8年越しのプレゼント
実家に帰ったついでに、いらないものを捨てようと自室を整理していたら、引き出しからこんなものが出てきた。
ナンコレ????
いらっしゃい!!たこ焼きバスボールだよ~!!
よかった~!すぐに教えてくれたおかげで何かわかってよかった~~!!!
同時に「〇〇だよ~!!」って口調で商品の方から伝えてくることあるんだなって思った。
さて、これが何かわかったのはいいけど、問題はなぜこれが引き出しの中に眠っていたのかということ。
めちゃめちゃ記憶を遡ってわたしはついに突き止めた。たしかこれは大学生のとき、同じ学科で同じサークルだったピッコロからもらったやつだ。
ピッコロはイケメンなのにいつも体調が悪そうで顔が緑色だったので、出会ってからしばらくそう呼んでいた。
「友達の誕生日プレゼントを買うのにロフトに行ったら売ってて、絶対に買わないとあかんと思った」と言われて手渡されたのがこれ。なんで?なんでそんな強い意志でわたしにこれを買い与えたの?
ぜんぜん意味がわからなかったが、おもしろかったのではにかんで受け取った。しかしこういうのって受け取るまでがピークで、引き出しを開けるこの瞬間まで頭からスコンと抜け落ちていた。
こんなもん、やるしかないやろがい。そう思ったはいいものの、これを受け取ったのは大学生の頃だから、軽く8年以上は経過している。バスボールって使用期限とかあんの?くるくる回して確認してみたけど、それらしい記載はどこにもなかった。「いつか爆発します」とかも書いてなかったので、わたしの身の安全は確保されている。わくわくしながら実家を後にし、さっそく試してみることにした。
バスボールを開封する前に改めて商品を確認する。香りってけっこう重要よね。どんな香りかな~。
お祭り気分の香り
お祭り気分の香りかー!どんな香り???屋台から香る、ソースとかベビーカステラとかそんな感じのやつ?嫌だな、そんなお風呂にはすごく浸かりたくないなって心からそう思ったけれど、このご時世、お祭りが恋しいのも事実。ヨーヨーすくいやリンゴ飴、プールに冷たいお水を張ってキンキンに冷えたラムネ、戦隊もののお面が所狭しと並ぶお店、フランクフルトを高値で売りさばく声がガラガラのヤンキー、そんな楽しいお祭り気分を家で味わえるなんて最高じゃないか。目を瞑ると、そこはもうお祭り会場だった。オラわくわくしてきたぞ!
さらに商品をよく見ると、
な、な、なんと1等は金色に光るタコ!?伝説のゴールデンタコ出現!!!!!
わたしは神輿の上でねじり鉢巻きにはっぴ姿、うちわまで持って踊り狂った。開封前からこんなに楽しませてくれるバスボールある?ないはずの胸がバインバイン弾んだ。「めちゃんこ めちゃんこ めっちゃんこ」遠くの方でアラレちゃん音頭も聞こえる。間違いない。ここはお祭り会場だ。
いざ開封。
絶対に口に入れちゃいけないんだろうなっていうイラストがバーンと目に飛び込んできた。
「逆にここでこのバスボールを口に入れたらどうなるかな?」と、神輿に担ぎ煽られ、すっかりお祭り気分に飲まれ切ったもう一人のわたしが挑戦的な表情で耳打ちしてくる。アカンて。楽しみ方を圧倒的に間違ってしまっているから。
見た目がこんなんなので、念のため原材料を確認したけど、「小麦粉、だし顆粒、ソース、青のり」とかは書いていなくてひとまず安心した。自宅のお風呂が、たこ焼きの湯にならずに済みそうだ。効能なに?
開封してすぐに匂いを嗅いでみたが、はじめて嗅ぐ匂いだった。既製品ではじめて嗅ぐ匂いってまだあったんだ。華やかで爽やかでいい匂い。君の髪の香りはじけた浴衣姿ってもしかしてこれのこと?(わからない人はお家の人に聞いてね!)
「線香花火マッチをつけて色んなことは話したけれど好きだってことは言えなかった」
うん、わかるよ。一番大切なことって言えないよね。
Whiteberry(バスボール)を持って、意気揚々とお風呂場に向かう。プロが作る硬めの泥団子とちょうど同じくらいの大きさのそれを湯船に投入!!!
さあ!何が出るかな!!!?
10秒経過。
ショワアァァァァーーーーーーーーーて言ってる。わくわく!
30秒経過。
弱弱しくショワ…ショワショワ……っていってからついに何も起こらなくなった。もらってから8年。寝かしすぎたのかもしれない。そうだよな。8年前だったらわたしもまだ22歳。お祭り気分で騒いだってもしかしたらギリギリ許される年齢かもしれない。しかしあれから8年。今はどうだ。もう30歳じゃないか。立派な大人なんだ。「もう少し落ち着こうね。ほら、こんな風に…」。Whiteberryにそんな風に諭されているような気がした。「わかったよ。ありがとう。」そう返事をして、わたしは恐る恐る、彼女の亡骸を手のひらに乗せた。
ボルボックス???????
空になったたこ焼きのパッケージを見て思う。あなたの伝えたかった「お祭り気分」とはいったい何だったのか。お風呂場で、「ボルボックス?」って小さくつぶやくことになるなんて、いったい誰が想像しただろうか。湯船には、もう何も言わないWhiteberryのひとかけらが沈んでいた。
ここに今から浸かるの?ほんとに?せめて効能だけでも知りたいと、パッケージを一周させたが、お祭り気分の一本鎗がわたしをさらに不安にさせた。わたし、一体どうなっちゃうの~~~~~??????!!!(この後、湯を右腕でめちゃくちゃ攪拌した)
さて、忘れてはならないのが、このバスボールはくじ付きだということ。お湯の中でシュワシュワーーー……ポン!!!みたいにタコが浮き上がってくると思っていたけれど、うんともすんとも言わなくなったので、ボルボックスを指でかき分けるほかなかった。そして出て参ったのがこちら。
あれ!!!!!?????これ、もしかして…!!?
おまっ…!伝説のゴールデンタコやんけ!!!!!!
こんなミラクル起こるんや。こんなことなら、もらってすぐに実践して、すぐにピッコロに報告するんだった。そしたら彼の緑の顔色も、このゴールデンタコのように輝いたかもしれない。
8年越しのプレゼントを受け取ったような気がした。卒業してからほとんど連絡を取っていなかったが、報告を兼ねて連絡することにした。
ピッコロはこれをわたしに買い与えたことをまったく覚えていなかったので、状況を説明した後、結果報告をした。
ピッコロ。お前はあのときからずっと優しいな。「しょうもない報告ごめん!笑」と言うと、「ほっこりした!笑 またいいことあったら報告願います!」と気遣ってくれる優しさ。あなたにもきっといいことあるよ。
片付けをしてみると、ふと思いもよらないものに遭遇したりする。懐かしいものや、まったく身に覚えのないものまでたくさんでてきておもしろい。あまり外に出掛けられない今だからこそ、わたしたちが今持っているものに目を向けて楽しんでみるのもいいかもしれない。
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