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【01】穏やかな決断/30歳の女は海外で暮らしたい

「海外で暮らしてみたい」
それは私が20代後半だった10年前、生きている間に一度は叶えたい願いの1つだった。

その頃の私はフルタイムの会社勤め。仕事は順調で、安月給ながらも意見の通るポジションをもらっていたし、それなりにやり甲斐もあった。金曜の夜は同僚と呑みに行ったり、週末は好きな映画を一日中観たり、友人と少し遠出して美味しいものを食べに行ったり、とにかく不自由なく、むしろ自由気ままに生きていた。

特に過不足のない生活。
平凡の中の平凡。
刺激はないけれど不満もない。
わざわざ言葉にするのが忍びないほど本当にフツーなのだ。

そんな中、心の中にある1つの想いに気付いた。
「海外で暮らしてみたい」
気付いたキッカケは何だったのだろう?
今では思い出せもしない。
その当時聞いていた音楽か、観ていた映画の影響だろうか。
きっとそうだ。
だって気に入った映画はセリフを覚えちゃうくらい何回も観る人だから。

この想いは、急にビビッとひらめいたとか、「一度きりの人生だ!自分の好きに生きてやるぜ!」とか、よくある自分探し的なそんな勢いのあるものじゃなかった。
全くそんなんじゃない。
もっと穏やかで日常的で、熱くも冷たくもない、すごく冷静な思考の一部のような想いだ。

ただし、この想いは少しだけ厄介だった。
なにせ日に日に大きくなって存在感が増すんだから。
気にならないわけがない。

そして28歳のとき、とうとう私はその存在を無視できなくなった。
「やるなら今なんだろうなぁ」
それでもまだ他人事のような感覚だったが、とりあえずやってみようと決めたのだ。

その後2年で200万ちょっとお金を貯めた。
目的は海外で暮らすことだから、必然的に短期の旅行という選択肢はなかった。最短でも半年、長ければ長いほどいい。なんとかして海外の1つの場所で暮らしてみよう。

ほぼ消去法だけど、行く場所はもう決まっていた。

イギリスだ。