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肝っ玉カァさんに変身した、ブラジル移住花嫁
人間は環境の生き物
目次は日本の「禅」の思想を世界に広げた、鈴木大拙の言葉です。人は絶えず自己の生命に適った環境をつくり、そこからまた成長する、と説いています。
私はブラジル移住した花嫁を、定点観測したことで、この言葉を何度も反芻しています。私がブラジル移住したころは、単身移住した青年のもとへ、写真だけのお見合いで、1万2千kmも離れたブラジルへ嫁ぐ「花嫁移民」が話題になっていました。
同船者の中にも一人いました。東京育ちで商社勤めをしていましたが、海外移住の夢が捨てきれず、一面識もない青年のもとへ嫁ぐため、移民船🚢の人になったのです。
花嫁移民なかには、50日間に及ぶ航海で、同じ船の青年と恋に堕ちたり、情緒不安定から海に飛び込んだ女性もいました。
サントス港に出迎えた花婿は、錆びた鉄のような肌を、くたびれた衣服にくるんだ、貧しいたたずまいで、花嫁の失望した表情が心に残りました。
真っ赤なマニュキュア
私は就農契約した農園には行かず、サントス港から逃亡して、南米大陸を放浪していましたが、同船者の花嫁のその後が気がかりで、彼女が住むサンパウロ州奥地の開拓地をたずねました。
サントス港で別れてから1年が経っていました。新婚の住まいは、雨風を防ぐだけの掘立て小屋で、ガス、電気、水道などのインフラは皆無で、弥生時代に回帰したような生活環境です。
「サンバやカーニバルなど、ブラジルでは、もっと楽しい暮らしを想像していたのに、原始人に戻ったような暮らしには耐えられない」
さめざめと泣く新婦を小屋に残して、ご主人は一人で農作業に勤しんでいました。私の目に、涙をぬぐう彼女の指の、真っ赤なマニュキュアが飛び込んできました。彼女の不安定な精神を映しているようで、ショックを受けました。
自殺するのでは、という不吉な思いが頭をかすめましたが、慰めと励ましの言葉を尽くすしか、方法がありませんでした。
それから一年後の豹変
それから一年後に、再び彼女を訪ねました。肥料袋を作業着にリフォームした粗衣をまとい、真っ黒に日焼けした彼女が、切り拓いたばかりの畑で迎えてくれました。
西部劇さながらに、たくましい開拓農民に変貌した彼女の姿に安堵したそのときです! 体長2㍍もある大トカゲが現れたのです。
1年前なら、キヤーと叫んだ彼女が、「肉だぁ!」と嬌声をあげ傍らの手斧を掴んで、トカゲに向かって走り出したのです。
その夜は彼女が仕留めた、大トカゲの手料理でもてなしてくれました。ニワトリのササミに似た食感でした。
その後は、野球チームができるほどの子宝にも恵まれ、蔬菜農家として成功しました。
コロナ禍のいま、仕事や生活環境が激変した人が少なくありません。変化は成長の起爆剤になります。「脱皮しない蛇は死ぬ」のです。
最後に鈴木大拙の警句を続けます。
ー 環境の堕落は、そこに住む人間各自の罪責であり、捨てておけば人間は、自らつくり来たった環境の中に、ますます自己を堕落させ、子孫を滅亡させる ー
※写真は金沢の鈴木大拙館です。
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