のフィードバック: 集約して得られた最終案を実行し、その結果が良くなかった場合、Reflectionエージェントのフィードバックを通して次の投票基準を調整する。こうすることで、Voting型の決定プロセスも動的に改善される。
5. 具体的な融合プラン:ソフトウェア設計プロジェクトの例
要件定義フェーズ:
中央調整エージェント(Manager): プロジェクト全体の目標、スケジュール、予算などを定義し、各専門エージェントにタスクを割り当てます。
要件定義専門エージェント(Specialist / Creator): ユーザーからの要望やビジネス要件を収集・分析し、機能要件と非機能要件を文書化します。
UI/UX専門エージェント(Specialist / Creator): 要件に基づき、ユーザーインターフェースのプロトタイプを設計します。
バックエンド専門エージェント(Specialist / Creator): 必要なデータ構造、API設計、データベース設計など、バックエンドの技術仕様を検討します。
Votingエージェント(Aggregator): 複数の設計案が出揃った段階で、各案を比較検討し、Votingで最適案を選定します。評価基準は、開発コスト、実現可能性、ユーザー満足度などを考慮します。
設計フェーズ:
中央調整エージェント(Manager): 選定された設計案に基づき、各専門エージェントに具体的なタスクを割り当てます。進捗状況をモニタリングし、必要に応じてタスクの再分配を行います。
UI/UX専門エージェント(Specialist / Creator): 詳細なUI/UXデザインを作成し、モックアップやプロトタイプを作成します。
バックエンド専門エージェント(Specialist / Creator): データベース、API、ロジックなど、バックエンドシステムの詳細設計を行います。
セキュリティ専門エージェント(Specialist / Evaluator): セキュリティ要件を定義し、設計内容にセキュリティ上の脆弱性がないかレビューします。
テスト専門エージェント(Specialist / Evaluator): テスト計画を作成し、テストケースを設計します。
フィードバックエージェント(Evaluator): 各設計成果物(UI/UX設計書、バックエンド設計書)をレビューし、改善点を指摘します。Reflectionループを回し、設計の品質を向上させます。
実装フェーズ:
中央調整エージェント(Manager): 実装スケジュールを管理し、各実装エージェントの進捗をモニタリングします。
フロントエンド実装エージェント(Specialist / Creator): UI/UX設計に基づき、HTML、CSS、JavaScriptなどのフロントエンドコードを実装します。
バックエンド実装エージェント(Specialist / Creator): バックエンド設計に基づき、API、データベース、ロジックなどのバックエンドコードを実装します。
テスト専門エージェント(Specialist / Evaluator): 設計フェーズで定義したテストケースに基づき、ユニットテストと結合テストを実施します。
フィードバックエージェント(Evaluator): コードの品質、パフォーマンス、セキュリティなどを評価し、改善点を指摘します。Reflectionループを回し、コードの品質を向上させます。
総合テスト & デプロイ:
中央調整エージェント(Manager): 各専門エージェントの成果物を統合し、システム全体のテスト計画を立案・実行します。
テスト専門エージェント(Specialist / Evaluator): システム全体の結合テスト、パフォーマンステスト、セキュリティテストなどを実施します。
セキュリティ専門エージェント(Specialist / Evaluator): 脆弱性診断ツールなどを用い、システム全体のセキュリティ評価を行います。
Votingエージェント(Aggregator):複数案(リリース候補)を評価し、Votingで最適なリリース候補を選定します。リリース基準(品質、パフォーマンス、セキュリティ)を元にスコアを算出します。
デプロイエージェント(Specialist/Creator): 選定されたリリース候補を本番環境にデプロイします。
運用・学習フェーズ:
中央調整エージェント(Manager): システムの運用状況を監視し、パフォーマンス低下、エラーなどの異常を検知します。
運用エージェント(Specialist / Creator): システムの稼働状況を監視し、ログを収集・分析します。
フィードバックエージェント(Evaluator): 運用ログやユーザーからのフィードバックに基づき、システムの改善点を見つけ出し、次のバージョンアップに反映させます。
記憶エージェント(Specialist): 過去の運用データ、エラーログ、テスト結果などを蓄積し、システム全体の学習を促進します。
6. 3タイプ融合による全体像のイメージ
ここでは、より具体的なソフトウェア開発プロジェクトを例に、3つの協力タイプがどのように連携し、システム全体として機能するかを説明します。
図解
[中央調整(Manager)]
| (全体管理・タイプ選択)
v
+-----------------------+ +-----------------------+ +-----------------------+
| 要件定義フェーズ | | 設計フェーズ | |実装・テストフェーズ |
| (Role-based + Voting) | | (Role-based + Reflection) | | (Role-based + Reflection) |
+-----------------------+ +-----------------------+ +-----------------------+
| | |
| +----------+ | +----------+ | +----------+
| | Specialist| -------> | |Specialist| -------> | |Specialist|
| | (Creator) | (案) | | | (Creator) | (案) | | (Creator) |
| +----------+ | +----------+ | +----------+
| | | | | | |
| +-------------------+ | +-------------------+ | +-------------------+
| | Voting (集約) | | | Reflection(評価) | | Reflection (評価) |
| +-------------------+ | +-------------------+ | +-------------------+
| | (採択案) | | (改善案) | | (改善案)
v v | v v | v v |
+-----------------------+ +-----------------------+ +-----------------------+
| 実行フェーズ | | デプロイフェーズ | | 運用・学習フェーズ |
| (Role-based) | | (Role-based + Voting) | | (Role-based + Reflection) |
+-----------------------+ +-----------------------+ +-----------------------+
| | |
v v v
(成果物) (リリース判断) (学習結果)
| | |
+---------------------------------------------------------------------+
|
v
[記憶エージェント]
(学習・最適化)
説明
フェーズに応じた協力タイプの動的選択:
要件定義フェーズ: Role-basedを基本としつつ、設計案の選定にはVoting型を導入します。複数の専門エージェントが独立に設計案を提案し、投票で最適な案を選出します。
設計フェーズ: Role-basedを基本としつつ、Reflection型を導入します。各専門エージェントが設計した成果物を、フィードバックエージェントがレビューし、改善点を指摘します。
実装・テストフェーズ: Role-basedを基本としつつ、Reflection型を導入します。実装されたコードをフィードバックエージェントがレビューし、テスト専門エージェントがテストケースを設計・実行します。
デプロイフェーズ: Role-basedを基本としつつ、リリース可否の判断にはVoting型を導入します。複数案を評価し、Votingにより最適なリリース候補を選定します。
運用・学習フェーズ: Role-basedを基本としつつ、Reflection型を導入します。システムの稼働状況を監視し、ユーザーからのフィードバックを収集して、システムを継続的に改善します。
各フェーズにおけるエージェントの連携:
Specialistエージェント: 各フェーズにおいて、専門知識を活かしてタスクを実行します。
Votingエージェント: 要件定義やデプロイフェーズで、複数案から最適案を選出するために投票を行います。
Reflectionエージェント : 設計や実装フェーズで、各成果物をレビューし、改善提案を行います。
中央調整エージェント: 各フェーズ全体の進捗を管理し、必要に応じてタスクの再分配を行います。
記憶エージェントの役割:
各フェーズで得られたデータ、テスト結果、エラーログ、ユーザーフィードバックなどを記憶し、システム全体の学習を促進します。
図のポイント
フェーズ: ソフトウェア開発の各フェーズ(要件定義、設計、実装、テスト、デプロイ、運用)を明示し、各フェーズで適用される協力タイプを示しています。
エージェントの役割: Specialistエージェント、Votingエージェント、Reflectionエージェント、中央調整エージェントの役割を明示しています。
データの流れ: 各エージェント間のデータ連携と、中央調整エージェントによる全体管理の流れを視覚的に表現しています。
記憶エージェント: 全フェーズで得られたデータが記憶され、学習に繋がっていることを示しています。
記事全体のまとめ
マルチエージェントプロンプトは、AIの未来を切り拓く鍵となる強力な技術であり、複数のエージェントが協調することで、単独のエージェントでは実現困難な複雑なタスクを遂行できます。
本記事では、その中でも特に重要な以下の3つのデザインパターンについて解説しました。
Reflection(反映型協力): 「議論と推敲」を重視するアプローチで、エージェントが出力した結果を別のエージェントがフィードバックし、改善を繰り返すことで、文章やコードの品質を飛躍的に向上させます。
Voting-based Cooperation(投票型協力): 「多様性と合意形成」を重視するアプローチで、複数のエージェントが独立に回答を生成し、投票やスコアリングによって最善策を選びます。これにより、多角的な視点を取り入れ、バランスの取れた結論を導き出します。
Role-based Cooperation(役割分担型協力): 「組織的な分業と専門性」を重視するアプローチで、リーダーエージェントを中心に、各エージェントが専門的な役割を担い、タスクを分担して遂行します。大規模プロジェクトや複雑なタスクを効率的に処理するのに最適です。
これらの3つのデザインパターンは、単独で用いるだけでなく、Role-basedアーキテクチャを基盤とし、Reflection型による品質向上、Voting型による合意形成を組み合わせることで、より強力なマルチエージェントシステムを構築できます。
マルチエージェントシステムを設計する際には、以下の点を考慮することが重要です。
タスクの性質: 単一の答えを求めるのか、多様な意見が必要か、タスクは分割可能かなど、タスクの特性に合わせて最適なデザインパターンを選択します。例えば、文章の推敲にはReflection型、意思決定にはVoting型、プロジェクト管理にはRole-based型が適しています。
エージェントの能力: 各エージェントの専門知識、処理能力、利用可能なリソースを考慮し、適切な役割分担や協調方法を設計します。例えば、特定の分野に特化した知識を持つエージェントにはSpecialistの役割を、複数の意見をまとめることができるエージェントにはAggregatorの役割を割り当てます。
開発リソース: 開発時間、コスト、利用可能な技術スタックなどの制約を考慮して、実現可能なシステム構成を選択します。例えば、開発リソースが限られている場合は、Reflection型のように比較的シンプルに構築できるパターンから始めるのも良いでしょう。
本記事では、マルチエージェントプロンプトの3つの主要なデザインパターンについて、詳細な仕組み、活用例、メリット・デメリット、設計アプローチ、適用例、そして汎用的なエージェントロール(Creator, Evaluator, Aggregator, Manager, Specialist)の考え方などを解説しました。
マルチエージェントシステムは、AIの可能性を大きく広げる技術であり、今後ますます重要性が増していくと考えられます。本記事が、マルチエージェントシステムへの理解を深め、効果的なシステム設計の一助となれば幸いです。