(短編小説)ロボット
『有明の逆ピラミッド』の入口近くに、一台の自動運転ホバー車が静かに停車した。
ホバー車から降りてきたのは、ドバイの資産家アミール・ハサン。
彼の目的は、ワールド・ロボティクス・ショーで新しい投資先を見つけることだった。
ハサンは何度かこの逆ピラミッドを訪れたことがあり、すんなりと会場に辿り着いた。
入場してすぐに、人だかりになっているブースを発見したが、それは『あの国』の企業のブースだった。
彼はこの人だかりが女性コンパニオン目当てだと見抜き、立ち寄らずに通り過ぎた。
入口で受け取った目録を確認すると、ベンチャー企業のC社が『孔明一号』という汎用ロボットを出展していることが分かった。
しかし、説明文を読む限り、いかにも『安かろう悪かろう』というロボットだった。
ハサンはまず、アメリカの大手IT企業のA社のブースに足を運んだ。
ブースには、三十代の黒人女性が担当者として立っていた。
彼女は『ダンディーパワー』という名の大型ロボットを紹介した。
そのロボットは一目見てパワータイプと分かる見た目で、土木作業に最適な設計が施されていた。
担当者はロボットの強力なパフォーマンスと耐久性を強調し、ハサンにデモンストレーションを見せた。
ロボットが巨大な岩を軽々と持ち上げる様子に、ハサンは感心した。
次に、ハサンはドイツの老舗重工業メーカーのD社のブースを訪れた。
四十代の白人男性が担当者として迎え入れ、『テヒニカー』という名の組み立て作業用ロボットを紹介した。
このロボットは複雑な関節構造を持ち、細かい作業が得意であることが一目で分かった。
担当者はロボットの精密な動作をデモンストレーションし、ハサンにその技術力をアピールした。
ロボットが細かい部品を正確に組み立てる様子に、ハサンは驚嘆した。
その後、ハサンはロシアの軍事メーカーのR社のブースに立ち寄った。
担当者は四十代の男性で、軍事用ロボット『ストライクフォース』を紹介した。
このロボットは無人地上車両(UGV)にトランスフォーム可能で、偵察や爆発物処理を行うことができた。
担当者はロボットの耐久性と多機能性を強調し、ハサンにデモンストレーションを見せた。
ロボットが自律的に障害物を回避しながら進む様子に、ハサンはその技術力に感心した。
次に、ハサンはインドの新興企業のB社のブースを訪れた。
担当者は三十代の女性で、医療支援と接客の両用途に対応したサービスロボット『メディサーブ』を紹介した。
このロボットは病院での患者ケアや手術支援、ホテルやレストランでの接客を行うことができる。
担当者はロボットの多機能性と柔軟性を強調し、ハサンにデモンストレーションを見せた。
ロボットが患者のバイタルサインをモニタリングしながら、スムーズに移動する様子に、ハサンはその実用性に驚嘆した。
最後に、ハサンは日本の企業連合であるプロジェクトNのブースに立ち寄った。
二十代の男性が担当者として立っており、『ネオバトラーV』というホビーロボットを紹介していた。
このロボットはアニメのように人が搭乗して操作できるもので、そのスムーズな動作はさすがに日本製だという印象を与えた。
担当者はロボットの多機能性とエンターテインメント性を強調し、ハサンにデモンストレーションを見せた。
ロボットが華麗な動きを見せる様子に、ハサンは一瞬心を奪われたが、軍事転用のリスクを考え、投資を見送ることにした。
会場を一回りしたハサンは、休憩スペースで缶コーヒーを飲みながら、今日のメモが開かれたタブレットを見て、どの企業に投資するか悩んでいた。
候補は二社に絞られていた。
土木作業用ロボット『ダンディーパワー』を出展しているアメリカのA社と、組み立て作業用ロボット『テヒニカー』を出展しているドイツのD社だった。
飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に捨てに行くと、簡素なブースにアジア系の若い女性が一人ポツンと立っているのが見えた。
ロボットは見当たらず、代わりに10cm程の厚さの鉄板が十数枚積み重ねてあるだけだった。
目録を確認すると、『チャッマニー・サエタン』というタイの女性が個人で参加しているブースだと分かった。
気になったハサンは、その女性に話しかけてみた。
「個人で参加しているとのことだが、肝心のロボットはどこにあるのかね?」
「ロボットならあなたの目の前にありますよ。」
「意味がよく分からないのだが……。」
サエタンはニッコリと微笑むと、後ろに積み重ねてあった『一枚200kgはありそうに見える分厚い鉄板』を軽々と手に取り、それを引き千切ってみせたのだった。
全てを理解したハサンは、彼女に、もとい彼女の製作者たちに投資すると決めたのだった。
◆
数日後、ハサンは帰国の途に就いた。
飛行機の窓から外を眺めていると、逆ピラミッドがゆっくりと変形し始めるのが見えた。
巨大なロボットに変形した逆ピラミッドは、まるでハサンに別れを告げるかのように手を振っていた。
ハサンは驚きと共に微笑み、未来の技術の可能性に胸を躍らせながら、飛行機は空高く飛び立っていった。
―――
最後の巨大ロボットのくだりは、やはり蛇足だったかもしれません……が、折角チャットAIが追加要素として提案してくれたので、載せることにしました。