どうしてこうなった? 〜青春懐古譚『17 AGAIN』と『メリリー・ウィー・ロール・アロング』〜
※この記事はネタバレを含みまする。
立て続けにホリプロのミュージカルを2本観た。
池袋のBrilliaホールでやっている『17 AGAIN』と新国立劇場でやっている『メリリー・ウィー・ロール・アロング』だ。
最高のパーティーミュージカル
『17 AGAIN』は2009年に上映されたザック・エプロン主演の洋画を原作としていて、ミュージカルとしては日本発のものになる。
あらすじはこうだ。
主人公・マイクは、高校時代にバスケのスター選手として華々しい時を過ごすも、我が子を身籠った愛するガールフレンドとの結婚を選んでその道を諦めてから、いつしか「今頃バスケの選手だったら」と事あるごとに嘆く無気力な小太り中年になってしまった。
家族も仕事も運も彼を見放したかのように思えた時、母校で怪しげな用務員に誘われ、なんと自分の身体だけが17歳に戻ってしまう!
イケイケだったころの魅力を味方につけて、同世代となった娘や息子の悩みに友として寄り添い、離婚寸前の妻とも息子の友人として心を通わせるように。心残りを解決して無事に元の姿に戻れるのか!?
なんともまあオチの予想がつく単純明快なフィクションだろうか。映画のザックのイメージもあってか、もはやディズニーチャンネルの映画にしか思えない。
実際、アメリカの高校のスクールカーストあるあるが詰まったクリシェの連続で、ある意味ものすごく安心して見られる。ほぼほぼ、ハイスクールミュージカルとグリーを見ている時の気持ちと変わらない精神状態が得られるといえば分かりやすいだろうか。
元の映画と比べられないので演出がどうなのかはいまいち判断がつかないけれども、とにかくホームパーティーで流しておけば誰も文句を言わない映画であろう事は分かったし、同年代なら誰を誘っても気まずくならない作品であることは確実だ。
今回特に良かったのは、とにかく竹内涼真だ。
さわやか高身長イケメン好青年なのは知っていたけれど、仕事の関係がなければ彼だけではこの舞台は見に行っていなかったかと思う。
まさか…まさかこんなに歌えたとは…歌いながらあのクオリティのダンスが出来たとは…あんなに身のこなしが軽くて華があったとは…これはミュージカル一本の俳優さんたちさぞ脅威なのでは?
紛れもなくクラスの中心でキラキラしている上に、弱きを助け強きを挫く"風早くん"的正義感も嫌味なく、コメディもさらりとして上手い!
この才を知っていながら初舞台をここでキャスティングしたホリプロのしたり顔は想像に固くない。これからもきっと活躍するだろう。
私はミュージカル刀剣乱舞のファンなので、有澤樟太郎くんにも目を輝かせていたのだけれど、竹内さんに見劣りしないスタイルの良さで、知能指数3くらいの悪ガキ役を上手くこなしておられました。
ヤラせてくれないから彼女と別れる本能脳みそタイプで、役としては惚れられたもんじゃないし、見せ場は「I(愛)はHのあとだぜぇ♪」とクズみたいなことをいいながら桜井日奈子ちゃんをベッドに押し倒し、コンドームパックのリボンを歌舞伎の蜘蛛の糸かのように解き放つ曲のみだったため、正直良く受けたなこの役…とは思いつつも、キャリアとしてアピールにはなったのではないかと思います!(何目線)
ミュージカルナンバーとして良かったのは、17歳に戻った後のマイクが、エハラマサヒロ演じるオタクの親友・ネッドの部屋に助けを求めて転がり込む場面から。彼は唯一マイクが若返りを打ち明けた人物であり、何の疑いもなしにそれを信じた男でもある。
プログラム未購入で分からないけど「セブンティーンアゲイン〜」と歌うので、たぶんタイトルナンバーなのではないかと思う。
トンデモ体験を語るマイクを他所にネッドは、スターウォーズやハリーポッター、マーベルなどのグッズに埋め尽くされた部屋で、今回の不思議現象について早々に考察を始める。
「用務員は運命を司る妖精だった。君はやり残したことをやり遂げればきちんと元に戻れるさ」と疑いもなく当然のように結論づけるネッドに、マイクが「お前の好きなサイエンスフィクションやファンタジーじゃなくてこれは現実なんだ!」と糾弾しても、そもそも物語を信じている我々観客としてはネッドに1票!という気持ちにもなり、曲が進むうちにファンタジーとリアリティの狭間でいい感じにタイムスリップというトンデモ現象のショックが和らぎ、物語の世界に馴染んでいく。
「おもしろいね!なぜだかセブンティーンアゲイン〜」てな感じで明るく2人で掛け合うロック調の曲、間違いなく本作のトップランナーだろう。
ネッドの部屋の曲以外も、雨に打たれながら竹内涼真がソロで声量を見せつける前半最後のナンバーなんかも良かった。
ソニンさんの繊細で人を惹きつける役所も、作品全体をキュッと絞めていた!
2日経ったら中身を思い出すのが本当に大変なくらいあまり身体の中に残るものはないが、ワクワクした時間は細胞をもまたワクワクさせてくれたはずで、健康という形で還ってくるだろうと思う☺️
胸の奥深くまで届くセンチメンタル
メリリー〜は、ギリギリまで行くか行かないか迷っていた。ちょっと金欠ということもあったし、主演3人をどうしても観ないと死んじゃう!という気持ちもなく、どんな話かもあんまり知らず…
ただラミン・カリムルーとハドリー・フレイザーの配信ライブで聴いた「Old Friends」がとっても良い曲だったのと、ぼくたちのあそびばで推している井坂郁巳くんがアンサンブルで出演していたので結局気になって、U25で購入。代休使って観に行きました。
チラシに"逆再生"ミュージカルとある通りの意欲作で、ジャンルとしてはいわゆるブロードウェイのバックステージものというやつ!
ショービズで成功したある男が開いたパーティーの場面から始まり、そこから2年また3年と時間軸が遡っていって、「なんでこうなった?」の連鎖が原体験たる象徴的なシーンに繋がっていく。
公式あらすじ
フランク(平方元基)は、ブロードウェイの名もなき作曲家からハリウッドのプロデューサーへと転身し、大成功をおさめる。
多忙を極める彼には、下済み時代に親しかったチャーリー(ウエンツ瑛士)やメアリー(笹本玲奈)と会う時間もなくなってしまう。
波乱万丈な人生を送り、名声、富、成功を手にしたが、大切なものをどこかに捨ててきてしまったことに気づく…。
フランクは、人生の岐路を振り返り、思い出したのは20年前。
それは3人が出会い、決意したあの瞬間だった…。
夢を追い求めたことのあるすべての人に贈る。
これが、思っていたよりとっても心に残る作品になった。
腑に落ちてスッキリする筋でないことがかえって心にちくりと棘を刺し、そのつっかえがじんわりとしたセンチメンタリズムに変わっても、まるで初めからそこにあったかのように心の懐かしい場所に腰を下ろしたような、そんな観賞後の気持ちになった。
特に好きだった曲は2曲。スティーブン・ソンドハイムはよく、名作だけどメロディが覚えづらいとかとも言われるんだけども、中ではきっとポピュラーなナンバーだと思う。
まずは先述した「Old Friends」。
3人が絆を確かめ合える魔法の合図の様な曲であり、どんどん解けていく友情の系をかろうじてとどめさせらたいという切ない想いにも呼応する名曲だ。
まさにshow bizがはじまるようなワクワクする予感をくれるビッグバンドビートで、3場面ほどにわたってたびたび登場し、また他の曲の下敷きにも巧みに取り入れられる。
友達3人との大切な日に陽気にかけたくなる様な素敵な曲を、人生のセトリ候補に追加できてとっても嬉しい。
そしてなんといっても最後の「Our Time」!
これは単体でミュコンで歌われているのも聴いたことがあったけど、この作品だとは知らなかった。
いわゆるミュージカル特有の「何か特別なことが始まる気がする」トキメキを一心に感じられて、そのあまりの純粋な可能性の大きさになぜか泣きそうになるくらいの綺麗なメロディの曲なんだけれども、ストーリーテリングを踏まえてのここでのこの曲っていうのがズルい。
あらすじの通り、最悪の形で解散している状態の仲良し3人組をはじめに観させられたあとに、だんだんと時代を遡り、「なぜこうなったか」を追っていく。
なぜ仲違いした?仲違いした原因であるこの契約をなぜした?契約をしたこの船に何故乗った?なぜ旅に出るほど離婚がキツかった?なぜ浮気した?なぜ結婚した?なぜ仲良くなった?
ひとつひとつ、昔話を聞く様に、絵本を後ろからめくるように、見えなかったパズルのピースが見えてくる。
過去と現代をいったり来たりする話や、過去に戻ってから現在が一気に進んでいく話は多々あれど、ひたすらに遡るだけの構成は私は初めて見た。正直、ちょっと頭の中を整理するのが大変で、ややノイズになりかねないくらいの分かりづらさはあったけど、このオチのためなら仕方ないと感じた。
要するに、目も当てられない惨状から始まって、そこが救われてほしいと思っている観客に対して、与えられるのは「どんどんピュアになっていく彼ら」でしかないのだ。
ああここではここまではまともだったんだ、ここでこの掛け違いがあったんだと、なにかの皮を1枚ずつ剥がすように物語が進んでいく。
刑事ドラマで犯罪者にも正義があったことが分かった時とか、ボケて暴言を吐く様になった老人が実は臆病なだけだと知った時とか、そういう類の虚しい切なさがある。
もちろんそこまで酷い性質のものではないけど、3人それぞれの純な想いが真っ直ぐすぎるがゆえに、少しずつ現実という荒波に揉まれるうちいつの間にかコンパスがズレていて、気がついたら全く別のところを目指していたということだ。
その友情が壊れることを知っていながら、3人組誕生秘話を追うことは、余命僅かの愛犬の走馬灯でも見ているかの様な辛さがある。
でも時を戻るごとに3人はより生き生きと楽しそうに、そしてやはりその時々を懸命に生きている。
それがたどり着く先が、彼らの初めて出会う学生アパートの屋上、明けの明星とスプートニクを見ながら、将来を語らったあの時なのだ。
鬱陶しいほどに何度もメアリーが語る"あの頃の私たち"は、これ以上ないほどに夢以外何も持っていない。それはそれは尊い瞬間であり、ある意味彼らの頂点でもある。もちろん、大人はそこに立ち止まったままではいられないから、この話がこうして成り立つ訳でもある。
曲が盛り上がっていくなか、観客は悟る。ああこのミュージカルはこの曲がラストナンバーだ、現代に戻って彼らが再び集うなんていう夢みたいなことは起きないのだと。
この曲はそんな哀愁をよそにただただ希望に満ち満ちた素晴らしい彼らの"オープニングナンバー"であり作品の"ラストナンバー"なのだと。
そう気が付いたときにズンと響く胸には、彼らだけでなくいつしか自分が失ったそういった関係とか夢とか時間までもが一緒になって、抱きとめるべき喪失感が込み上げる。
1番綺麗で1番脆かったこの瞬間の眩さを最大限に見せつけて、パッと終わる。なんてものを見たのだろうか。
皆がみんなこう思うわけではないだろうけど、ハッピーゴーラッキーではないのに、おばさんになってまたやっていたらきっと見てしまうであろう、そういう抗えない真実を見せてくれる作品だったと思う。
大人と子供のカード
大人ってこんなもんかと、そろそろ私たち世代は気がついている。
近所のお姉さんは、友達のお兄さんは、あの時大人だったのではなく、さして子供と変わらないまま、TPOシリンダーにセットできる大人カードをたくさんデッキに持っていただけだったのだ。
自分の中の子供のままの部分は大事にしたいけれど、一方で、アプデされていなくて辟易とする部分もある。文章力とか、教養とか、忍耐力とか、感性とか。
未だに私が高校の卒業式で読んだ答辞を褒めてくれる友人がいることはとっても嬉しいのだけれど、私の中身ってここから少しでも成長しているのか?と思うのが怖くて、過去の栄光からは積極的に遠ざかる様にしているのがここ数年だ。
『17アゲイン』のマイクのように、輝かしいキャリアをぷつりと高校で切った訳ではないけれど、「昔取った杵柄」的な中年像はやや身をつまされる想いがあった。
あの話は正直、見た目が良ければ人生やり直しやすいみたいな解釈もできて笑っちゃう感じもあるのだけれど、それでも素直に、いじけ腐った自分の過ちを認めたマイクはそれが大きな転機となった。トンデモミラクルが起きなくても、あれが出来る人間でありたい。
『メリリー〜』がぐさぐさと私を刺したのは、まさに遡っていく彼らの途中くらいに私がいるような気も少しするからなのかもしれない。
文化的な夢に溢れた楽しい友人たち。それぞれ仕事も家庭ももちろん別。まああれは業界で大成功してから大変だねという話だけれど、やっぱり人生はいろいろあって、さまざまな方向にみんな歩いていくんだろうか。いつしかずっと"屋上の私たち"のことばかり語って、一度だけ出したベストセラーの後何も書けずアル中になってしまったメアリーのようになるんだろうか。
そこまで真剣に心配はしていないけれど、そんなそとが頭をよぎってしまうくらいには、1934年のミュージカルでも自分の深いところに沁みてきた。
急な参照だけれども、テレビドラマ『コントが始まる』で仲野太賀演じる売れない芸人が、高校から付き合っている社会人の彼女の誕生日にかなり仰々しい、子どもぽいともとれるサプライズを企画し、結局当日仕事で彼女が来られないというくだりがある。その前後で「高校から時が止まっている」と、起業して社長になった元同級生から笑われる描写もあり、そうした点を考えさせれる回だったのだと思う。
ただ、菅田将暉演じる同じグループの春斗が言うに、「あいつは変わってないんじゃない。あえて変えてないんだ。そこが武器だと思ってるから」と。
結局、芳根京子演じる彼女さんは、面白さではなく「人を笑わせるためにそこまでできる」彼が好きになったのだと言う話だったのだけれど、「あえて変えてない」という台詞がなんだか胸に残った。
子供の頃から持っているカードに加えて、大人になるにつれて入手した様々なカードを迎え、その日の試合に合わせて最適なデッキを組んで臨む私たち。
今手に取ろうとしているのは、しばらく封印した方が良いカードなのか。自分にとっての"あの屋上"の自分はどのカードだろう。気恥ずかしいからって、そのカードは本当に捨ててもいいのかな?
そんなことを考えて、やっぱり自分の手持ちをぎゅっとしたくなる。でもたくさん後続の椅子は空けておくよ?とも思う。
現実ではもちろん17歳には戻れないし人生も逆再生しないけど、そんな気持ちになった懐古譚2本でした。
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