
フレームワーク大全:3C分析
世の中にはフレームワークが溢れています。歴史の古いものから最近現れたものまで、ありとあらゆることがフレームワーク化されているように感じます。こうして氾濫するフレームワークのことを陳腐だと言ってバカにする人もいます。けれどもこう思うんです。有用だからこそ残ってきたし、新しく生まれもするが、たくさん使われるからこそ陳腐にもなってしまうのだと。
フレームワークは、「枠組み」や「思考の型」とも言われ、何を考えるべきなのか具体的になり、どんなことがポイントとして大事なのかが見えてくるツールです。あくまでもツールなので、何か目的があって使うということになります。つまり「ドリルを売るなら穴を売れ」ということです。穴を開ける目的でドリルを使うということと同じで、何かを明らかにしたいが故にフレームワークを使うということです。
これまで多くのフレームワークに関する本や情報に接してきましたが、「どんな時にどう使うか」といった方法の説明に主眼が置かれ、「なぜそれを使うのか」については大まかなことしか書かれていない場合が多いように感じます。なんとなく分かったような分からないようなといった感じになってしまいます。
自分自身の理解を深める意味でも、代表的なフレームワークについてまとめてみたいと思います。自分がコンサルティングの相談を受けたときに整理していきます。
まず、最初に取り上げるフレームワークは「3C分析」です。
3Cは「自社:Company」「競合:Competitor」「顧客:Customer」の頭文字の「C」から名付けられています。これはマッキンゼー・アンド・カンパニーにいらした大前研一さんが提唱したものです。
大前さんの著書「ストラテジックマインド 変革期の企業戦略論(1984年刊)」の中で次のように述べています。
およそいかなる経営戦略の立案にあたっても、三者の主たるプレーヤーを考慮に入れなければならない。すなわち、当の企業(Corporation)、顧客(Customer)、競合相手(Competitor)の三者である。
この ”戦略的3C” は、それぞれ自らの利害と目的を持つ、生きた存在である。三者を一括して、われわれは ”戦略的三角関係” と呼ぶことにしよう。
さらに戦略の定義として次のように記しています。
自社、顧客、競合相手という三つの主要なゲーム・プレイヤーを用いて ”戦略” を定義すれば、「戦略とは、自社の相対的な企業力を用いて顧客のニーズをより満足させ、競合相手との差を最大化すべく努めること」ということになるだろう。
この3C分析は、1984年の発表以来、今日まで長きにわたって、経営戦略やマーケティング戦略での定番のフレームワークとして数多く取り上げられてきました。それは、商売の基本がシンプルかつ過不足なく示されているからだと思います。
商売は簡単に言ってしまうと「売る人がいて、買う人がいる」「両者は等価交換する」というのが基本です。そして、どんな商売にも売る人はたくさんいて、買う人もたくさんいます。多くの人が参加して市場が形成されると、必然的に競争が起こります。売り手の競争相手を「競合(Competitor)」と言います。
競合よりも相対的に有利になることで顧客のニーズを満足させることを目指して企業活動を展開するという商売の実相を大きく捉えることができるフレームワークが3C分析なのです。

こうして捉えた商売の実相において、大前さんは戦略立案者の仕事を次のように示しています。
この ”戦略的三角形” のなかでの戦略立案者の仕事は、成功のカギ(KFS:Key Factor for Success)という点で競合相手を上回る手を考え出す、ということ以外にない。そしてまた、その戦略は、市場としてはっきり定義された顧客のニーズと自社の力を正しく釣り合わせることができるものでなければならない。
つまり、3C分析は勝ち筋(KFS)を見つけ出し、競合よりも相対的な優位をどうつくり出すか、状況の変化を捉えて新たな優位をどうつくり出すのかを考えるためのツールです。
では、それぞれの「C」について詳しくみてみましょう。
顧客:Customer
まず顧客を知ることからビジネスが始まります。次の項目について分析・整理していきます。
現在や将来の顧客は誰なのか
顧客のニーズは何なのか
何が購買の決め手になっているのか
その市場規模はどのくらいなのか
今後どのくらい成長するのか、または衰退するのか
競合:Competitor
次に競合他社です。どんな市場にも必ず競合は存在しています。基本的にレッドオーシャンですが、孫子の兵法にも「彼を知り己を知れば百戦殆からず」とあるように、競合を知ることが戦略を立てる上で重要です。
どこが競合なのか
その競合の強みと弱みは何なのか
市場シェア・チャネル・販売体制などどうなっているか
その競合は顧客からどう思われているか
新たな脅威はないか
自社:Company
最後に自社です。自社のことは自社がよく知っていると思われるかもしれませんが、人でも会社でも自らのことを一番見えないものです。あまりに近すぎて、あまりに当たり前すぎて見えなくなっていることはよくあります。だから顧客・市場や競合との関係で自社を捉えることが重要です。
何を目指して事業をやっているのか
(競合他社と比べて)自社の強みと弱みは何か
顧客の購買の決め手を持っているか
十分な資源や能力を持っているか
事業を進められる組織になっているか
顧客・競合・自社の順番で整理していくのですが、それぞれ調べる対象が狭すぎても広すぎても用をなしません。狭すぎれば現在の顧客に拘泥し、市場全体を見渡すことで得られるかもしれない機会を見逃してしまいますし、広すぎれば漫然としたものとなり焦点がぼやけてしまいます。
大前さんは、 ”戦略立案単位(SPU)” という概念を用いて、適切な大きさで設定することが重要だと説いています。 "戦略立案単位" とは、戦略を立て、それを実施するための効果的な事業単位のことで、次の条件を満たせるレベルにあるものが良いとしています。
(1) ニーズと目的の共通性によってグルーピングした主要顧客グループのすべてに、自由に語りかけることができること
(2) 顧客の目に映る自社が、競合他社とはっきり違う存在にするため、どんな機能的専門技術ないし知識の展開が必要になっても困らぬよう、自社のあらゆる重要機能に自由に接触できること
(3) 機会の到来に即応できるよう、つまり逆にいえば、競合他社に思いも寄らぬ経営力を発揮されて足元をすくわれぬよう、競合他社の重要な側面すべてに自由に対応できること
自社と顧客との関係、自社と競合との関係によって一定の領域を持つ事業ということがいえると思います。つまり、顧客の要求に一層よく対応し、競合を排除できる事業単位を設定するということになります。
それでは、顧客の要求に一層よく対応し、競合を排除するために何を起点に考えればいいのでしょうか。それは戦略立案者の仕事である「成功のカギ(Key Factor for Success)」を見出すことです。いわゆる ”勝ち筋” のことで、これが戦略の起点になるのです。
企業経営の場では、どんなときにも、種々多様な要因が存在し、それが結果を支配する。そして、これら要因を巧みに制御、ないし適用できれば、戦略も成功する、というわけだ。われわれは、これら要因を成功のためのカギとなるファクター・・・KFSと呼んできた。
そして、KFSの発見の方法として2つ挙げています。
第一は、可能な限り想像力を働かせて市場を分析し、カギとなるべきセグメントを確認すること。そして第二は、勝者となった会社と敗者となった会社との違いが何であるのかを知り、その差異を誇張して分析すること、この二つである。
いずれの方法も分析することでKFSに到達することが示されていますが、要素に分解するだけでは見えてこないのだと思います。大前さんは「発見」という言葉を使っていますが、分解した要素を再構築することで何らかの気づきを得ることなのだろうと思います。その気づきが戦略立案者に必要な資質なのではないでしょうか。
3つのC(顧客・競合・自社)が整理されて全体像が見えるようになり、その中からKFS(成功のカギ)を発見することで、何をどのようにして競合との相対的な優位性をつくるのかという戦略が生まれてくるという流れになるというものです。
いかがだったでしょうか。
私は、3C分析をはじめて知ったとき、あまりのシンプルさに拍子抜けしたように感じました。しかし、実際にこのフレームワークで事業を見てみると確かに勝ち筋というか、勝負の勘所みたいなものに気づかされることに、ハッとさせられました。今では、コンサルティングの起点に3C分析を置いています。
大前さんの「ストラテジックマインド 変革期の企業戦略論」は、戦略的思考とは何かに始まり、企業戦略をどう組み立てていくのかを示す良書です。ぜひ読んでみてください。