「推し方」の価値観が変わる3本のタイドラマ

Sawadee .

昨夜好きなタイのサスペンスドラマを2周目し、完走してきた。このドラマは重ための話や死を扱う話が好きな人にはぜひ見てもらいたいのだが、なかなかブログ化されていないの書いちゃおうと思う。

さてここに飛んでくる皆さんは「推し」、つまり好きだったり応援してたりする芸能人やキャラクターなどがいることだろう。

特に日本の俳優ではあまり見かけないが、アイドルや声優の界隈ではもはや当たり前になってきたセット売りは、本人達の友好関係を度外視して色々な番組に2人1組で呼ばれたり、オタクの妄想の糧となるため必要以上にいちゃいちゃしていることからドラマの世界観の延長線上にあるような感覚に陥り、人気が出やすい。個人的にはあまり得意な売り方ではなく、次に挙げる3作品を観てより一層「もうそんなことしなくても大丈夫だよ…」と思うと同時にオタクは弁えろという思いが強くなった。

ま、とはいえオタクなのでふたりが仲良くしているところを見たらほっこりするのは変わらないので、フィクションとしてナマモノを推す人達に見てもらいたい。

●The Shipper

noteのタイトルからしてこの作品を連想する人も多いはず。
タイトルの「シッパー」とは、特定のふたり「ship」を推す人の事。なにやら色々説明してくれているので公式サイトもチェックしてもらえれば助かる。

先輩のキム(First/ファースト)とウェイ(Fluke/フルーク)をY(タイでBLのこと、日本のやおいから派生)目線で推す、女子高校生のパン(演:Prikin/プリッキン)とソーダ(Piploy/ピプローイ)。キムとウェイを見かけてはパソコンを取り出し、共有のドキュメントに同人小説を書き連ねて行く日々を過ごしていた。ある日ちょっとしたことがキッカケでキムとパンが一緒に帰ることになったのだが、そこで交通事故に逢い、目覚めると身体が入れ替わってて…推しの身体に入ったパンが「えぇぇ〜!?」と叫びたくなるような日々を過ごす中で、事故直前にキムから言われた「自分自身の愛」を探す。

正直ほぼコメディと言ってもいいくらいコミカルなラブコメ。始めはサクサクと展開が進み、そのテンポのまま気がつけばシリアスなシーンに突入している。若干構成的に『Sket Dance』や『彼方のアストラ』に似てるので篠原先生作品好きには結構たまらない。

本題に戻ると、推しとして生活していくうえで、これまで直接話すことなく傍から見て妄想を膨らませていたキムの姿と、実際のキムは別物だと理解するパン。それと同時に実際のキムとウェイの関係性や、自分が誰を好きなのか、そして自分は誰から愛されているのかに気づいていく。

少しネタバレになるが、(ネタバレが無理な人はシュッとここを飛ばしてください)



キムは身近な男性二人をくっつけてしまうほど強烈な妄想癖を持っているにも関わらず、「妄想を押し付けること、ましてや関係性に対する妄想は本人たちに失礼なんだ」と妄想を文章にすることから手を引くところが、どうしても多くのYドラマを生み出すGMMTVからのメッセージに思えて仕方がない。

私が好きな『2gether』からBrightとWinで例えると、SarawatとTineという役柄は付き合っているけど、彼らが誰とどういう付き合いをしているかなんてファンには絶対にわからない。ただ、一部のファンは本気で二人が付き合っていると思っているし、最近なんかは結婚しているなんて言われていて、『The Shipper』を完走した身からすると、あえて言葉を選ばない、ドン引きしている。

服をシェアしていること、時々WinくんがBrightくんのおうちに遊びに行ってること、家族ぐるみで交流があること、これらは彼らから発信された事実。ここに関して萌えるのは勝手だろう。だがここから妄想を膨らませて「同棲している」「つけている指輪(あるいは指輪に見えるもの)は結婚指輪だ」「結婚する日は近い」とか言うのは彼らの関係性から逸脱している気がする。他のシップのほうがもっと凄そうなのだが、こんな妄想するのをやめてください!と言うより、妄想と現実は違うよ、だから妄想したものを本人たちの目に入るところで書くのはやめてね、というGMMからのメッセージとしても捉えられる。



そんなこんなで、初めてハマったBL作品の出演者に抱いていた「仲良くあってくれ」と願う気持ちすら、この作品を観て控えようと思えるキッカケとなった。

●Lovely Writer

UNEXTで配信中の同作。BL小説でヒットした作家とその作品を実写化する俳優たちの物語で、一見時々見かける作家と編集とか、作家と俳優とかの恋愛物語と大差ないように思えてしまうのだが、最後まで見たらわかる、いい意味で思ってたのと違う。

出版社から依頼を受けて執筆したBL小説が大ヒットしたGene(Up/アップ)。勢いそのままにドラマ化が決定し、オーディションでアドリブを効かせて雰囲気を作り出したNubsib(Kao/カオ)が主役を務めることに。撮影中、なんやかんやあって(ネタバレしたくない)NubsibはGeneの家に長期で泊まることになり、共同生活をする中で……結末を言うと甘い関係になる話。

Yドラマの世界ではびこるゲイたちの要素も併せ持ちながら、「男性の」BL小説家であることから「お前もゲイなのか?」と嘲笑されたり、男性だからこそ「ただのセクハラでは?」という同人含め女性がついついやりがちな表現に疑問を持ったりと、空想世界のようで現実にリンクしている箇所が見られる同作。

以下ネタバレ含みます。



特にリアルなのが、タイでは当たり前に出てくるファンによる盗撮が原因で炎上すること、妄想を垂れ流すためのCPあるいはシッパー用ハッシュタグが出来上がること、ファンが番組に則ったBA派と、個人的に仲が良さそうに見えるBC派に分かれて喧嘩することなど、SNSに依る問題だ。

Lovely Writerの場合、AとB、つまりAeyとNubsibは仲が良くなく、ビジネス的に仲の良さをアピールしていた。このアピールは契約期間中ずっとしなければならず、相当なストレスだろうが、彼らは俳優だ。私達が日々騙されているように、平気な顔をしてファンに夢を見せている。

一方でBとC、つまりNubsibとGeneはリアルな恋人で、フリをしなくてもファンに怪しまれるくらい甘々の空気が漏れ出している。事実が明かされる日はこないが、こちらの場合ファンはリアルカップルを微笑ましく見守っているわけだ。

ここで自分の好きなCPに当てはめてみる。多くのシッパーは後者だと思い込みたいのだろうが、思い出してほしい、この作品は割と現実的なのだ。人に見られている間イチャイチャしている二人は、俳優魂を、プロ意識をファンに見せてくれているんじゃないか。相方を至近距離でガン見することで定評のある推し(Bright)も番組で「ファンが喜ぶから見てる」と漏らしていたし、常に演技されてるのだとしたら本当にカッコいいと私は思う。 

それと同時に、二人の交際がバレそうになって事務所から会うなと言われたり、会見で関係ありませんと言わされたり、果たしてそこまでして限定されなければいけないのかと同情してしまう。真実はわからないが顔面蒼白のままライブ配信していた推しとかぶってしまい心が痛い。



あなたが信じる相手以外に、推しが愛する人が居ることに問題アリと考える凝り固まった硬い頭を、この作品を通して少しでもほぐしてほしい。推しが悲しまないように。

●The Debut

ようやく冒頭のサスペンスドラマの話に辿り着いた。最初は『2gether』のアーンを演じたFilm(フィルム)ちゃんが初めてメインで出演するからとチェックしていたのだが、物語はFilmちゃん演じる現役アイドルのファーンが自殺するところからスタートする。推しが早々に死んでしまった。ちなみにWeTVで公式日本語字幕付きで見れる。

ファーンは新しく出来た日本風アイドルのNewtypeに憧れる少女。姉のフェム(Ploypailin/プロイ…?)に促されてオーディションへ。めっちゃかわなので、当たり前に合格し、しばらくするとメインメンバーに抜擢される。一方でメインメンバーからの酷いイジメを受け続け自殺。姉のフェムは真相を突き止めるため、ロックテイストの見た目から「ミュミュ」の偽名とともにアイドルに憧れる女性を演じ、Newtypeのオーディションに挑む。ちなみにお姉ちゃんもめちゃかわなので当然合格する。

私は完全にミュミュ推しになった。ミュミュの格好で過ごすフェムは少し服装が浮いているのに、ミュミュとして生活しているともう完全にアイドル、ギャップがたまらん。めっっちゃかわいい。

話がそれてしまったが、自殺の原因を突き詰めた終盤、ミュミュと視聴者の私達はアイドルが抱えるストレスや「アイドルのルールは何のためにあるのか」「たった1つのルールは何なのか」を理解していく。

ネタバレ〜〜



正直、序盤のいじめの証拠を得る動きから一転、マイナが入ってきてからは、メンバーのルール違反を暴くことがメインテーマになっており、フェムの彼氏のボンたちが「どうなってるん?」と確認するのもわかるほど脱線していた気がする。

ルールの一例をあげると「アイドルは恋人を作ってはならない」のようなもので、Newtypeのメインメンバーといえば彼氏持ちのほかセックス、グループ内恋愛、子持ち、暴力、タトゥー、窃盗およびその転売と、許してあげなよーと思うものから警察沙汰まで選り取り見取りだ。これに加えて自殺に追い込むまで酷いイジメを日常的にしている。

見んでもわかる、ヤバいやつやん。

このルール違反を許せないファーンが内部告発し、ルール違反に対して逆上したファンにメンバーがレイプされたことがイジメの原因となるわけだが、そこで私達は理解するのだ。アイドルの唯一のルールは「ルール違反を漏らさないこと」。じゃあなんのためにそのルールが設けられているのか。それはファンに夢を与えるため。あくまで事務所が用意しているシナリオにすぎない。

このシナリオは、アイドルだけじゃなく俳優にも用意されていると、心の奥底で思っている人たちも多いのではないか。だからこそグーグル検索で「男性俳優+彼女」などが関連キーワードとして出てくるのだと思う。
そして彼女だと自分が入る余地がないから、男性同士で付き合っていると思いこんでしまうのではないか。そうじゃないと、共演した女優さんとはカップルじゃないのに、男性同士だとそう思い込む理由が見あたらない。

だからこそファンは推しの「ルール違反」が見えるところまで近づいて暴くのではなく、事務所に用意されたルールの範囲で生活している演技をする、表面的な推しを推すことが互いにウィンウィンなのだと、このドラマを見て痛感する。夢は夢のまま、無理に現実にする必要なんて1つもない。



The debutを見てから私は、推しの真意を図るような行為は一切しないようにしている。その言動に隠された本当の推しを知ったところで誰も幸せにしないから。

以上3作品は、カップル営業多めなタイだからこそ題材にできるものだと思うし、だからといって日本の芸能界は関係ないかというとそうではないので、推し方を見直したいなと思う人にはおすすめ。

あと3作品とも全体的にしっかりした内容で、推し方の話を抜きにしても何度も見てしまうほど中毒性が高い。伏線が張り巡らされている作品や、生死が関わる話題が好きな人にはどれかが刺さるはずだ。

最後に各ドラマの視聴方法をまとめる。

The Shipper
衛星劇場(タイミングが良ければ)
YouTube(VPN必須)

●Lovely Writer
UNEXT
WeTV(VPN必須、日本語字幕なし)

The Debut
WeTV(VPN不要)

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