脳卒中の歩行分析は4つのポイントを考える
火曜日ライターの松井です!
突然ですが、歩行分析を自信を持ってできていますか?
「上手く歩けるようになりたい」
「痛みなく歩けるようになりたい」
このようなニーズは急性期、回復期、生活期の全ての時期において共通するものです。
特に脳卒中では顕著に歩行障害が残ってしまうことが多く、セラピスト側も歩行分析は簡単なものではありません。
なので、セラピスト、特にPTであれば歩行分析をする機会は多いと思いますが、あなたのしている歩行分析は適切に問題点を捉え、それによって歩行における問題は解決できているでしょうか?
歩行はニーズが高い分、歩行分析が上手くできないということは患者の満足度も低くなってしまう恐れがあります。
僕も学生時代から若手の頃は、歩行分析がよく分からず、ろくにしようとしていなかったので、バイザーや上司から怒られることもありました。
でも、僕が歩行分析に真剣に向き合っていなかったのもありますが、学校で習う歩行分析が複雑すぎることも大きな問題だと思っています。
だってそうですよね。
ヒールコンタクトが〜、ダブルニーアクションが〜、クリアランスが〜とか言うのは簡単ですが、実際に一瞬で過ぎていく歩行動作の中でそれを分析しようとしても難しいです。
なので、必要なのは「歩行分析をシンプルに捉えるコツ」と「臨床的な歩行分析の知識」です。
今週と来週の2回に分けて、脳卒中における歩行と下肢・体幹、歩行と上肢について解説します。
今週は歩行と体幹・下肢について解説しますので、歩行分析が自信を持ってできるようになりたい方は読んでみてください!
遊脚期は一旦置いて立脚期を見る
歩行周期を大きく2つに分けると、立脚期と遊脚期に分けられます。
これを同時に見ようとすると、歩行分析を複雑にしてしまうので、遊脚期は一旦置いて置いて、立脚期だけを分析しましょう。
何故なら、遊脚期の多くの問題は立脚期が原因だから。
例えば、遊脚期のクリアランスの低下は立脚期で上方への重心移動が作れている、あるいは立脚期の安定性が十分であれば、解決できる問題です。
一旦立脚期に焦点を当てて考え、それでも残る問題があるのなら遊脚期へと視点を変えましょう。
立脚期はまずはこの4つ
歩行周期では、踵接地とか立脚中期というふうにいくつかの相に分かれていますが、僕は4つの筋肉に分けて考えて見るようにしています。
理由は2つあって、筋肉に置き換えて考えた方がセラピストは考えやすいと思うんですね。
普段から○○筋を鍛えるには〜とか○○筋を伸張するには〜と筋肉で考えることに慣れているので。
もう1つは、そもそもミッドスタンスとかローディングレスポンスとかの境界が曖昧だから。
臨床で分析する限り、歩行周期の相を分けて見るのは主観的要素が強すぎるし、抽象的でよく分からないです。
それだったら、筋肉に置き換えて考えた方がより具体的になります。
・下腿三頭筋
・大腿四頭筋
・ハムストリングス、殿筋群
・体幹(内腹斜筋、多裂筋)
歩行分析する際は上記の4つを上から順に見ていくと良いです。
何故なら、歩行は上行性運動連鎖が起こるので、下肢の遠位から見ていくことがポイントです。
下腿三頭筋
踵接地時に下腿三頭筋が遠心性に働くことで、前脛骨筋と拮抗して足関節背屈を保ち、膝屈曲による下腿前傾、あるいは下腿後傾を制動します。
脳卒中患者では、麻痺側の底屈、床反力の減少が報告されており、その代償として遊脚期への移行時、股関節屈曲モーメントを増大させる戦略をとることが報告されています(参考文献①、②)。
なので、股関節ではなくて足関節を使う感覚を学習してもらうことがポイントになります。
大腿四頭筋
足関節、下腿が安定し、大腿四頭筋が働くことで大腿骨が下腿に対して前傾することができます。
下腿が安定しないのに大腿四頭筋が働くと、下腿は後傾、大腿は前傾して反張膝をお越し、大腿四頭筋が働かないと膝折れします。
膝関節の矢状面における運動は、股関節伸展とは相関は低いが、足関節・足部の運動との相関は高いことからも、足関節→膝関節のように遠位から考えた方が良いことが分かりますね(参考文献③)。
ハムストリングス、臀筋群
下腿、大腿骨が前傾するのに加えて、ハムストリングスと殿筋が働くことで、重心を前上方に持ち上げます。
ここで骨盤が前傾してしまうと、体幹も前屈してしまって重心を上方へ持ち上げることが難しくなります。
ここでのポイントは、股関節屈筋の遠心性活動が引き出せるかどうか。
上述したように、足関節底屈の弱化に伴う代償として股関節屈筋群の活動が高まる傾向にあります。
そのため、股関節伸展に伴う屈筋群の遠心性活動、および、伸張感を本人が感じられるかがポイントです。
体幹(内腹斜筋、多裂筋)
ここまでの下肢の土台があってこそ、体幹筋群が安定して働けます。
下肢が安定していても、体幹が不安定だと結局どこかしらで代償して局所的に固定的な部位がでて、偏った姿勢や動作になってしまいます。
例えば、上記のハムストリングス・臀筋群の活動によって股関節伸展が起こる時、体幹と骨盤は安定して股関節が伸展することがポイントです。
ですが、この時に体幹筋群が不安定だと、股関節伸展に伴って体幹が前方や側方へ崩れてしまいます。
脳卒中患者では、体幹筋の弱化と筋活動の遅延、歩行中の体幹非対称性や体幹機能の低下が報告されています(参考文献④、⑤)。
特に立脚初期、立脚終期、遊脚期にかけては内腹斜筋と多裂筋の同時収縮が起こることが報告されています(参考文献⑥)。
外腹斜筋も内腹斜筋と同時期に活動しますが、内腹斜筋と比較すると活動性は半分以下です。
骨盤と体幹の安定のための内腹斜筋、脊柱の安定性と体幹前傾の制動のための多裂筋の活動が重要ということです。
まとめ
まとめると、闇雲に大腿四頭筋や殿筋の筋トレをするのではなく、まずは今回紹介した下記の4つに分けて問題点を考えてみましょう。
・下腿三頭筋
・大腿四頭筋
・ハムストリングス、殿筋群
・体幹(内腹斜筋、多裂筋)
問題点を見つけた上で、まずは臥位でターゲットの筋肉の収縮を促してみるとかいう目的の運動はOKです!
問題点も明確じゃないままに何となく筋トレするのがNGです。
例えば、ハムストリングスや殿筋群の出力低下による、重心の前上方への移動が難しい症例は多いです。
そのような症例の場合、学習すべきポイントは股関節前面の伸張感覚、ハムストリングス・殿筋の収縮感覚です。
なので、きちんと股関節を伸展位にして股関節前面の伸張感を感じてもらうこと、それを殿筋などの収縮によって起こすということが大事です。
勘違いしてはいけないのが、スウェイバックなんかは骨盤後傾位でも殿筋の収縮はないですが、股関節前面の伸張感は得られてしまいます。
これは正しい学習ではないので、こういった代償には注意しつつ運動療法を促していくことが大事ですね!
参考文献
1.Jessica L Allen et al : Step length asymmetry is representative of compensatory mechanisms used in post-stroke hemiparetic walking. Gait Posture. 2011;33(4):538-43.
2.Jessica L Allen et al : Three-dimensional modular control of human walking. J Biomech. 2012;45(12):2157-63.
3.Sharon Kinsella et al : Gait pattern categorization of stroke participants with equinus deformity of the foot. Gait Posture. 2008;27(1):144-51.
4.Ruth Dickstein et al : Electromyographic activity of voluntarily activated trunk flexor and extensor muscles in post-stroke hemiparetic subjects. Coin Neurophysiol. 2004;115(4):790-6.
5.G Verheyden et al : Discriminant ability of the Trunk Impairment Scale: A comparison between stroke patients and healthy individuals. Disabil Rehabil. 2005;27(17):1023-8.
6.Christoph Anders et al : Trunk muscle activation patterns during walking at different speeds. J Electromyogr kinesiology. 2007;17(2):245-52.
ライタープロフィール
松井 洸(まつい ひかる)
理学療法士、リハ塾運営者(月間最高PV22万)
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