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ポツンとパン屋さん〜繁栄の方則②

前回の記事では、第一のポツンとパン屋繁栄の法則「県外から集客」をご紹介したが、今回は第二の法則をご紹介する。今回は、最初に結論からお話したいと思う。第二のポツンとパン屋成功の法則、それは「販路を増やす」、つまり外販である。

第一の法則に続き、第二の法則もシンプルで当たり前のように思われるかもしれないが、筆者が500店舗以上のパン屋さんを回った中で、外販を行っているのは全体の2〜3割程度のパン屋さんで、外販に注力しているところは全体の1割にも満たないような感覚である。外販と言っても、近くの飲食店やスーパーで少し卸していますというぐらいがほとんどだ。やはりパン屋さんとしては、お店に来て買って食べて欲しいというのが、世の中一般的な考えである。

しかし、繁栄するポツンとパン屋さんとなると、様々な方法で、店頭以外の売上を作っている。その方法をグルーピングすると、以下の4つに分けられる。

①地域の飲食店・小売店に卸す
②地域の有名・高級レストランに卸す
③全国に卸す
④全国の一般消費者に販売する

個人事業主や法人に対してまとめて販売することを「卸す」と表現している。どれか1つに注力するパン屋さんもいれば、全て満遍なく取り組むパン屋さんもいる。以降、筆者が出会ったポツンとパン屋さんをご紹介しながら、解説していく。

①地域の飲食店・小売店に卸す

1つ目にご紹介するのは、広島県広島市に位置する「Cadona(カドナ)」だ。広島市と言っても、山を一つ超えた先の集落にあり、場所的には田舎のパン屋さんという感じである。都心から離れているにも関わらず、筆者が初めて訪れた際は、朝からお店の外まで行列ができていた。

一旦諦めて別日に訪れると、店頭にはほとんどパン無かったが、壁側に取り置きと思われるパンがずらっと並んでいる。シェフに聞いてみると、広島県内の飲食店に卸しているとのことであった。そこで食べたお客さんが、お店の方まで寄ってくれることも度々あると言う。

シェフがおっしゃるように、地域の飲食店に卸を行うメリットとして宣伝効果もあるが、やはり1番のメリットは継続性である。例えば、朝食に使われるパン、食事の付け合わせのパンとして使ってもらえると、飲食店としては毎日必要になってくる。しかも、ある程度まとまった量である。ある程度の量が継続的に発注があれば、パン屋さんとしてはベースの売上を確保でき、日々の経営を安定させることができるというわけだ。

ちなみにカドナの中原シェフは2000年代に入ってすぐの頃、一時代を築いた大阪の名店「Boulangerie Takeuchi(ブランジュリタケウチ)」のご出身である。当時ブランジュタケウチには、連日1000人が行列を作り、1日の売上は100万円を超えていたと言われている。そして、師匠であったオーナーの竹内シェフもまた、ブランジュタケウチを閉店後、都心を離れ、兵庫県西宮市北部の山間に移り、「生瀬ヒュッテ」を営業されている。

②地域の有名・高級レストランに卸す

全国のパン屋さんをまわって気づいたのが、地域ごとにミシュラン星付きレベルの高級レストランに卸すパン屋さんの存在である。レストラン側もパン屋さん側も、どこのパン屋さんから仕入れている・どこのレストランに卸していると、公表されているところが少ないため、ここで書きづらいのだが、公開されていないレストランは店名を伏せて、パン屋さん中心をご紹介する。

まずは、石川県野々市市に位置する「NiOR (ニオール)」。野々市市は県庁所在地である金沢市の隣であるため、田舎というわけでは無い。ただ、半径1km以内に駅もバス停も無いので、車が無ければ少々不便なところである。立地としては、住宅街なのだが、そんなところに似合わないと言ったら失礼だが、突如オシャレな建物が現れる。そして、外観だけで無く、売られているパンも雑貨も全てがオシャレでハイセンス溢れる、個性豊かなパン屋さんだ。新商品やコラボ商品の情報はインスタグラムで随時発信されており、これまた発想力とクリエイティビティーが非常に面白い。

店頭ではハイセンスなパンが売られている一方で、卸に使われているのは、シンプルな食事パンである。それが石川県内のミシュラン星付きレストランに卸されるのだ。2021年5月に「ミシュランガイド北陸 2021 特別版」が発表され、石川県を含む北陸のレストラン産業は盛り上がりを見せており、ミシュラン星付き以外でも、雰囲気が良い美味しいカフェ、レストランはたくさん出てきている。ニオールのパンの卸先は、自店舗同様にオシャレでハイセンスなカフェ、レストランが多い。

もう一つは京都大山崎にある「CINQ pain(サンクパン)」。ニオール同様、駅から少し離れているのだが、これまたオシャレなお店である。サンクパンは、MBS毎日放送のテレビ番組「京都知新」のブログで卸先についての記事が公開されていたので引用して紹介する。

関西の料理人の間では、「CINQのパンをレストランで出せばミシュランの星が取れる」と囁かれています(笑)。実際、フレンチレストラン「Restaurant MOTOÏ(モトイ)」「レーヌデプレ」、イタリアンレストラン「リストランテ キメラ」、スペイン料理「aca 1°(アカ)」など、確かな味を提供するお店がCINQのパンを愛用されています。

京都知新

2019年の記事なので、現在も仕入れられているか定かでは無いが、数々のミシュラン星付き店に受け入れられていたことは間違い無いだろう。やはり卸先が評価の高い人気レストランであると、先ほども述べた継続性という観点から、パン屋さんにとって経営が安定する。今や飲食店は開業から2年以内に50%が廃業してしまう時代である。また、評価の高い人気レストランに卸しているということが、ブランディングにも繋がるというメリットもあるだろう。

サンクパン宮本シェフの修行先は、大阪の大人気店「Le Sucre-Coeur(ル・シュクレ・クール)」である。ル・シュクレ・クールもまた、数々のミシュラン星付き店にパンを卸している。お店の公式Webサイトによると、ミシュラン三つ星獲得の「HAJIME(ハジメ)」や、「agnel d’or(アニエルドール )」、「Alarde(アラルデ )」、「La Baie(ラ・ベ)」など数々の星付きレストランに卸されている。

今回ご紹介したパン屋さんの共通点を探ってみると、まず第一に規模は関係無い(小規模店舗でも可能)ということである。実際、カドナとサンクパンはご夫婦2人で運営されている。むしろ、小規模の方が、卸先の要望に柔軟に応えるなど、小回りのきく対応で優位かもしれない。特にミシュラン星付きレストランとなると、そのこだわりの強さは想像に難くない。

続いて第二は、考え方や思想が近しいところと繋がるということである。例えば、「自分だけにしかできない唯一無二のパンを作りたい」パン屋さんと「自分だけにしかできない唯一無二の料理を提供したい」というレストランが繋がりやすいということだ。付け加えて、それがどれぐらい本気かの温度感も大事である。

先ほどご紹介したル・シュクレ・クールのWebサイトにはこう書かれている。

お声は頂きますが、ビジネスとしての卸業はするつもりはありません。注文の量などでは無く、全ては人としての繋がりや情熱による信頼関係において、お取引させていただいてます。

ル・シュクレ・クール

考えてみると、至極当たり前のことかもしれない。継続性というメリットは、ビジネス的には収益が安定して良いかもしれないが、お互いの考え方や心の温度が合わないと長続きしないのだ。そんな簡単で都合の良い話は世の中に無いのである。

最後に

「どうやって卸先を見つけるの?」という問いに答えて、本記事を締めたいと思うが、まず言えることは、待っているだけでは厳しいということだ。向こうから見つけてくれる、圧倒的な商品力があれば話は別だが、基本的にはこちらから考え方や思想を伝えていかなければならない。しかし、パン職人さんは、一般的にはコミュニケーション(伝える力)より、クリエイティブ(ものづくり)が得意である。地域には、シェフのコミュニティがあって、そこから繋がりを作って取引に繋がるケースをよく聞くが、そういうコミュニティに入ることが難しい人も多い。そこで、コミュニケーションが好きで得意な人を仲間に入れて解決するという方法がある。それも難しいとなると…卸にこだわらず、別の方法でお店を繁栄させる方法もある。繁栄させなくて良いじゃんという考え方もある(笑)。筆者としては、規模問わず新しいことや難しいことに挑戦するパン屋さんを応援して行きたいので、引き続き記事を書いて行きたい。

③、④は次回に。

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