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「問い」と「混沌」から始まる、ロンドン大学院生活

大学院留学のためにロンドンにきてから早くも2ヶ月。前回noteで生活基盤の構築もひと段落し、2024年9月から本格的に大学院での授業がスタートしました。

※前回の記事はこちら ↓↓↓

今回の記事では、所属するロンドンの美術大学院 Royal College of Art と、専攻の Master of Research での取り組みや体験を紹介します。記事を通じて、海外への滞在や留学を検討中のみなさんの役に立てたら嬉しいです。



RCAの「Master of Research」って…?


Royal College of Art (以下、RCA) はロンドンで185年以上の歴史を持ち、創立以来数々のアーティスト/デザイナーの輩出を通して社会に良いインパクトを与えて続けている美術大学院。私の所属する「Master of Research」(以下、MRes) は新設の専攻で、アートリサーチ/デザインリサーチへの知識と実践の提供と、博士課程を視野に入れた研究/論文作成を支援するというコースです。

コースの説明で「Interdisciplinary」という表現が多々使われるよう、アート/デザイン/プロダクト/ファッション/デジタルテクノロジー/建築など、分野を超えたメンバーが集まりお互いのテーマについて議論しながら授業と研究を進めています。


本編に紐づいて、はじめに自己紹介と留学の目的を簡単に。
わたしはデザインファーム「Scanner Inc.」の代表/デザインディレクターとして、主にブランディングとUIUX領域からクライアントの成長をサポートしています。

事業の中でも、特にブランド構築・組織学習の事業と紐づいたコミュニケーション (Communicaton) と教育 (Education) 領域で国内外の視野から知見と実践を深める必要性を感じて2024年からRCAに進学しました。

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大学院生活の始まりは文化の混沌から

RCAの学期開始は9月から。始まりの1週間は「Welcome Week」として学部や専攻コースを超えたさまざまなイベント交流が催されます。イギリス国内はもちろん、ヨーロッパ・アメリカ・中東・インド・アフリカ・アジア etc. さまざまな民族性の学生が集まり多様なトーンの英語が飛び交う様子は、まさにクリエイティブ・カオス!

そんな会話の中では、自分のバックグラウンドや学校での学習目標が相手に伝わる形で言語化するスキル、そして相手が伝えようとしている意図と内容を読み取るスキルが実感ベースで育まれるのを実感。「正しい」英語発音よりも、いま自分が話せる英語を自信を持って話す重要性を考えさせられます。

コースと形態によりますが、パートタイム(2年)なので週3講義 (2日対面+1日オンライン)
メインキャンパス裏のハイドパークでランチ、写真に映る数倍の人数が!

翌週からは早々に授業が開始。各専攻によってプログラムは多様ですが、所属の MRes では自分自身の研究テーマに対する「問い」を立てるワークショップからスタート。

ワークの課題は『自分の研究テーマはどのようなキーワードで表せるか?』『それは自身のコンテクストとどう紐づいているのか?』『研究を最も体現できるマテリアルはどのようなものか?』といった数々問いに対する言語化。

ワーク後には「言語化を資料にまとめた上、翌週は約60人の学部生が一人ひとりステージに立ち、全員の前でプレゼンテーションを行う」という実践課題が。一見シンプルなタスクですが、1週間の期限で課題から英語プレゼンの資料作成をひとりで実施する体験はなかなかスパイシー…!

ワークショップの内容の一部
特に好きだった授業の一コマ「…『リサーチ』っていっても実際全然リニアに進まないし、問いと実践の往復でグチャグチャだから大変よねッ!!」と率直なコメント

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研究とは「自分自身の問い」に応えていくこと

これらの体験で得られたのは「問いを通じて自身の目的を明確化するプロセス」と「母国語以外の言葉で意思疎通を効果的に図るコミュニケーション」の2点の学び。

前者に関して、「良質な問い」とは、個人的は「その1つから複数の深い探究を生み出すもの」と捉えているのですが、実習課題の中でも『あなたの研究は自身のコンテクストとどう紐づいているのか?』の示唆は深かった。

…というのも、この問いに応えるためには、「なぜ私はこの問いに答える必要があるのか」「私の中にどのようなオーセンティシティがあるのか」「そもそも問いに向き合える資質を持っているのか」…といった前提に一人称で応える必要性があり、漠然としていた目的が明確になっていくのは快感。

この気づきはプロジェクトにも活かしたいもの。特にブランディングでは耳障りの良いビジョンやミッションにならないよう、企業の思想や歴史に紐づいた正当性を考えて言語化していきたい。

プレゼン風景。たどたどしい英語に真摯に耳を傾けてくれて感謝
プレ資料の一部。構造化好きはUIUXに身を置くの宿命か…

さらに英語でのプレゼン。60名以上の生徒から視線を受ながら持ち時間2分で自分の考えを適切に述べ、さらには質疑応答に応えるというのはなかなか刺激的。

母国語でのプレゼンのようにうまく進まないことを想定する中で、普段以上に事前資料づくりの精度は上がるし、質疑応答にむけて「どのように打たせて取るか」という事前想定を入念に行ったのは良いトレーニングで、「追い込まれたら、意外にこんな能力発揮もできるんだ!」という自己発見もありました。

尚、英語プレは笑顔と度胸とロジックが肝心。

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1ヶ月の学びと今後について

入学直後ということもありイントロ中心の講義でしたが、大枠はこんな一ヶ月。予習/復習も考えると週3日の講義でリソースはいっぱい。

今回の探究をもとに、冒頭の「ブランド構築・組織学習の事業と紐づいたコミュニケーション(Communicaton) と教育(Education) 領域で国内外の視野から知見と実践を深める」という観点から、自身のリサーチテーマとして「集団が共に未来を目指し、創造性を発揮し続けるために、どのような要件が必要か?」というビッグ・クエスチョンを建てられたのは大きな資産。

その問いを支える大小様々なサブ・クエスチョンに対して、先行研究から得た理論と自分自身の実践を伴って応えていくのが私の研究です。

プレゼンが終わってホッとしたのも実は数週間前。現在では次のフェーズへと進行。実践に向けた論文リサーチやストラクチャの作成に移り、"リニアで進まない"進展と混沌を楽しみに取り組んでいます。研究の続きや英語での授業やコミュニケーションをどう乗り切ってるかといった話題はまた次回。

結びに、授業の中でも特に印象的だった「Research」を説く一言を。

To research is to go in search of, to seek out, to study closely, and with care. The prefix of re- has always interested me as a word-forming element that conveys the sense of a return to an originating source, an undoing of time, a revealing or recovering (that prefix) of a 'truth' that was there all along, hidden, forgotten, yet waiting. But re- has another usage too, describing an act of doing again, anew, once more, as in revive, repeat, reply, repair.

『リサーチ』とは、探し求め・見つけ出し・細かく丁寧に学ぶことです。接頭辞「re-」は、もとの起源に戻る感覚や時間を遡ること、常にそこにありながらも隠されて忘れられていた「真実」を明らかにし、取り戻すことを意味する要素として、私にとって常に興味深いものでした。
しかし、「re-」には別の用法もあり、もう一度、新たに、再び行うことを意味します。たとえば「復活(revive)」「繰り返す(repeat)」「応答する(reply)」「修復する(repair)」のように。

Gemma Blackshaw, 2024

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